第8話 救出開始

 憲兵隊本部に着いたのは正午を過ぎた頃だった。 


 すぐに鑑定を使い、一番最初に【憑依可能】だったニュートン君に憑依した。

 

 正直、憑依するのは誰でも良かった、憲兵ならゴロツキに負けるようなヤワな鍛え方をしてないだろうし、なにより時間が惜しかった。


 問題は一緒に来てくれる人が居るかどうかだ、相手は少なくとも三人居る、こちらも三人以上で行った方が良い。 


 隊長のルガールは席を外しているようだが、副隊長のクラウザーは自室にいるようだ。


「副隊長、副隊長!」 わざとらしく大声を出し、副隊長室のドアを勢いよく開けた。


「なんだね騒がしい」 


「テンーシュの娼館で人身売買をやっている証拠を掴みました!」


「何を馬鹿なことを、一体どんな証拠を掴んだと言うのだね」


「はい! 壁に掛けられているバラの絵であります、それを決められた回し方をすると、地下への扉が開くのであります、地下には牢が有り、売り物にする子供達が閉じ込められているよう、であります」


 ん? クラウザーの表情が一瞬強張った気がするが……。


「それは、どこから仕入れた情報かね?」


「信頼できる情報屋であります」


「その情報屋が誰かと聞いているのだがね」


「そんな事よりも! 直ちに娼館に踏み込むべきだと!! 進言致します!!!」


 本部中に聞こえるほどの大声を出し、なんとか押し切ろうとしたが

「そんな不確かな情報で踏み込める訳がないだろう」

 ……ですよね〜。 でも、引き下がる訳にはいかない。


「さっきも、娼館に出入りしているゴロツキが、身体中アザだらけの猫人キャットヒュームの子供を連れて行ったとの通報がありました、本部の鼻先でこんな事を許していては、憲兵隊の名折れであります!!亅


 何事だ? と、多くの隊員が聞き耳を立てていた、それを一度見てから「チッ」と舌打ちをしてクラウザーが立ち上がった。

 

「では、私自ら行ってやろう、貴様とスネイルは付いて来い」


 スネイルとは、ルイスを馬鹿にしていたヘビヅラの事である。


「おいニュートン、俺様が出動してやるんだから有難く思えよ! ヒャーハッハー」


「……」 コイツ一体なんなんだよ。


 兎に角、これでミ乃参号達を助けに行ける。

 

 娼館までの道中に、二人の鑑定をしたところクラウザーはレベル50、スネイルはレベル30と、戦力としては申し分ないが……いや、もう娼館に着いた、考えられる最悪の事態・・・・・に備え、思考を巡らせるんだ。


 ドンドンドンッ ドンドンドンッ

「ヒャッハー、憲兵隊だ此処を開けろ!」


 スネイルが娼館のドアを叩いて、開けるよう指示している。


「なんですかい? まだ営業時間外ですぜ」


 扉が開いた途端「ヒャッハー」と、スネイルが突入していったのに続いて、クラウザーと僕も娼館の中に入った。


 館内は静まり返っていた、扉を開けたピカール以外は誰も居ないようだ。


「店主は不在かね?」


「今は、出かけておりやす」


「まあいい、おいニュートン、地下への扉を開けてもらえるかね」


 クラウザーが命令してきたので、バラの絵の前に立ち「ふぅ」と息を吐いてから、絵を手順通りに回した。


 ガコッ と音がなり壁が開き始めた時、後頭部に衝撃を受けてニュートンは・・・・・・気絶させられた…クラウザーと娼館の店主はグル・・だった、本部で地下牢の話をした時の、表情の変化は気のせいではなかった。


「コイツが目を覚ましたら、スグに情報源を聞き出せ、拷問してもいい、だが決して殺すなよ」

 

「分かりやした、聞き出したらすぐ連絡しやす」


 クラウザーは苛ついていたが、冷静さは残している様子だった、ニュートンの扱いと、他の憲兵が来たときの対処法をピカールに指示したあと「エアポト遺跡のオークション会場に行く」と、スネイルと娼館を出ていった。


 ピカールは玄関の鍵をかけると、バケツに水を汲みニュートンの顔にぶち撒けた。


「う、う……」 ニュートンの意識が戻りかけたので、再び憑依して、ハゲの無防備な足を絡め取り、身体をひねって転ばせたあと、ユウちゃんの剣を突き立てた所を思いっ切り踏んでやったが、転んだ拍子に頭を打って気絶していたようだ。


「手間がはぶけた」


 本当は、もっと痛めつけてやりたかったが時間がない、取り敢えず手足を縛り、鍵の束を奪い取ってから地下牢に向かった。


 一時は駄目かと思ったが、ここに残ったのが馬鹿一人で良かった、これで子供達を助けられる…そう思っていた。


 地下牢にはケイしか居なかった、ミ乃参号とエルは連れ出された後だった、一足遅かったのだ。


「今は、ケイだけでも助けないと」


 牢の鍵を開け中に入ると、ケイだけが取り残された理由がわかった、この子は病気だ、それもかなり重症のようだ、早く病院に連れて行って『治癒ヒーリング』を受けさせないと危険な状態だった。


 ケイを静かに抱き上げると、か細い声でエルとミ乃参号を助けてと懇願してきた、僕の事を奴らの仲間と勘違いしているようだったが「大丈夫、あの二人も必ず助けるから」と、声をかけると安心した様子で眠りについた。


 病気の子供は買い手が付かないと、見殺しにするつもりだったのだろう、心の底から怒りの感情がこみ上がってきた。


 病院に着き

「私は極秘任務があるので、この子に付き添えませんが、終わったら必ず迎えに来ますので、どうか宜しくお願いします、であります」と、

 ケイとピカールの財布・・・・・・・を預けてから〈エアポト遺跡〉の場所を通行人に聞いて回った。


「聞いたことないな」 「知らないねぇ」


 マイナーな遺跡なのか、聞き間違いだったのか、道を行く人は誰も知らない…エナジーが残り少ない、これ以上憑依し続けているとエナジー切れで動けなくなる。


 ニュートンを開放して図書館に行くしかないか…困っていたら、後ろから声をかけてくれた人がいた。


「ロアー砂漠のオアシスの近くに、そんな名前の古い遺跡がありますよ、特に何も無いので、誰も行かないような所ですけどね」


 声の主は、娼館の前で揉めていたルイスだった、これは僥倖だ、何かの助けになってくれるかも知れない。


 これまでの経緯と、憲兵隊が信用できない事、ルミリアが巻き込まれてるかも知れない事を伝えると「ルミリアさんが危ないだと!」と、慌てて南門の方へ走って行ってしまった。


 ルイスのレベルは18、クラウザーはレベル50、事態は更に悪化したかのも知れない…。








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