第9話 オークション会場

 帝都から南西に在る〈ロアー砂漠〉の入り口に僕は立っていた、エナジーを少しでも回復する為、ニュートンは家に置いて、幽体を飛ばしてここまでやってきた、それで今、体長2メートルは有る巨大なさそり砂鎧蠍サンドスコーピオレベル20と一人で戦っているルイスを眺めている。


 敵に憲兵隊の副隊長が居ることも伝えた筈なのに、仲間を連れずにルイスはここまで来ていた。


「もしかしたら、僕と同じで『ぼっち』なのか?」


 それより、ルイスにはあとで犠牲になってもらう予定なので、ここでリタイアしてもらったら困る、加勢しておこう。


「小石連弾」 

 

 僕が唯一できる物理攻撃で、砂鎧蠍の側眼に小石をぶつけまくって隙を作った。

 

「てやぁ!」


 ルイスは隙を見逃さず、脳天に軍刀を突き刺し砂鎧蠍を倒した、その手際の良さは、とても落ちこぼれと呼ばれる人のものとは思えなかった。


 こんな戦闘を何度か繰り返し、エアポト遺跡に辿り着いたのは、日が完全に落ちた頃だった。


 特に何も無い場所、そう聞いていたが、今はドラゴンをかたどった巨大な船が停泊していて、タラップの登り口には、仮面を着けたタキシードの男が二人立っている。


「こんな砂漠に船……これがオークション会場なのか?」

 

 こんな大掛かりなものを用意できるなんて、主催者は相当な大物に違いない、救出したことで子供達が恨みを買って一生狙われる、なんて事になったら元も子もない、慎重になって進めて行こう。


「ここを通せ! ここにルミリアがいるのは分かってる、私はルミリアに会いに来たのだ!」


「……」


 あれは、馬鹿なのだろうか? 横に居たはずのルイスが、いつの間にか仮面の男達に絡んでいた。


 早く何とかしないと、ルイス生け贄が居なくなってしまう。 


 仮面の男のどちらかに憑依出来ればと思い鑑定したが……何も読み取れない。


「なんなんだコイツら、どうなってるんだ?」


 そうこうしている内にルイスはねじ伏せられてしまった。


「クッ! 離せ!」 


 ルイスがどれだけ藻掻いても仮面の男はビクともせずに、手刀をルイス目掛けて振り下ろしたが、もう一人の男がそれを受け止めた。


「コロス、ダメ、コイツ、モ、ショウヒン、スル、アノカタ、ヨロコブ」


「ワカッタ、オリ、ニ、イレル」


 仮面の男の手から バチバチッ と電気が発せられ、それを食らったルイスは気絶させられて、船内に連れて行かれてしまった。


 仮面の男達の異様さが気になるが、船内の様子と、子供達の安否を確認しなくてはならない。


「ルイスを連れて行った男の後を追えば、子供達のところに辿り着けるはすだ」


 タラップを登り終えると薄暗いデッキに出た、デッキに人は見当たらないが、船内からは明かりが漏れ、クラシックな音楽が聞こえてくる。


 男に続いて船内に入り階段を降りると、吹き抜け大ホールの二階部分に出た、舞台上では楽団が音楽を奏で、ホールではオークション参加者が、談笑しながら飲食を楽しんでいた。 ここの乗組員達も、全員同じ仮面で顔を隠している。


 オークションはまだ始まってない様だ、ルイスを担いだ男は舞台脇から奥へと入っていった、そこは倉庫になっていて、見張りの男が一人と、オークションに出品されるであろう宝石や美術品、奥には檻に入れられた人が三人居る、二人はエルとルミリアだが、もう一人は知らないリザードマンの男だった。


「ミ乃参号が居ない、一緒に連れてこられたんじゃないのか……他の場所を探すしか無いな」


 ゴゴゴゴゴゴッ


 一度ホールに戻ったところで、船が揺れ始めた。


 カーテンを開けて窓から外を覗くと、船はゆっくりと上空へ向かって進んでいた。

 

「!? 飛んでる! この船は飛空艇だったのか」


 自分が飛空艇に乗ってる事に少し興奮したが、ミ乃参号を探すため、更に下へと階段を降りた。


 下のフロアは、乗組員用の質素な部屋と、機関室があり部屋の方には誰も居なかったが、機関室にミ乃参号が横たわっていた。


 機関室の床には魔法陣が彫られていて赤く光を放っていた、その上に動力パイプが伸びた大きな水晶が宙吊りにされていて、動力パイプは四方のカプセルの様な物に繋がっている。


「おい! 大丈夫か、返事をしろ」


 魔法陣の傍らのミ乃参号に近付き呼び掛けたが、反応がない、しかし呼吸は安定しているので、眠らされているだけのようだ。

 

「とりあえず一安心だな、皆を助け出す方法を考えなくちゃ」


 再びロビーに戻り、憑依出来る人を確認しようと、そこに居る全員を鑑定した結果、船の乗組員全員が鑑定不能だった。


「外に居た連中と同じだ……何も読み取れない」


 鑑定が使えなくなった訳では無い、その証拠にオークションへの参加者と楽団員は今まで通り鑑定できた。


「この船は得体が知れない、脱出を急いだほうが良いな」


 デッキに有った脱出ボートには羽が付いていた、あれなら上空からでも脱出できるのだろう、後はどうやって皆をそこまで連れて行くかだ。


 ここに居る憑依可能な人は五人、その内、戦闘で使えそうなのは二人。


 それと、仮面とマントで素性を隠しているが、憲兵隊長のルガールが居る。 コイツがクラウザーと同様に敵だった場合は詰みだ。

 

「レディース&ジェントルメン! お待たせしました、これより本日のメインイベントを開始します」


 思案を巡らせていると、いつの間にか音楽は止み、一人の男が舞台上で司会を始めていた。 男は娼館のテンーシュだった。


「なんでアイツが司会なんだ? さっき鑑定した時には居なかったはずだぞ」


 よく見るとテンーシュの手には、乗組員達と同じ仮面があった。


 パチパチパチパチ


「待っていたぞ」と、オークション開始の合図に参加者達が拍手をおくる。


 するとテンーシュの顔が醜く歪んでいき、頭頂部から体が真っ二つに裂け、中からピエロの化粧をした細身の男が出てきた、男は体に付いたテンーシュの血を撒き散らし、ニヤリと笑った。


「それでは本日のメインイベント、わたくし魔王軍四天王『道化のアルレッキーノ』のディナーショー、始まり始まり〜」


「ワー、アルレッキーノ サマー、ステキー」


「ヨッ、マッテマシタ、センリョウヤクシャー」


 乗組員達が口々にアルレッキーノに声援を送る。


「ふざけるなっ!! 貴様の茶番に付き合ってられるか、馬鹿にしよって、ヤッてしまえ!」


 太った貴族の男が、付き添いの護衛に命令した瞬間だった。


「ギャッ」 「ギャァア」


 アルレッキーノから伸びてきた影に、貴族の男とその護衛の体は、サッカーボール位の大きさに圧縮され、アルレッキーノのジャグリングボールにされていた。


「ふむぅ、やはりボール肉塊二つでジャグリングは締まりませんねぇ、せめてもう一つボール肉塊が欲しいですねぇ」


 アルレッキーノがホールを見回すと、そこに居た人間達は悲鳴を上げ、我先にと他人を押し退けて上のデッキへと逃げていく、その様がよほど面白かったのか、ゲラゲラ笑いながら「醜いですねぇ」と再び影を伸ばす。


 バァン バァン


 影は銃弾に阻まれた。


 「重要参考人を勝手に殺さんでくれるか? 醜悪なる魔族め」


 ルガールはアルレッキーノに銃口を向け引き金を引いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る