第14話 それぞれの

 飛空艇の墜落現場から帝都まで戻るのに十日も掛かってしまった、リリアナが迎えに来た時に飛び降りておけば皆と一緒に帰れたのに、足が竦んで飛べなかったなんて恥ずかしくて誰にも言えない…まぁ、そんな僕の話は置いといて皆がどうなったかの話をしよう。


【ケイとエル】


 エルは帝都に着いてすぐルガールに連れられてケイの居る病院を訪れた。


「ケイちゃん」「エルちゃん」

「よかったね」「よかったね」


 二人はお互いの無事を喜び、安堵の涙をながした。


 ケイの病気は回復術士ヒーラーの治療を受けたお陰ですっかり良くなっていたが、長期間の監禁生活による栄養失調、体力低下が別の病気を引き起こす可能性がある為、エルと二人で入院することになった。


 入院している間に憲兵隊が二人の両親を見つけ、親子の再会も叶った。

 ニュートンの調べによると、二人は半年前に誘拐されてあの地下牢に閉じ込められていた、その間も両親は二人を探し続け、似た子が居たという噂を聞く度に現地に飛んで行っては「うちの子じゃない」と落胆し、それでも希望を捨てずに探していた。

 そんな両親だからこそケイとエルも再会出来た時は抱きついてしばらくの間離れなかった、両親も「もう離さない、決して離すもんか」と感涙にむせびながら二人を抱きしめていたという事だ。


 そして退院の日、見送りに来たルミリアと「また会いに来るからね、私達の家にも遊びに来てね」と約束をして自分達の家であるエルフの森に帰って行った。


【リザードマンと新右衛門】


 リザードマンとは、ロアー砂漠の出口で別れた様だ。

「オレ、コキョウカエル、ココデオワカレ」とミコトとエルの頭を撫で、他の者とは固い握手を交わし去っていった。


 残念ながら新右衛門は雇い主のモチ・カネーオが密売に関与していたので一緒に裁判にかけられる事になる。

 ただ、アルレッキーノとの戦いで奮戦したこと、勇者と勘違いされている事を考えれば大した罪には問われず、すぐに釈放されるだろう。


【ルミリアとルイス】

 

 ルミリアはリリアナに紹介されて軍で事務仕事をしているようだ、ルイスがルミリアに気があるのはお見通しだったようで、アプローチする機会を増やしてやろうという老婆心があったのかも知れない。


 だがしかし、二人の仲は全く進展していなかった、ルミリアも少なからず想っているようだが、右足が不自由な事を引け目に感じているようだ…これは僕に責任がある。

 それよりもっと大きな問題が有る、ルイスはあれ以来何のアプローチもして無い、飛空艇では格好良くキメていたのにそれすらエルに対して言ったものとルミリアは勘違いしてしまっている。


 これには僕もヤキモキしてしまったので、お節介してやることにした。


 いちばん簡単なのはルミリアに憑依して「好きです」と言う事だがそれではルイスが成長できない、意気地なしのままでいてもらっては困る。


「定番のアレをやるしかないな」


 僕は見た目がイカつい冒険者『スクイッド』に憑依して、二人が帰る時を狙ってカラんでいった。


「おうおう、ねーちゃんそんなヒョロい男ほっといて、俺とイイ事しようぜ、なぁ良いだろ」

 かませ犬作戦である、これをルイスが撃退すれば二人は良い感じになる筈だ。


「あの…スクイッドさんどうしたんですか? いつもと感じが違うようですが…イメチェンですか?」


「……え?」 まさかの知り合いだった。


「ごめんなさい、さよならー」 僕は一目散に逃げるしかなかった。


 こうなったらあれだ、落下物から身を挺して守れ作戦だ。そこには取ってつけたように建設現場が有り、これまた取ってつけたように発泡スチロールのような材質の塊が吊るされている。


「これなら最悪、当たっても大丈夫だろう」


 ちょうどいい所に居た男に憑依して、ちょうどいいタイミングで吊るしていたロープを外した。


「危ない!」 大声で叫んだ瞬間、突風が吹き塊の落下地点を大幅にズラしてしまい、作戦は失敗に終わった。


 その後も・食パン咥えて曲がり角作戦・壁ドン作戦・砂浜で追いかけっこ作戦など色々試したが何一つうまくいかなかった。


「もう……作戦が……思い付かない、作戦を練り直そう」


 今日は諦めて帰ろうとした時、ルミリアがバランスを崩してラトラから落ちそうになった、それをルイスがお姫様抱っこで受け止めて、そこで何かを言ってたが声が小さくて聞き取れなかった。


 しかしルミリアのうさ耳にはちゃんと聞こえていたらしく、顔を赤く染めてコクンと頷いていた。


 これはもしかして、もしかするのかもしれない。


【ミコトとユウちゃん】


 ミコトは帝都に着いた頃には完全に元の猫人キャットヒュームの子供に戻っていた。


 魔族化した影響で体力・気力が限界だったが魔族との混血だからと普通の病院には連れて行かず、軍の施設に連れて行かれた。


 軍の施設? なんだか嫌な予感がする。


 ユウちゃんの行方もここから分からなくなった、ミコトと一緒にいると良いんだけど…。


 僕がこの世界に来る前にパソコンから聞こえたあの声、あれはミコトの声だったのか、ユウちゃんは何か知っているかもしれないから話を聞きたかったのだが。


 とにかく軍の施設とやらに行ってみるしか無いか。


【番外編】


 ルガールは疲れていた、副隊長が魔族と繋がっていたのだ軍上層部からの呼び出し、マスコミの追及は免れようがない。


「隊長、またマスコミから会見を開くよう要請が来ております、であります」


「またか、まだ調査中で話せることは何もないと言うとるのに」


 ルガールは気付いていた、クラウザーは下っ端で軍上層部の中に魔族の息がかかった真の黒幕が居る事を。


「この件を片付けるには、なかなか骨が折れそうだな……やれやれだ」


 言葉の割にルガールの表情は何処か嬉しそうだった。


【番外編2】


 レオナが街中を颯爽と歩いて行く、すると何処からともなく「見てレオナ様よ、今日も凛とされていて美しいわ」などという声が聞こえてくる、しかしこれは彼女の真の姿ではない。


「なあリリアナ、どうすればミコトにゃんは私の子供になってくれるんだろうか?」


「えっ……それ本気で言ってるんですか? あの子の事を報告したら『軍の研究所で検査する』って命令で連れて行ったじゃないですか、下手したら解剖とかされてるかも知れませんよ?」


「……なん……だと」


「解剖は冗談としても、あそこに行ったからには二度と外には出られないと思いますよ」


「よし私は出掛けてくる、後のことは任せたぞ」


「どこに行くつもりですか? まさか研究所に乗り込むつもりじゃないでしょうね」


「当たり前だ、こうなったら戦争だ! 意地でも私のミコトを返してもらう」


「私のって……分かりました、じゃあ私も付いていきます」


「駄目だ、そんな事したらお前まで立場が危うくなる」


「いいえ聞きません、命令だったから仕方なく従いましたけど、私だってあんな小さな子があそこのマッドサイエンティストの良いようにされるのは我慢なりません、それに私はレオナ様に一生付いて行くって決めてるんですから」


「……好きにしろっ!」


 レオナは赤くなった顔を隠すようにマントを頭から被り研究所へと向かうのであった。

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