第5話 代償を支払う者

 ルミリアの武器はナイフだけだ、少し心許こころもとないが、緑小鬼ゴブリンは雑魚だ、二対六でも落ち着いて戦えば勝てる、一匹ずつ確実に倒していこう。 

 

「ギャァギァッ!」


 正面にいた奴が、槍を構えて飛び掛かってきた。


「大丈夫、動きは見えてる」


 うまく攻撃をかわして、背中にナイフを突き刺したが、やはり急所を突かないと、ナイフでは仕留めきれない、逃げられてしまった。


「ギァッ!」 「ギァッ!」


 立て続けに二匹目、三匹のゴブリンが向かって来た。


 まずい、二匹同時はさばけない、ラトラは後ろに回り込んだ奴等を牽制している、どうする、どうすればいい?


 キィン 


 なんとか二匹目の攻撃は受け止めた、でも三匹目の攻撃が来る。


「クウッ!」


「グアァァァッ!」 バシィィン


 ラトラだ、ラトラが尻尾で三匹目を叩き潰してくれた。


「テエイッ!」 形勢逆転、受け止めていた短剣を弾いて、股間に思いっ切り蹴りを入れてやった。


 ザシュ ザシュ ザシュッ


 悶絶するゴブリンに二度、三度とナイフ突き立てて、止めを刺した、これで正面の包囲が崩れた、残る敵は三匹だ勝てるぞ。


「ギャアギァ」 「ギァァ」 


 奴等は狼狽うろたえていた、数では圧倒的に有利だったのに……と、そしてこの隙は、僕には絶好の機会だった。


「もう一度『ウォータージャベリン』を使う」


 風角鹿ゲイルホーンには効かなかったが、今度はそれよりも細く、硬いイメージで水の槍を作り上げた。


「ウォータージャベリンッ!」

 

 シュオォン スパァァン さっきよりも速いスピードで放たれた水の槍は、真ん中に立っていたゴブリンの体を見事に貫いた。


 よしっ! これであと二匹!


「ラトラは左の奴をお願い、私が右を倒す」

 拾っておいた短剣を構えて、右のゴブリンに向かって行く。


「タァァ!」 ガチィン


 一撃目は防がれてしまった。

 

「まだぁ!」 


 鍔迫り合いになったが、全身の体重をかけて突き飛ばした。


「ガァ」


 よろめいて後ろに下がった、チャンスだ!


「これで、終わりだぁー!」


 最後の一撃と、飛び込んだ時、右足に激痛が走った、槍が太腿ふとももに突き刺さっている。


「うぅっ!?」


 何故、槍が? ……答えは簡単だった、一番最初に仕留め損なったゴブリンが潜んでいたんだ、まんまとそこに誘い込まれてしまった。


「ゲェゲェッ」


 痛みで膝をついたところに、ゴブリンが飛び掛かってきて、押し倒されてしまい、もう一匹のゴブリンが、大きな石を持ち上げて、右足に叩きつけてきた。


「っ!?」


 痛みは一瞬だった、太腿の痛みも無くなった……憑依が解けていた、エナジー切れではない、痛みでルミリアが覚醒して、僕は追い出されたんだ。


「あ゛あ゛あ゛」


 ルミリアは、突然の激痛に悶え苦しんでいた。


「ギャーッギャッギャ」


 ゴブリン共は、「ざまぁみろ」と言わんばかりに嘲笑っている。


 僕はその光景を、ただ見ていることしか出来なかった……。


 何でこんな事になったんだ?


 緑小鬼は、知能も無い、ただの雑魚だったんじゃないのか?


 あと一撃で終わりだった筈なのに…。


「僕のせい……か……僕が悪いのか?」


「グルアァァァァァァァァァァァァ」


 咆哮が響き渡った。


「そうだ、ラトラだ! ボディーガードのくせに、何やってるんだ、役立た、ず……」


 ラトラは傷だらけだった、いつの間にかゴブリンの増援が来ていた、それを主人の方に行かせない様に、一人で戦っていたんだ。


 そんな時に、主人のうめき声と、ゴブリンの下品な笑い声が聞こえてきた。


 彼は激怒したんだ、主人を守れなかった自分に、主人を嘲笑ったゴブリンに、そんな咆哮だったんだ。

 

「役に立たないのは、僕じゃないか」


 落ち込んでいても、状況は悪化していく、ルミリアが連れ去られようとしていた。

 

 ゴブリン種は、基本的に女を殺さない、巣に連れ帰って繁殖の道具にするためだ、足を攻撃してきたのは、逃げられない様にするためだ。


「誰か……助けてよ」


 (オイラが星の力アーツを授けたってのに、本当になにも出来ないのかい?)


「ウィル?」


 (よーく考えてみなよ、まだ出来ることが有る筈だよ)


「ウィルなんだろ? 出来る事ってなんだよ、教えてよ」


 声は、聞こえなくなった。


「出来る事? アーツ? ルミリアにもう一度憑依するのか……違う、鑑定……意味がない、アイテムボックス、念動……役に立たない」


 ……いや、役に立つ、足止めくらいなら出来る。


 ゴブリンの数は、ルミリア側に二匹、ラトラ側に……五匹、先にルミリアを助ける。


 僕が念動で動かせるのは、BB弾位の小石だ、これでゴブリンは倒せないけど、目を潰すぐらいなら、やって出来ないことはない!


 アイテムボックスには、練習用に集めた小石が入ってる、それをゴブリンの両目の前で取り出して、念動で飛ばす!


「グワッ」 「グェッ」


 これでコイツ等は、しばらく動けない、これにラトラが気付いて、ルミリアを連れて逃げてくれれば……。


「ガァッ、ガァッ、グルァ!」


 駄目だ、怒りで我を忘れてる、攻撃もメチャクチャだ、あんな大振り、僕でも避けられる…こうなったら、一か八か。


「ラ……ト……ラ……ラトラ」


 出血で意識を失いかけているルミリアに憑依して、声を振り絞ってラトラを呼んだ、エナジーも残り少ない、これで駄目なら打つ手がない…


「グァァァァァァ」


 心配する必要はなかった、どんな状態でも、主人の声は聞き取れるようだ、スゴイ絆の力だった。


 ラトラは、ルミリアを抱えて逃げてくれた、二人の怪我は心配だけど、ゴブリンの足止め、という仕事が残ってる。

 

「喰らえ、この●●●の☓☓☓野郎共」


 僕は、エナジーが切れるまで、ゴブリン共に小石をお見舞いしてやった。


 エナジーが回復してから急いで〈カゼット村〉に向かった、動けない間、ずっと二人が心配だった、ルミリアの右足は重傷だ、膝から下がグチャグチャに潰されていた、ラトラもかなりのダメージを受けていた、此処から村まで十五分、ラトラの足なら十分掛からない位だろうか……。


 村に着いた僕は、真っ直ぐ診療所に行った、中から少年の泣き声が聞こえる……嫌な予感がした。


 中に入ると、ルミリアはベッドに寝かされていた。


「お゛ね゛え゛ちゃん、お゛ね゛ち゛ゃ゛ん゛」


 姉を呼びながら泣く少年、この子が年の離れた弟なんだろう、隣に立っている老人が、泣き止むようにと、優しく諭している。

 

「もう泣き止むんじゃ、ルミリアの命は助かった、じきに目を覚ますじゃろう」


 その言葉に僕は、胸を撫で下ろした。


「ほ゛ん゛と゛、に」


 少年は、泣き止むため、一度呼吸を整えて、

「じゃあ、おねえちゃんの、足もなおった?」

 

「足か……すまんが儂の『キュア治療』では、あれを治すことは出来んのじゃ、『リジェネレーション再生』が使える、高位の術士に頼まんと」


 高位の回復術士ヒーラーにリジェネレーションを使ってもらうには、大金(ルミリアの一年分の収入)が必要だ、そんな貯えは無いだろうし、あの足では、今まで通りの仕事は出来ない、支払える訳がないのだ。


「だがしかし、僕が術士に憑依して『リジェネレーション』をつかえば、お金は必要ない!」


 僕の軽率な行動の代償を、すべてルミリアに支払わせてしまった、その責任を取らなければならない。


 憑依出来る回復術士を探す為、急いで帝都に向け出発した。

 

 


 


 

 

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