第4話 ケモ耳娘

 ダンジョンで迷って途方にくれていた時に現れた二人の女性、僕は外に出るため彼女達の元へ向かっていった。


「もうっ! レオナ様、こんな所で『破軍獣王撃デストラクションロアー』なんて使わないでくださいよ、生き埋めになっちゃうじゃないですか」


「加減はしたつもりだったが…すまないな、雑魚ばかりでフラストレーションが溜まっていたのだ、やはりこのダンジョンでは駄目だな、特訓にならない」


 (破軍獣王撃デストラクションロアー、アレで手加減してるのか、壁に穴が開いてるんだぞ、それに魔物の血や肉片が辺たりに飛び散ってるし、なんて威力のアーツだ)

 

「あーあ、髪も体も、埃まみれになっちゃってるじゃないですか! 早く帰ってお風呂に入りましょうよ」


「そうだな」


 お風呂、だと……いやいやそうじゃない、彼女達について行けば、外に出られる。


 今から帰るということは、ガルム達より先に来て魔物の数を減らしていたのは彼女達だったのか…本当に何者なんだ?


 僕は彼女達の後をつけながら鑑定を使った。

 

 鑑定

 レオナ・ガルムハート

 Lvレベル:44

 獅子人レオヒューム 剣士 リシャール帝国 陸軍中佐

 帝国軍大将レオニダスの一人娘。 父の様に高潔な人物になるため自分を律しているが、猫を見ると感情を抑えられなくなる。


 鑑定

 リリアナ・ペッタンコット

 Lvレベル:40

 人間 攻撃術士 リシャール帝国 陸軍少佐

 レオナの副官。 明朗快活で誰とでも仲良くなれるが、貧乳と言われると鬼と化す。


「鬼…帝国の軍人だったのか、道理で身なりがいいわけだ」


 彼女達は、紋章が入った高級感のある装備品を身に着けていたのだ。


「大体こんな初心者ダンジョン、特訓になんかにならないですよ」バシュ


「奥まで行けば少しは歯応えがあると思ったのだ」ズバッ


「だから、ドライグ山に登ったほうが良いって言ったんですよ」パシュ


「山は……その……寒いではないか」 ボソッ


 出口までの道中、僕がその出現を認識する前に魔物は切り捨てられている、まさに瞬殺だった。レベルが違いすぎるのだ……何でこんな所で特訓しようと思ったんだ?


「ふう〜、やっと外に出られました〜」


 外に辿り着いた頃には、空が赤く染まっていた。


「さあ、早く帰ってお風呂ですよ、お・ふ・ろ!!」


 ピィィィ


 リリアナが指笛を鳴らすと上空から巨大な鳥が降りてきた。


「よいしょっと! ほら、レオナ様も早く乗って下さい」


「ああ、もう日が暮れる、早く帰ろう」


 先に鳥の背中に乗ったリリアナが、手を差し出してレオナを引き上げる。


「それじゃピーちゃんお願いね」


「ピュイー」


 ピーちゃんと呼ばれた巨大な鳥は、二人を乗せて飛び立っていった。


 (ツルペタ娘とケモ耳娘の入浴……見たかった)


 さて、これからどうしようか、召喚に関する情報を集めるなら大きな町に行くのが良いだろう。 


 オルテトのお陰で大体の世界地理は分かっている、北の山を越えれば、勇者召喚の儀式が行われる〈星光聖教国〉があるが、聖都までは歩いて一ヶ月ぐらいかかる。


 それなら、リシャール帝国の帝都〈エリュシオン〉に向かった方が良いかもしれない。


「今日はもう遅い、帝都には明日行こう」


 僕は花畑に戻ってぐっすり眠った。

 

――― 時は流れる ―――――


 翌朝


「〜♫〜〜♪〜♫」


 歌が聞こえる、とても綺麗な歌声だ。


 目が覚めたので起き上がり、歌声のする方を見る。


「あれは、う、ウサ耳!」


 ピンク色のリボンが付いた麦わら帽子がよく似合う、ウサ耳の女性が歌を口遊くちずさみながら花を摘んでいた。


 こんな朝早くから一人で花を摘みにきたのか? この森にも魔物や猛獣がいるのに……って、言ってるそばから二足歩行の恐竜(ラプトル)の様な魔獣が、彼女の後ろに迫って来ていた。 


「危ない!」


 僕が叫んだところで聞こえるわけもなく、魔物は彼女に襲いかかっ……らずに額を背中にグリグリ押し付けて、ジャレついているようだ…ん? よく見ると、背中に人を乗せる為の鞍が付けられていた。


「ラトラ、もうちょっと待ってね」


 ゴロゴロ、と頭を撫でられ嬉しそうに喉を鳴らしている、今のうちに鑑定してみよう。


 鑑定

 ルミリア

 Lvレベル:12

 兎人ラビヒュー厶 花売り Eランク冒険者 

 カゼット村で、年の離れた弟ミロと、騎獣ラトラの三人で暮らしている。 両親とは五年前に死別している。【憑依可能】


 鑑定

 ラトラ

 Lvレベル:28

 蜥蜴騎獣ライドリザード

 ルミリアの騎獣兼ボディーガード。


 ルミリアに憑依できる、なにか有益な情報が得られるかも知れない。


「これでよし、ラトラー、帰るよー!」


 花で一杯になったかごを背負い騎獣を呼んでいる、早く憑依しよう。


 初めての女性の体は、柔らかく、しなやかな感じだった、筋肉でガッチリした体とは、可動域というか、動きの滑らかさが全然違う、そしてこの、ウサ耳! もふもふしたこの感触がたまらない、いつまでもモフっていたい…


「ガウ?」 いつの間にか、目の前まで来てたラトラがいぶかしげに顔を覗き込んでいた。


「な、何でも無いのよ、さぁ、帰りましょう」


 オホホホホと、なんとか誤魔化して、カゼット村への帰り道に向かった。


 此処から〈カゼット村〉まで約三十分、ゆっくり行ってもエナジー切れになる心配もないし「魔法が使いたい!」


 突然だが、ルミリアは水の魔法アーツが使えるのだ、オルテトも水を操っていたが、あれは槍に組み込まれた〈水星石〉の力で魔法とは違う、ルミリアは自ら水を生成し操ることができるのだ。


「どうせ使うなら狩りでもしようか、風角鹿ゲイルホーンでも、いれば良いんだけど」


 耳を澄ましてみたが、慣れてないウサ耳は聞こえ過ぎて、色んな音がごっちゃになってしまい、判別が出来ないので、目で探そうと森の中へ入ることにした。

 

 ラトラは道に戻ろうと、服を引っ張り訴えていたが「大丈夫、そんなに奥まで行かないから」と、そのまま森を進んでいると「居た」、風角鹿ゲイルホーンの角が茂みの向こうに見える。


 気付かれないよう風下に移動して、狙撃ポイントを決めた。


「まずは、右手を前に出して、手のひらの先に水の玉を作る」


 イメージした通りの水玉が生成された。


「よし! 次は、水玉を細く槍のような形に変えて」


「いけっ! ウォータージャベリン!」


 水の槍は、風角鹿ゲイルホーンめがけ真っ直ぐ飛んで行き、突き刺さったが……力が足りなかった、皮を貫いたところで普通の水に戻ってしまい、風角鹿には逃げられてしまった。


「残念……仕方ないね、帰ろう」 ラトラの方に振り返ると 「グルルルル!」 ラトラが低く唸り始めた。


 ガサガサッと茂みから緑小鬼ゴブリンが現れたのだ、六匹のゴブリンにあっという間に囲まれてしまった。


 奴らは「ゲエッゲエッゲエッ」と笑っているような鳴き声を上げて、嫌らしい目付きでこちらを見ていた。

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