ホコリまみれの担当者

「待ってくれ! 俺も働く! 盗んだ人たちにも謝るから、ちゃんとするから!」


「お、おれも!」

「わたしも!」



 少年少女たちが必死になって、言い募ってくる。

 俺はちょっと試すような視線を向ける。


 この子たちが本気かどうかを見定めるためだ。



「本気? 周りに流されていない? 一度始めたのにやっぱりやめたはなしよ?」


「本気だ! 周りに流されているってのは、今の状況じゃ何とも言えない。でも、俺たちだっていつまでもこんな生活を続けられないんだ! 頼む、雇ってくれ!」


「口調」

「え?」


「まずは口調を直すところかしらね? お願いしますって言ってごらんなさい。ゆっくりとでいいわ。あなた達にも教育を施しつつ、仕事をしてもらうから」

「教育……俺たちにも読み書きや計算を教えてくれるっていうのか? その上、仕事まで……」


「私が直接教えるかはわからないけどね。さあ、その乱暴な口調を直してもらうわ」

「よ、よろしくお願いします……」


「うん、上出来。あなた、名前は?」

「マックスだ、自分でつけた」


「そう。じゃあ、マックス。明日また来るわ。明日は盗みを働いたお店に謝りに行くわよ。ほかの子も同じね! 大丈夫、真摯に謝れば許してはもらえるわ。そのあとはあなた達次第よ」


「俺たち次第……」


「ええ、あなた達次第よ。今日は帰ってお父様に相談するから、明日の昼頃にここに集合よ。私も好き勝手に動けるわけじゃないからね。少しずつ前に進むわよ」



 炊き出しが終わり、城に帰ったあと、父上の執務室に向かう。

 スラム街の担当の者や今後の計画を話すためだ。



「お父様、お話があります」


「今日は真面目な話のようだな? 炊き出しの場での話は聞いている。とりあえず、話を聞こう」

「スラム街を担当しているものは誰ですか? きちんと運営されていますか?」


「スラム街か。誰だったかな? 薄っぺらい笑みを浮かべる奴だったような……」

「ダイ・ジョバナイ男爵でございます、陛下」


「おお、おお、そんな名前だったな!何分、仕事が多岐にわたるせいか、スラム街まで目が届かないのだ。それで、きちんと運営されているかどうかだったな? 報告書を見る限りでは、スラム街の撤去計画は進んでいると書かれているな」


「お父様、きちんと調べたほうがよいかと思います。城下街の住人から話を聞く限り、スラム街は年々拡大しているそうです」


「ほお? それはきっちりと調べ上げないとだな……。アレクにも手伝わせるか。ジョバナイ男爵が不正をしているのは明らかだ。多少の失敗はなんとでもしよう。アレクとディーネの二人にこの件に関して全面委譲する。しっかりと働いて来い」


「陛下、よろしいのですか? このような幼子に任せて」


「なに、心配するな。ディーネは賢い。それにアレクもいる。幼いということだけで舐めてかかると、足元をすくわれるぞ? スラム街の資料など必要か、ディーネ?」


「ぜひお願いします」


「ふむ、明日すぐに動くんだったな。資料と共に優秀な文官も付けよう。ジョバナイ男爵と共にスラム街に視察に行ってこい」


「承りました」





 翌朝、会議室に俺たちは集合していた。

 アレクは城下街に行けるとあって、やや興奮気味。

 父上がつけてくれた優秀と言われている文官と挨拶をする。

 身長は高く、緑色の髪と瞳、全体的に細く、神経質そうだ。



「お初にお目にかかります、文官のユースです」


「よろしくね、ユース。お父様から優秀だと聞いているわ」

「はっ! その言葉が嘘にならないよう誠心誠意、今回の任につきとうございます」


「ねえ、ディーネ! 早く行こうよ! 僕、待ちきれないよ!」

「お兄様、今回は視察ですのよ? 案内をするジョバナイ男爵を待たなくては」


「ちぇ~、早く来ないかな。というか、遅すぎじゃない? 僕らも結構ゆっくり来たけど、ユースはすでに会議室にいたよ?」

「ホントに遅いですわね、時間通りに動けない人間は仕事もダメそうです」



 ユースが頷き、同意してくれる。

 私たちはスラム街の資料を見て時間を潰すしかなかった。

 アレクにも情報をなるべく共有しておく。

 こうすることで、同じ視点に立てることを願いながら。


 一通り、情報の共有が終わったところで、ようやくジョバナイ男爵がやってきた。

 アレクの視線もユースの視線も冷たい。冷え切っている。

 あ、あれ? アレク? お前、そんなキャラだったのか?



「遅いぞ、ジョバナイ男爵」


「し、失礼しました、殿下。何分、殿下たちにもと、わかりやすい資料を作っていたもので……」



 わかりやすい資料ねえ? 一度確認しておく必要があるな。

 ユースに視線を向け、こちらの資料と照らし合わせる。



「これは、さすがに……」



 ユースも開いた口が塞がらないようだ。

 俺もアレクもあまりに杜撰な資料に頭を抱える始末。

 こいつを連れて視察するつもりだった。

 だけど、視察の前に資料の改ざん点が多すぎて頭が痛い。


 アレクが厳しい口調で問いただす。

 汗をひたすら流すこの無能男爵。視線が泳ぎ過ぎだぞ、おい。



「其方、これはいくらなんでもふざけすぎであろう? 我々を舐めているのか?」


「な、なにがございましょう……?」

「我々にと作ってきた資料はあまりにも杜撰。その上、こちらの持つ資料と見比べれば、不正な改ざん点が多々窺える。我々を、王族を馬鹿にしているのか?」


「そ、そんな滅相もない!」

「もういい、ここまで不正のある資料を持ってきたのだ。自宅を探れば色々と見つかるだろう。警備兵、これを牢にぶち込んでおけ。それと、ユースを中心とした兵士たちでこいつの自宅を探れ。不正など山ほど出てくるだろう」


「ま、待ってくだされ! この後は視察でしょう! 私がいなければ案内も出来ないはずです!!」

「其方のような案内人はいらぬ。何の役に立つというのだ……。ハア、もういい。連れていけ」



 警備兵が入ってきて、指揮を執るアレクかっこいい! 俺も将来はこうなりたい!

 女装してるから無理だって? 女装はいつだってやめられる!

 大丈夫、俺もいつかはこうなるはずだ!!


 ユースも各所に連絡をとり、必要な書類だけ俺たちに渡してくれた。

 このまま視察へ向かうようにと指示までくれる。

 どうやら、ユースはアレクのいうようにあの男爵の自宅を探るようだ。

 叩けば叩くほどにホコリが出るだろうな、あの男爵。




 さて、視察に向かいますかねえ。

 マックスたち、ちゃんと待っているかな?

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