感覚麻痺(その1)

 中学生の頃、20歳になったら死のうと思っていた。


 私と両親の三人家族で、姉妹、兄弟はいなくて、祖母や祖父達と暮らしている訳では無い。家は普通の庶民で、父親の仕事が上手くいっていれば、それなりにお金が入っていた家庭だった。

 父親から聞いた話によれば、私には腹違いの姉が二人いて、一度も会った事が無いのは、その家族と母親の仲が悪いからである。父親側の親戚とか知り合いの顔なんてわからない。会ったのは、私が物心つく前か、ついていたとしても幼かったから、記憶に残っていない。

 昔、父親は社長をしていた。それなりに大きな株式会社の社長だった。けれど、性格はどうしようもなく、全然理想的な男性では無い。父親と母親は10歳差であり、価値観も何もかも違う。私が生まれる前から、意見のすれ違いなどで喧嘩していた。だから、私は結婚という夢と希望、そして自分への将来に希望が持てないのである。何故、私の両親は結婚なんてしたのだろう。愛し合っている訳では無いのに、どちらも頼りない性格で、不完全だったのに。

 私が成長していくに連れて、何度も離婚しては再婚を繰り返していた。そして、何度も二人の喧嘩を見ては聞いた。中学生の頃、私は耐えられず家出しようとした。このまま消えてやろう、誰にも見つかる事無く死んでしまおうと思った。だけど、親は馬鹿だから警察に捜索願いを出してしまった。すぐ戻ろうとしていた。否、戻ろうとしていても放っておいて欲しかった。田舎の夜は真っ暗で、明るい場所は少し歩いた先にある駅だけだった。その駅はいつも輝いていた。私とは正反対の眩しさで、電気にも温かさを感じた。暗い場所が苦手な癖に、私は自我を失うと暗いのなんて平気になってしまうのだから。

 婦人警察官が、私の家の車内に乗り込んで、否、隣に座って事情を訊いてきた。私はこのまま、親が逮捕される事を願っていた。私はあの家から逃げたい。警察にはお世話になってしまったが、どうしても帰りたく無かった。帰りたく無かったのに、家に帰らされて、私は親に酷く責められた。そして、警察の愚痴まで言い始めていた。母親は私に問い詰めて、私の首を絞めてくる様に苦しませた。この時、私の母親は毒親なのだと知った。私がいないと生きていかれないと、口癖の様に言うのだ。


 当然、私は大人になるまで居場所は無い。中学時代は特に、私にとっては地獄だった。そもそも産まれてきたのが間違いだったのだ。いつしか、私は感覚麻痺してきて、涙も出ず、まだ序の口だと思い続けるようになっていた。



続く

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