傷、キス

@raimeiki

第1話

あの日の夜、彼と私は暗い部屋で微睡に包まれながら、どうしようもなく汚れた濁流のような世界で、泳ぎ疲弊した心を癒すように、二人でくつろぎながら、電気を消して、月明かりだけを頼りに彼を見ていた。


彼の存在は、闇の中でもっと近く感じる。もっと彼を感じたくて手を伸ばし結び固め、静かでそれで居て鼓動が煩く悲鳴をあげてしまう矛盾を孕んだ彼との時間は、体温を上げ、心地よさを与えてくれる。それでいて、私を包み込み、安心感を与えてくれる。


そんなぬくもりが満ちている中、彼がゆっくりと顔を近づけてきた。私は彼の唇が近づく感触を感じ、心臓が高鳴る。

二人の唇が触れる瞬間、胸の奥が甘く揺れ動きました。キスの力強さと優しさが混ざり合い、私たちは一つになるような感覚を味わいました。長く味わいたくて、離したくなくて、もっと触れていたかった。

時間の経過を忘れ、ただ二人の感情が溶け合っていくようでした。

月明かりが私たちをちょうど照らした瞬間、彼は私を離した。距離ができたお陰で彼の、寂しそうで、淋しそうで壊れそうな表情が一瞬だけ浮かんだ。その瞬間、私は彼が抱える傷や悩みを感じ取りました。

私は彼を愛しているけれど、彼はそうでは無い。いつまでもあの人を想っていて、私はその代用品。それでも私はよかった。

だけれど、だけれど、満足しているはずだけれど、どこか、体のどこかが痛い。ズキズキ悲鳴をあげている。

それを誤魔化すように、キスをした。

そうすれば、誤魔化せるから、気づかずにいれるから、一つになれていると感じられるから。

月明かりが消えれば良いのに。だって、そうすれば彼を見て傷つかなくていいから。

深く絡まるキスをした。そうすれば彼の顔が見えなくなるから。

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