第10話 副隊長
バァン
銃声が鳴り響き、アルレッキーノの眉間目掛け弾丸が飛んでいったが、弾速はみるみる遅くなりアルレッキーノの手の上にポトリと落ちた。
「ふむぅ、これをジャグリングしても、映えませんねぇ、やはりジャグリングには
アルレッキーノは影を伸ばそうとしたが、ホールにはルガールとアルレッキーノの手下しか残っていなかった。
「おやおや? これはいけませんねぇ、こんな簡単に逃げられては面白くないねぇ」
アルレッキーノが パチン と指を鳴らす、すると一人の仮面の男が前に出て来た。
「お前、コイツと因縁があるんだってねぇ、力をやるから殺してしまうと良いんだねぇ、わたくしは逃げた人間共と遊ぶんだねぇ」
そう言うと、小瓶に入った赤い液体を仮面の男に渡し、アルレッキーノはドロンと消えた。
「クックック、この時をずっと待ち侘びていたぞ、ルガール! 貴様を殺せる時をな!!」
仮面を外し素顔を晒した男は、副隊長のクラウザーだった。
「まさか魔族に与していたとは……そこまで堕ちたか! クラウザー!」
ルガールは二発の弾丸を発射するも、クラウザーは余裕の笑みでこれを躱す。
「ククク、これで貴様の銃には、あと一発の弾しか残っていない」
クラウザーの言う通り、ルガールの愛銃は装弾数六発のリボルバーだ、ここまで五発の弾丸を消費している。
「それでは、しっかり狙って撃たなければな」
バァン
ルガールは言葉とは裏腹に、真上に銃口を向け残りの一発を撃った。
「な⁉ 舐め腐りやがってぇ!」
クラウザーが剣を構え一直線に突進突きを繰り出してくる。
「若いな」
銃弾がクラウザーの足を撃ち抜き突進を止めた、ルガールがリロードする方が早かったのだ。
「相手の力量を見誤るな!」
銃口を向けクラウザーを一喝する。
「く、糞がぁ! いつもいつも俺を見下しやがって、貴様だけは絶対に殺してやる!」
クラウザーが赤い液体を取り出し一気に飲み干すと、筋肉が隆起し体が赤く熱を帯びていき、撃たれた傷が塞がっていく。
「フゥー、フゥー、ここ、からが、俺の、本当の、
バックステップで一度距離を取り ダンッ と床を蹴って先程の三倍のスピードで突進突きを繰り出してきたが、ルガールの左側へ攻撃が逸れてしまった。
「力が入りすぎて狙いがズレてしまったかな? だが俺のスピードには反応出来なかった様だな」
ルガールの左肩からはツーっと血が流れていた。
「ギャーハッハー、このまま一気に切り刻んでくれるわ!」
次は右肩から血が流れる、その後も止まることなく床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り縦横無尽に、一気呵成に襲いかかる。
しかし二撃目以降クラウザーの攻撃はルガールに届いてはいなかった、何十回もの突進攻撃を最小限の動きで躱していたのだ。
「ハァー、ハァー、何故だ……何故当たらない」
「それで
息が上がっているクラウザーに対し、ルガールは涼しい顔で立っている。
「まだだぁぁぁぁあ!」
更にスピードを上げるクラウザーだったが、その攻撃も虚しく空を切る。
「もう終わりにしようか『
ルガールの放った一発の銃弾は、クラウザー頭を吹き飛ばした。
「……愚か者め」
――― 時は遡る ―――――
アルレッキーノに恐怖した人間達がホールから逃げ出した頃、僕は一人の男に憑依していた。
男の名は「新右衛門」日本刀を携えた侍で、辺境に住む金持ち「モチ・カネーオ」に雇われた用心棒だ。
新右衛門に憑依して、機関室で眠らされていたミ乃参号を抱えて舞台裏の倉庫に着いたところだ、此処には見張りが一人居るが排除する作戦は考えてある。
まず石を向こう側に投げて音を立てる、音に気を取られた見張りを背後から殴って気絶させる、檻の鍵を奪い四人を救い出す、見張りを檻にぶち込む。 完璧な作戦の筈だったのに……コントロールが悪すぎて石を見張りにぶつけてしまった。
「ココ、ハイル、ダメ、オマエ、テキ」
見張りがこちらに気付いたが、上段から刀を振り下ろして脳天に重い一撃を食らわせてやった。
「安心せい、峰打ちじゃ」
一度言ってみたかったセリフだ、気絶した見張りから檻の鍵を奪おうと体を探っていたら、仮面が割れて下から血の気の無いゴツオの顔が出て来た。
「死んでる……さっきの一撃で死んだのか?」
よく見ると額に小さな穴が空いている、仮面の内側を見るとその部分からは細い棘の様な物が出ていた。
「仮面に体を乗っ取られていたのか……これはあのアルレッキーノの能力なのか?」
「考えても解からない、今は檻を開けて皆を解放しないと」
ゴツオが持っていた鍵でエルが入れられた檻を開ける。
「無事か? 動けるか?」
「うん…わたしよりケイちゃんがご病気なの、ケイちゃん死んじゃったらどうしよう」
泣き出してしまったエルに「ケイは病院に連れていったから大丈夫」と伝えると「ほんと? ケイちゃんのご病気なおったの?」と、パァッと明るい笑顔を見せてくれた。
次はルミリアの檻だ。
「ルミリア無事か?」
「はい……あの、どうして私の名をご存知なのでしょうか?」
「あ、いや……拙者は……とにかく今は、逃げる事だけを考えてください!」
「は、い……?」
不審に思われたが今は説明してる暇がない、次はリザードマンの番だ。
「よし、大丈夫ですね」
最後はルイス、まだ気絶しているようだ。
「おいルイス!起きろ!」
ペシペシ頬を叩きながらルイスに呼び掛けると、気付いた様だ。
「立てるか?」
「ああ……ここは?」
呆けているルイスに手を差し伸べて立たせると、ルミリアが視界に入ったらしく「ルミリアさん、ご無事でしたか?」と、ルミリアの元にすっ飛んでいった。
「ほんとコイツは……」
取り敢えず全員無事に檻から開放できた、後は上部デッキの搬入口を開けて、リフトで上がって脱出ボートで逃げるだけだ。
眠っているミ乃参号を抱えて、皆と一緒にリフトで上がっていく、脱出ボートは残っているだろうか、懸念は有ったがデッキに着いた。
「待っていたんだねぇ『コモリ アラト』君」
デッキでは、アルレッキーノと仮面の男達が待ち構えていた。
それよりも、アルレッキーノが「コモリ アラト」って……。
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