第17話 

 扉を越えた先の階段を地下に降りていくと研究員が集まっている部屋が有った。中を覗くと強化ガラスで仕切られた向こうの部屋でミコトがベッドに寝かされ拘束されているのが見えた。


 今すぐ実験を止めさせなければ取り返しがつかなくなる、だが僕にはその手段が無い。


 問題はそれだけじゃ無かった、ここに第一皇子アルフォードが居た事によりレオナ達の動きも封じられてしまっていた。


「アルフォード様、何故こんな所にいらっしゃるのですか? まさかこの馬鹿げた実験を主導していたのは貴方なのですか?」


「何だ貴様、余に意見するつもりか不届き者が! どこの部隊の者だ、名を名乗れ」


「失礼致しました、自分は陸軍所属リリアナ・ペッタンコット少佐であります」


「ペッタンコット? そうか貴様パラスの娘か、丁度いいコイツを不敬罪で捕らえよ、言っておくが逆らえばお前の一族を反逆罪で根絶やしにしてやるからな」


 皇子の脇に立っていた護衛らしき男がリリアナを捕らえようと近づいてリリアナの胸部を嫌らしい目付きで見ながら手を伸ばした。


「捕らえるついでにコイツの体を撫で回しても良いすか? オラこんなペッタンコで平らでツルペタな体が大好物なんだす」


「好きにしろ。それとそっちのお前、ガルムハートの娘だな? お前も抵抗するなら国家反逆罪で処刑してやるからな」


 皇子はレオナがリリアナを穢らわしい手から守るために男に斬りかかろうとしているのに気付いていた。


「レオナ様は関係有りません、私を捕らえたいなら好きにしなさい」


 リリアナはレオナを巻き込みたく無いから自ら体を差し出した。


「ほんじゃまちょっくら楽しませてもらうべ」


 男の手がリリアナに触れる直前、レオナの右ストレートが男の顔面にめり込んだ。


「私が国家反逆罪だと? ならば人心を惑わし操る貴様ら魔族には世界反逆罪でもくれてやればよいのか?」


「コイツ魔族だったんですか? どうして分かったんですか?」


 リリアナの疑問に「あれだ」とレオナが指差した先には‘マゾク’と読める形に並べられた薬草が浮いていた。


 確証はなかった、だけど僕にはコイツが魔族だという確信があった、なぜならコイツは鑑定が出来なかったしアルレッキーノの仮面軍団と同じ臭いがしていた。


「ケタケタケタ、良く俺がスケルトンだと見破ったな」立ち上がった男の顔はボロボロと崩れて髑髏を覗かせている。


「貴様アンデッドか……皇子こんな魔族と通じて一体どんなおつもりなのですか? 皇帝陛下がお知りになったらタダでは済まされませんよ」


「ククククク、ハーハッハッハー。父上がどうだというのだ、あんな老いぼれの時代はとっくに終わったわ! これからは余こそ至高、余こそ絶対の時代が幕を開けるのだ!!」


「なんと愚かな……リーナお前は研究員達を避難させて骸骨を潰せ、私はこの馬鹿皇子の目を覚まさせる」


「分かりました。さあ死にたくない人は実験を中止してさっさと出ていって下さいよ」


 言うが早いか研究員達は所長の静止も聞かず逃げ出して、此処に残ったのは皇子と所長とスケルトン、そしてミコトだけになった。


「さてと、貴方さっきはよくもペッタンコだの平らだの言ってくれましたね、しかもその穢らしい手で私の豊満な胸を揉みしだこうとするなんて万死に値します」


「何が豊満だコラ、オマエのその抉れた胸なんか―――――」


 スケルトンは何か喋っている途中でリリアナに消し炭にされてしまった。「あ〜スッキリした!」リリアナは笑顔でそう言うと、次は所長の胸ぐらを掴みミコトが拘束されている部屋を開けるように詰め寄った。


「今さら実験を中止出来るわけが無いだろうが! この実験で結果を出せなければ儂の命が危ういのじゃ」


 所長の命とミコトの命、僕らにとってどちらが優先されるのかは言うまでも無い。レオナとリリアナに睨まれた所長が渋々実験場の扉を開けようとした時、巫女姫がやって来た。


「やっと見付けたのじゃ! わっちの目を掻い潜ってここまで逃げたのは褒めてやるが、それもここまででありんす」


 ミコトを此処から連れ出す邪魔をされて、僕の心に黒い感情が芽生えたのを感じた。


「クスハ邪魔をしないでくれ、僕は君の兄さんの仇じゃない、僕はこの世界に来てまだ一ヶ月しか経ってない、半年前に君の兄さんを殺すことなんて出来っこないんだ」


「兄様が殺されたのが半年前と何故知っている? それがお主が犯人である何よりの証拠、語るに落ちるとはこの事でありんす」


「違う! 僕は君のことを鑑定したから知っているだけだ」


「鑑定じゃと? それが勇者にしか使えんと知って言うとるのかや? お主が勇者と言うなら証である星紋を見してみい」


 鑑定が勇者専用のアーツなんて初耳だぞ、それに星紋も僕に付いてる訳無いし……話し合いは無理なのか。早くミコトを連れ出したい、焦る僕の心は更に黒い感情に支配されていく。


「あのー、私にはアラトさんは見えませんし声も聞こえないので恐縮ですが、アラトさんが勇者かどうか、という話なら勇者だと報告を受けているのですが」


 リリアナが僕に助け船を出してくれたが、巫女姫は聞く耳を持っていない。


「当代の勇者は一人だけ、それにコイツには星紋も無い。他の誰を騙せても、わっちの目は欺けないでありんす」


 我慢の限界だった、僕は巫女姫に向かってとても汚い言葉を発しながら、持てるすべての力を使って攻撃を開始していた。

 

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