第2話 初めての憑依

 明るくなってから周囲の探索を始めた、最初に目覚めた花畑は周りを森に囲まれた広場にあり、人が出入りしている形跡が有る。


 人が住む集落が近くに有るのかも知れない、そう思い一本の森の小道に入っていった。


 木漏れ日が差し込んで気持ちが良い道を フワフワ 浮かんで進んでいると……ちゃんと足が有るのに「フワフワ浮かぶ」は、可笑しいよな……。


 気持ちが良い道を テクテク 歩いて進んでいると、向こうの木の陰に鹿のような動物を見付けた。


星の秘力アーツを試すチャンスだ」


 茂みや木を通り抜け、鹿の近くまで一直線に行こうとしたけど……通り抜けられない、茂みは何とか通れたけど木は無理だった、ぶつかってしまう。


「普通、幽霊って物を通り抜けたり出来ますよね……体の事は後で色々検証するとして、取り敢えず今はアーツの練習をしよう」


 足音はしないし気配も感じないようで、鹿の真ん前まで来たけど逃げる様子はない。


「鑑定」


 風角鹿ゲイルホーン

 Lvレベル:8

 風の森に生息する草食獣。 肉は食用に、角と毛皮は素材として取引されている。


 名前とレベル、簡単な説明文が表示された。


「これは便利……なのか?」


 よく分からないが、使い込むことでもっと詳しく調べられるようになるかもしれない。


「鑑定」


 コモリ アラト

 Lvレベル:1

 人間 (空気)

 ■■■■により、■■■の為に、異世界から召還された、■■■■。


「……なんじゃこりゃ」


 自分の事も調べられるかもと、試しに鑑定してみたら出来てしまった、しかも(空気)ってなんだよ存在感が無いって事か? そうなのか?

……まぁいい、もっと気になるトコがある、黒塗りで読めない部分だ。


「うーん? もしかすると人の名前なのかな……?」


 だとすれば、その人物が体を取り戻す方法を知ってるかもしれない、少し希望がみえてきた。


 次は念動を使ってみよう、これには(エナジーが必要)と有る。


 説明しよう! エナジーとはスキルや魔法だけでなく、体を動かすのにも使う力なので、使い過ぎると疲れて動けなくなるぞ、回復するには赤い牛の翼飲料エナジードリンコが効果的だ。


 動かすのに丁度良さそうな石がけっこう落ちてるので、どれくらいの大きさ、重さまで動かせるか試してみよう。


「……はっ……ふんっ………ていやっ………」


 なるほど、僕のレベルで動かせるのは『BB弾』くらいの石だな……このままでは使い物にならない、特訓しないと。

 

 動かせる小石を運びながら進んでいると、道が2つに別れていた、左の道はこれまで通りのピクニックコースのような道だが、右は薄暗く奥の方から重く怪しい空気が漂ってきている。


「よし、こっちだ」


 迷わず左を選ぶ、少し上り坂になっている道をしばらく進むと大きな湖に出た。


 湖の水はどこまでも澄んでいて、泳いでる魚がハッキリと見え湖底には神殿の様な建物が沈んでいるのも見える。 


 僕は湖畔に腰をおろし休憩することにした。


「これから、どう進もうかな」


 周りを見渡しながら進む方向を考える…。


 正面から右に向かって高い山々が連なっていて、山頂付近は雪が積もっているのか白く化粧されている。


「今から山越えは嫌だな」


 視線を左に送ると湖から流れ出た水が川になっていて、そこに道がある。


「下流に向かえば町か村があるだろう」


 少し考えて、川沿いを下って行くことにした。


 立ち上がり川の方へ体を向けた時だった、3人の屈強な男達がその道からやってきた。


 男達は、黒を基調とした鎧にそれぞれ大剣、斧、槍を装備している。


「鑑定」

 ガルア

 Lvレベル:25

 人間 大剣使い Dランク冒険者

 ボウダの町を拠点にする冒険者パーティ〈黒っぽい三人衆〉のリーダー。関西弁で喋る。


「鑑定」

 マッス

 Lvレベル:24

 ドワーフ 斧使い Dランク冒険者

 ボウダの町を拠点にする冒険者パーティ〈黒っぽい三人衆〉の一人。右目の眼帯は、ファッション。


「鑑定」

 オルテト

 Lvレベル:25

 人間 槍使い Dランク冒険者

 ボウダの町を拠点にする冒険者パーティ〈黒っぽい三人衆〉の一人。仲間思いの熱血漢。【憑依可能】

 

 三人は冒険者だ、しかも一人はドワーフだ! ずんぐりとした体に髭面、アニメで見た通りの外見だ、しかも眼帯をファッションに使うなんて、まんま厨二病じゃないか。


 それよりも今注目すべきはオルテトの【憑依可能】の文字だ。


「これは、憑依を試すチャンスだ!」


 さっそく僕はオルテトに憑依した……。


「すごい、思い通りに体が動かせる」


 1日ぶりの体に興奮したがかなり違和感がある、デブが突然マッチョになったのだから当然だった。


「どうしたのだ、同士オルテトよ、早くゆくぞ」


 遅れている僕に気付いたマッスが呼んでる。


「すまない、すぐに行く」

 

 オルテトの記憶によると、クエストで〈風魔の洞窟〉というダンジョンに生息している、大蝙蝠おおこうもりの素材を取りに行くところだった、憑依すると相手の記憶が少し見えるのだ。


 僕が最初に来た分かれ道の、薄暗い方の道を行った先に洞窟の入り口があった。


「ランタン、貸してくれるか」


「ほらよ! 漆黒の闇に閉ざされし魔窟ダンジョンの探索には必須アイテムだからな」


「……」


 ガルアとマッスは、テキパキとダンジョンに潜る準備をしていたが、オルテトぼくはかなりもたついていた。


「なんや、調子わるいんかいな?」


 様子のおかしいオルテトぼくを心配してガルアが声を掛けてきた。


「僕は大丈夫だよ、すぐに準備するよ」


「ぼ、僕だって? お前いつから、自分の事を『僕』なんて言う様になったんだよwww それにw その喋りかたwww」


 マッスがおなかを抱えて笑っている。


「い……いいだろ、早く行くぞ」


 僕の口調で喋っていたのを誤魔化すため、二人を急かしてダンジョンに入って行った。


 陣形は、ランタンを持ったガルアが先頭で、その後ろをマッス、オルテトの順に縦に並んで進んでいく。


 初めてのダンジョンで少し緊張していたが思ったほど魔物に出会わない、三十分ほどかけて2階まで来たがここまでに遭遇したのは緑小鬼ゴブリン二匹だけだ、それもガルアとマッスが倒したので僕は何もしてない。


「魔物おらんな……。もっと出てきてもらわんとクエストの報酬だけやったら酒代にもならんで」


「ほかの冒険者が先に潜ってるかもしれないな、少し急ごう」 


「わかった、しかし我が邪眼の封印を解けばモンスターの位置など一目瞭然だというのに」


「……」


 早足になって先に進み始めた時だった。


「うわっ!?」


 僕の足に何かが絡みついてきて、転ばされてしまった。


「これは……蜘蛛の糸!」


 巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーだ、天井にひそんで僕らの隙をうかがってたんだ。


 さらに巨大蜘蛛は プシュゥゥゥー と糸を吐き僕を絡め取ろうとしてきた。


「やばい」


獄炎斬ごくえんざん!」


 ガルアが炎を纏わせた斬撃で蜘蛛の糸を焼き払ってくれた。


「ありがとう、ガルア」


 僕は足に絡んだ糸を切って体勢を立て直した。


「俺の剣じゃあいつに届かへん、頼んだでマッス」


「フワッハッハッ、我が前に姿を現したのがキサマの運の尽きよ、喰らえ『舞宇滅嵐AXEブーメランアックス』!」


 マッスが両手で勢いよく投げつけると、斧は風を巻き上げながら飛んでいき巨大蜘蛛に直撃した。


 グギァッ


 落ちて来た蜘蛛は糸で自分の体を支えて地面に叩きつけられるのだけは避けた。 


 巨大蜘蛛の目は妖しく光りこちらを睨みつけていた。


 

 

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