第15話 巫女姫

 ミコトが連れて行かれた研究所は帝都の城壁の外にある広大な帝国軍基地の中に有る。


「関係者以外立ち入り禁止? そんなの関係ないね」


 門が閉まっていようが、警備兵が居ようが認識不能な僕を止めるものは何も無い。 僕は門の隙間をスルリと通り抜け敷地の中に入っていった。


「やっと……やっと見付けたでありんす!」


「へ?」 敷地に潜入すると目の前に銀髪の狐人フォックスヒュムの娘が立っていた。


 まさか僕の事じゃないよな、見えてる訳無いし知らんふりしよっと。


「待ちなんし! 透明になったとて、わっちの目は誤魔化せんでありんす、兄様の仇討たせてもらいんす」


 残念ながら彼女の目はこっちの動きを追っている、しかも何か恨みを買っている様だ。


「ちょっと待て人違いだ、僕は君の兄様に会った事なんて無い、ましてや殺したなんて……そんな事していない!」


「何を戯けたことを、わっちの優しかった兄様の体を切り刻んでおいて、このバケモンが!!」


「巫女姫様、ここに魔族がいるんですか?」「場所を教えてください、我らで取り押さえます」「巫女姫様を援護しろ」


 騒ぎを聞き付けた警備兵が集まってきたが、僕にとっても有り難かった。この中に紛れれば上手くここから離れられる。


「塵旋風」

 風を念動で操作して砂を巻き上げる技なんだが目眩まし位しか出来ない、でもこの場面には丁度良かった。目眩ましが効いている内に目を付けておいたニューマン軍曹に憑依した。


「うぅ、何処に行きんした?」


 巫女姫は目に入った砂を払いながら僕を探している。どうやら【幽世の魔眼】と違い憑依した僕は分からなくなるらしい、どんな力で僕を認識してるのか気になったので彼女を鑑定しておいた。


「鑑定」


 クスハ・サンクト・ネビュラ

 Lvレベル:25

 狐人フォックスヒュム 星炎術士

 星光聖教国の三聖女の末妹。半年前に殺された兄の仇「ヒエキ」を探すため教国を飛び出して来た。‘‘巫女姫’’は通り名。


 教国の聖女という事は勇者の仲間だろうに、なぜに僕を魔族と間違える? それに魔眼系の力は持ってないのに僕が見えているのも分からない。これ以上関わらないのが得策だな……あの尻尾はモフりたかったが諦めよう。


 気付かれないようそっとあの場を離れて研究所までやって来た、ニューマンの記憶を見たことで此処までは迷わず来れたが内部の構造は分からない。


 もうニューマンに用はない、中に入ってしまえば巫女姫に見付かる事はないし、一人の方が自由に動き回ってミコトを探せる。


「さらばだ」 僕は憑依を解いてそそくさと研究所に入った。


 中は静まり返っていて人の気配がない、近くの部屋から順に探して回ったがミコトはおろか誰一人として居なかった。


「ミコトが連れてこられたのは此処じゃなかったのか? もう解放されたのか? それとも……」


 最悪の事態になってる可能性が頭を過った、なぜなら調べられて無いのはこの‘‘実験室’’と書かれた扉の先だけだ、しかもこの扉は頑丈で気密性が高い、隙間がないから中に入る事が出来ないのだ。


「おーい、誰かおらんのか? 勝手に入るぞ」


 扉の前で中に入る方法を探っていると、入り口の方から声が聞こえて来た。聞き覚えがあるその声に誘われて入口に向かうと、やはりレオナとリリアナだった。


「レオナ様くれぐれも穏便にですよ、研究員と揉め事なんか起こさないで下さいよ」


「わかっているさ、リーナは私をなんだと思っているのだ」


 (どーせあの子の事になると周りが見えなくなるくせに)

 リリアナは不服そうに頬を膨らませている。


 二人はいつも通り仲よさげに話をしている、そんな二人の邪魔をしたくはなかったが、扉を開けてもらうためにアイテムボックスから薬草を取り出し、彼女達の目の前にふわふわと浮かべ手招するように上下に振ってみせた。


「な、な、な、なんですかこれ!」


 突然のことにリリアナは驚いていたが、レオナは何かを考えている。


「これはもしや、ミコトが大好きな私を呼んでいるのではないか? おまえもそう思うだろリーナ」


「はいはい、そうですね」 またもリリアナは不機嫌そうに頬を膨らませている


 とにかく二人を誘導して実験室の扉を開けて貰わないと、嫌な考えばかりが頭の中を支配してくる。


「実験室か……ここには入れんな」


「そうですね、さすがに無理ですね」


 扉の前に着いた二人は実験室と書かれたプレートを見て表情を曇らせた。


「この扉は所長の『サイモン・マット』か、皇帝に臨時権限を与えられた者にしか開けることは出来ない」


「そうですね、臨時権限を申請するにも正当な理由が無いですし、サイモンが出てくるのを待つしか無いですね」


「聞いての通りだ『コモリ アラト』、私達だけでは中に入る事はできない」


 二人にも僕が見えてる……訳でも無さそうだ、なんせ薬草に向かって話し掛けているのだから、でも何故僕がいる事がわかったんだ?


「何故知っている? といった感じだろうか、お前の事はミコト・・・から聞いた、もちろん勇者であることも知っている」


「まぁ、ほとんどはあの喋る人形から聞いたんですけどね」

 

「おほん、私達だけでは無理だが、勇者の要請ならば扉を破壊するのも仕方ないという事だが、それで良いな」


 僕は勇者じゃないんだが、扉を破壊してくれるなら話を合わせてもいい、頷くように何度も薬草を縦に振った。


「よし、リーナ白炎を出せ」


「我求めるは貴き白蛇、炎となりて顕現せよ」リリアナが詠唱を終えると白く美しい炎が現れ、レオナが構えた剣を包んでいく。


「白獅子爪」


 レオナが剣を振り抜くと扉には三本の爪で引き裂かれた跡が現れ、そこから一気に溶け落ちた。


「これで私達を阻む物はない、行くぞ」


ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ


 レオナが一歩足を踏み入れた瞬間、けたたましくブザーが鳴り響いた。


 

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