異世界ゴースト

瀬須

第1話 こんにちは異世界 さよなら僕の体

 僕の名前は、小森こもり 新斗あらと


 中学3年の夏から5年間、ずっと引きこもりをしている。


 きっかけはアイツと、上井うえい 風太ふうた と同じクラスになったことだった。


 上井は人の顔をみるなり罵声ばせいを浴びせてきたり、機嫌の悪い日には暴力もふるってきた、アイツにとってはただのストレス解消だったのだろう、そんな事が続くとクラスの中で僕の事はイジメても良い、という空気になっていった。


 それでも僕の事をかばってくれる女子がいた、天城あまぎ 結華ゆいかさんだ。


 彼女は美人で、成績は学年トップで、誰にでも優しく、教師からの信頼も厚い。  そんな彼女に僕は憧れていた。


 夏休み前のあの日、担任に進路相談で呼ばれて帰りが遅くなった、早く帰ろうと教室の前を通りかかったら、上井と天城さんの話し声が聞こえてきた。


 話の内容は、僕が天城さんに惚れてるとか、彼女のストーカーをやってるとか、彼女で妄想して○○○してるとか、そんな下らないものだった。


 彼女も嫌々そんな話に付き合ってるのかと思ったが、そうじゃなかった、上井に僕をイジメさせていたのは彼女だったのだ。


「あのキモデブをイジメから救う私、皆からの尊敬の眼差し、チョー気持ちいい! やめられない、だからもっとアイツをイジメてね」と、自分の承認欲求を満たす道具にされていたのだ。


 その日以来、学校に行ってない、外にも出られなくなった。


 いつからか、アニメやゲームの世界に憧れるようになって、自分も異世界に行きたい、魔法が使えたら、時間を巻き戻せたら、なんて現実逃避ばかりするようになった。


 このままじゃ駄目だ、そんな風に思うこともあるけど…


 今日もいつも通りにパソコンの電源を入れた。


 いつもと違うのは、ヘッドセットから声が聞こえてきたことだ。


「――お願い――わたし―――一人ぼっち――――だから――助けて」


 よく聞き取れないが、必死に何かを訴える少女の声。


「君は誰? 助けが必要なの? 君はどこにいるの?」


 僕は、声の必死さに思わず応答してしまった。


 次の瞬間


「ミツケタ、ツナガッタ」

 

 少女の声は突然嗄しわがれた男の声に変わり、頭を殴られたような衝撃を受けて意識を失ってしまった。


――― 時は流れる ―――――


「う……うぅ……ん」


 どれくらい意識を失っていたんだろう? 僕は起き上がり辺りを見渡して驚いた、何処か知らない花畑だ、一面の花が月の光を反射して幻想的な雰囲気の場所に僕は居た。


「何処だここ?」


 ぼーっとする頭を回転させ今の状況を把握はあくしようとした時、不意に後ろから声をかけられた。


「目が覚めたかい?」


「うわっ!?」


 驚いて後ろを振り返ると、そこには小さな光の玉がふわふわと浮かんでいた。


「驚かせちゃったかな? オイラは『ウィル』この星の意思の欠片さ、よろしくね『コモリ アラト』くん」


 光の玉が喋ってる、何だコレ、マジックか?


「僕の事を知ってるのか?」


「当然! オイラには相手の事を見通す能力があるからね!」


 自慢気な光の玉は ランラン と輝きながら僕の目の前まで飛んできた。


「落ち着いて聞いておくれよ、君は勇者召還に巻き込まれて、イレギュラーな形でこの世界に来てしまったんだよ」


「勇者召還?  イレギュラー?」


「そうなんだ、この世界では定期的に、魔王と呼ばれる強大な力を持った魔族が発生するんだ、その魔王に対抗するために人族が異世界から勇者を召還するんだ」


「待て待て……じゃあ、僕は勇者なのか?」


「ううん、そこがイレギュラーな所なんだ、召還の儀式に何か別の……意思のような力が干渉して、に君のがこっちに来ちゃったんだよ」


「魂だけ? 何そのパワーワード」


 ここに来て初めて自分の身体に目をやった。


「!!  痩せてる……いや、そもそも肉体が……無い? 透けて向こうが見える……なんでこんなことに……まるで幽霊じゃないか」


「そうなんだ、勇者を一人だけ喚び出す儀式に、君という二人目が現れた事によるエナジー不足が、こんな中途半端な召喚の原因になったと思うんだ」


「……元の世界に戻れないのか? それか、僕の体をこっちに召還して元通りになる方法は無いのか?」


「ゴメンよ、オイラには分からないだ、でもこの世界の何処かに、そんな方法が有るかもしれないね……多分」


 ウィルは励まそうとしてるんだろうけど……そんな自信なさげに言われたら、不安しか無いよ、 確かに異世界に行きたいとか思ってたけど、まさかこんな形でなんて……。


「落ち込まないでおくれよ」


「落ち込むなだって? こんな状態で知らない世界に連れてこられて、この先どうしたら良いんだよ!」


「……」


 あ…またやってしまった、ウィルが悪い訳じゃないのに当たってしまった。 近くにいる人にあたるのは僕の悪い癖だ、両親に対してもこうだった……。


「ごめんウィル」


「いいさ、こんなの誰だって混乱してイライラしちゃうよ」


「勇者は? この世界をすんなり受け入れられたの?」

 

 ふと、望まれて召還された勇者の事が気になった。


「うーん、どうだろ? 向こうにもオイラの仲間が行って、今ごろ星の秘力アーツを授けてる頃だと思うけど」


「あーつ?」


「この世界に存在する、魔法やスキルをまとめて星の秘力アーツって言うんだよ。  オイラがここに来たのも、君にアーツを授ける為なんだ」


「僕にも……じゃあ僕も、魔王と戦わないといけないのか?」


「そんな事ないさ、アーツを授けるのは、なんだ、だから君は自由に生きていってくれたら良いんだよ!」


「……そうか、よかった」 心からそう思った、こんな状態でなくても、魔王になんか勝てる訳がない、皆の期待を裏切るだけだ。


「それじゃ、オイラが君のなかに溶け込んで、いくつかのアーツをインストールするから、拒絶しないで受け入れておくれよ」


 僕の中に溶け込むって!?


「ちょっと待ってくれ、それだとウィルはどうなるんだよ?」


「オイラかい? オイラはインストールが終わったら、消えてなくなるから安心しておくれよ」


「いや、そうじゃなくて! 消えるって事は、死ぬって事なんじゃないのか?」


「オイラの心配をしてくれてるのかい? 大丈夫だよ役目が終わって消えるのは、だからね、必要ならまた新しいオイラが生まれてくるのさ、だから縁が有ればまた会えるかもね」


 ウィルは優しい口調でそう言ってくれた。


「それじゃ、いっくよー!」 ウィルは一層強い光を放ちながら、僕の中に入ってきた。


「少しの間お眠り」


 暖かい光に包まれ、眠ってしまった。


――― 少し時は流れる ―――――


 微睡みまどろみから覚めた時にはウィルの姿はなく、僕は5つのアーツを獲得していた。


・鑑定:対象の情報、状態を調べられる。


・念動:触れずに物を動かせる。(エナジーを消費)


・憑依:波長が合う相手に取り憑き自在に操れる。(エナジーを消費)

 

・アイテムボックス:専用の異空間に物を収納出来る。※生命の収納はできない


・星の加護:各種耐性を得る。安全装置。


 ウィルは、この世界の何処かに僕の体を元通りにする方法が有るかも知れない……と言っていた。


 自信なさげだったけど言っていた……。


「まぁ観光気分で探すしかないよな、異世界観光やってやるぜ!」


 そう思っていた時期が僕にも有りました。

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