第3話 暗闇の中で

 ここは〈風魔の洞窟〉の2階、僕たちは遭遇した巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーと睨み合っていた。


「なぁコイツ、ちょっとデカ過ぎるんとちゃうか?」


「確かに、普通の倍はあるぞ」


 コイツと対峙していると、この広い洞窟も狭く感じるくらいだ。


「グルァゥゥゥ」


 巨大蜘蛛がその巨体を跳ね上げ、飛び掛かって来た。


「なめんなぁー」


 ガルアが大剣で蜘蛛の攻撃を受け止める。


「あかん、これキツイわ、ナントカしてくれ」


 ガルアが蜘蛛に押し切られ、下敷きにされそうになっている。


「フハハハ、遂に我が右手の封印を解く時が来たようだな!」


「トウッ」と縦回転をしながらマッスは飛び上がった。


「喰らえ我が絶技、斗流姉怒AXEトルネードアックス!」


 ガキィン マッスの攻撃が弾かれる。


「クゥッ! 我が絶技が弾かれるだと!?」


 マッスが横に飛び退きながら「後は任せたぞ」と目で合図を送ってきた。


激龍槍げきりゅうそう


 その間に力を溜めていた僕がアーツを放つ。


「ッ! 硬い、なんて硬い外殻だ、刃が通らない」 


 ダメージは与えられなかった、ガルアが抜け出す隙が作れたのが、せめてもの救いだった。


「チイィッ!」


 僕らは一旦距離を取り、陣形を組み直した。


「こうなったらアレ・・やるで」


し」


「わかった」


 アレとは炎と風と水、三つ属性で一点集中攻撃をする合体技である。


「ほないくで!」


噴炎剣嵐斧葬槍ジェットストームソウソウ!!』


「貫けェェェ!」

 

ギャァァァァァァ


 巨大蜘蛛の断末魔の叫びが響き渡った。 3人の合体技は見事に硬い外殻を貫き、巨大蜘蛛を絶命させたのだ。

 

「ふぅ、さっきは危なかった助かったよ、ありがとう」


「ええねんって、しっかしあんなゴツイのが、こんな浅い階層におんの珍しいな」


「恐らく我が邪眼から漏れ出た邪気に呼び寄せられたのだろう、しかしこいつの素材は高く売れるだろうぜw」


「せやな、これで飲んで帰ってもかーちゃんにしばかれんですむわww」


「酒は程々にしとけよ」


「あほか! 酒が唯一ゆいいつの楽しみやのにw」


「そうだ! 我等は酒のために仕事してるんだからなwww」


 三人で談笑しながら勝利を喜んでいると、疲れたのか息が上がってきた。


「ちょっと休憩しないか?」


 僕は、適当な岩を見つけて腰掛けた。


「あれぐらいで疲れたんか? やっぱり調子悪いんちゃうか?」


「今日のお前、様子がおかしいぞ、大丈夫か?」


 仲間が心配してくれる、他人に心配されるなんて、いつぶりだろう? 命を預けられる仲間は最高だな。


 水を飲み、息を整えてから立ち上がり。


「よし、行くか!」


 大蝙蝠がいる3階はスグそこだ、心配そうな二人を促して、再び前進し始めた。

 

「キシャァァァ」


 3階についた途端、緑小鬼ゴブリンが5匹で襲いかかってきたが、連携もなくバラバラに攻撃してくるだけなので、5対3の戦闘でも簡単に勝つ事ができた。


「貴様ら程度の実力で、我等に敵うはずが無かろう、フハハハ!」


 マッスが何か言いながらゴブリンの右耳を切り落としている。 


 ゴブリンの体はなんの素材にもならないので、討伐依頼でもない限り誰も狩らない、それだと数が増えすぎて人里が襲われる危険が有る、こうやって右耳をギルドに持っていくことで討伐報酬がもらえる制度があるのだ。


 周囲の警戒をしながらマッスの作業をまっていたが、さっきよりも息が苦しくなり体が動かせなくなって、はその場にへたり込んでしまった、そう、僕だけ・・・が、憑依が解けたのだ。


「おいオルテト! ぼーっとしてると危ないぞ!」


「え? ……ん?」


 オルテトは何が起きたのか分からない様子で、ぽかーんと立っていた、ここまでの記憶が無いようだ。


「ここ……風魔の洞窟の中か? 俺、瞬間移動が使えたのか?」


「何アホなこと言ってんねん」


「ガルア、じゃあお前が瞬間移動を」


「そうやねん、俺が瞬間移動使って……って、なんでやねん! 普通に歩いて来たやないか!」


「アホはお前等だろ、早く大蝙蝠を探さないと、本当に日が暮れちまうだろ」


 オルテトとガルアの漫才に、マッスが厨二を忘れてマジレスしていた。


 そして、3人は行ってしまった。


「待ってよ、置いて行かないでよ」


 僕の声は彼等に聞こえない、遠くなる灯りを見送るしかなかった。


 暗闇の中で一人ぼっち……。

 

 僕は全く動けなかった、長時間の憑依でエナジーを使い切ってしまったのだ。


 僕の姿は誰も見えないし、声も聞こえない、誰にも助けてもらえない、本物の孤独ぼっちだった。


 このままずっと動けなかったらどうしよう、動けてもこんな暗闇の中、外に出られるかも分からない、不安と、寂しさと、恐怖で、頭がぐちゃぐちゃになった。


「家に帰りたい……帰りたいよ……お母さん」


 僕は泣いた、恥も外聞もなくわんわん泣いた、思いっ切り泣いたら、少し冷静になれた。


 ガルア達は大蝙蝠おおこうもりを討伐するために洞窟の奥へ行った、帰りはここを通るはずだ、それまでに動けるようになれば一緒に外に出られる。


「家に帰る方法を、体を取り戻す方法を探すんだ! こんなとこで挫けていられない!」


 ただ待っているのも手持ち無沙汰なので、憑依の危険性について考えた。


 まず、長時間の憑依は避けるべきだ、エナジーを使い切って動けない今の様な状況になるのはもちろん、宿主の精神に引きずられてしまう、(出会って数時間のガルアとマッスを、長年連れ添った仲間と感じていたのは、オルテトの精神に同調した結果)と思うからだ。


 戦闘中など危険な状態の時に憑依が解けるのも駄目だ。


 憑依が解けた後のオルテトは、自分の状況が分からずボーっとしていた、あれが戦闘中だったらと思うとゾッとする。


 今の憑依の限界時間は大体2時間だから、半分の1時間を目安に憑依を解くのが良いだろう。


 憑依のメリットは、宿主になりきれる事と、少しだけだが記憶を覗ける事、この2つが大きい。

 

 オルテトの記憶によるとダンジョンとは、無限に魔物を生み出す場所で、洞窟に限らず廃城や密林の形をしたものもある。 


 ダンジョンを破壊する事は出来ない、たとえ破壊しても数分後には自己修復を始め元通りになる、そんな不思議空間に僕は一人で座ってる…。

 

――― 時は流れる ―――――


 僕が動けるようになったのは、ガルア達が帰っていったしばらく後だった。


 予想外なのは人が誰も来ない事だ、ガルア達が戻るまでに動けるようにならなくても、他の冒険者に付いていけばいい、と思っていたのに……。 


 仕方ない自力で外に出るか、幸い暗闇に目が慣れて少しだけなら見えるし、なんとかなるだろう。


――― 1時間後 ―――――


 迷った、もう一階に着いても良い筈なのに…同じところをグルグル回っている感じもしてきた。 遭難したときは救助が来るのをジッと待つ、というのが全くその通りだと思えてきた……。


 ズォーン  突然、衝撃音が響き渡った。


「なんだ!?」


 音がした方へ向かってくと、チラッと灯りが見えた。


「誰かいる!」


 助かった、外に出られる、急いで灯りの方へ向かって行くと声が聞こえた。


 「下がれ、リリアナ」


 「え? ちょっ、えぇー! 待ってくだ……キャッ」


 ギュオオォーン


 「ヒエッ!」


 僕の横を、もの凄い音と衝撃波が掠めていった。


 衝撃波が向かった先の壁はポッカリと穴があき、パラパラと破片が崩れ落ちている。


 「もうっ! 生き埋めになったらどうするんですか!」


 衝撃波の発生源には、ライオンのものと思われる丸みのあるケモ耳の金髪美女と、ピンク髪で(胸が)かわいい絶壁系の女性が立っていた。


 

 

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