復興への第一歩
色々とあったが、スラム街の視察へ向けて馬車で移動中だ。
今回はアレクがいるために、護衛もいつもより多い。
威圧だけはしないでくれよな、マジで。
スラム街の通りの広場に馬車が止まる。
どうやらマックスたちはちゃんと待っていたようだ。
アレクがあの男爵と比べているのか、大きなため息をつく。
「ハア。スラム街の孤児にも劣るあの男爵はよっぽど無能だったんだな……」
「今後に期待できそうですよね、彼らの方が」
「そうだな、ディーネ。さて、彼らがどこまで出来るか見せてもらうぞ?」
うっ、アレクは視察というよりもお目付け役って感じなのか?
城下街を楽しみにしていたのは、嘘なのか?
「大丈夫ですよ、お兄様。彼らはこれから優秀さを発揮しますから」
「だといいがな」
馬車から降り、マックスたちの下へ向かう俺たち。
こちらに気づいて、走り寄ってくるマックスたち。
護衛たちがいるためか、緊張して横一列に並んだのには笑ってしまった。
どうやら可能な限り、身ぎれいにしてきたようだ。
髪の毛が陽の光に当たって輝いてる。
挨拶もきちんとできているようだ。
これには護衛たちも少しだけ警戒を解いてくれたようだ。
「お、おはようございます!」
「おはようございます!」
「おはようごじゃいます!」
「みんな、おはよう。今日はお兄様も一緒よ。よろしくね」
「アレクだ、よろしく頼む。今回はディーネのお目付け役のようなものだがな」
「は、はい!」
「もしかして、王子様に当たる人……?」
「えっと、たしかそういう人を呼ぶときは、殿下って呼ばないとなんだっけ?」
「ふふっ、緊張しなくてもいい。そうだな、呼び名は殿下でいい」
「ついでに、私はディーネよ。それじゃあ、自己紹介も済んだことだし、さっそくお店に謝りに行くわよ」
「うっ、ホントに許してもらえるのかな?」
「散々わたしたち、悪さしてきたもんね……」
「だよね、今更って思われちゃうかも」
「大丈夫だ。お前たちが謝り、これからの態度で周囲も認めてくれるはずだ」
「そうよ、まずは誠心誠意謝ること。それからはあなた達次第よ」
『わかりました……』
「じゃあ、さっそく向かいましょ。まずはどこから?」
「パン屋からです……」
俺たちはスラム街の孤児たちを引き連れ、盗みを働いた店に謝りに行く。
最初は目を吊り上げて怒っていたが、子供たちの様子に許してくれた。
パン屋のおっちゃんなんかは「これから頑張んな」とパンをくれた。
その態度に子供たちは涙する。
ちゃんと「ありがとうございます」と礼も言えてた。
だからか、アレクの視線も次第に柔らかくなっていた。
「ふう、これで全部ね」
「ディーネ様、俺たちが間違っていたよ。ちゃんと謝れば許してもらえるし、応援もしてくれた。俺、これから頑張るよ。スラム街のほかのみんなにも謝らせる。そして、ちゃんと働く」
「そう、いい心がけね。じゃあ、あなた達の新しい住処をこれから見に行くわよ」
「俺たちの新しい住処?」
「ええ。今頃、準備ができていると思うわ」
俺たちはスラム街の通り前の広場の正面にある、大きな建物にやってきた。
ここの持ち主には話を通したら、ぜひ使ってくれと言ってくれたのだ。
すでにスラム街の大人たちは中で住む準備をしてくれているだろう。
生活に必要なものはこちらで用意すると言ってある。
着替えなども大まかには準備した。
昨日の時点でユースが動いてくれたようだ。
「おー、ホントにこんなところに住んでいいのか!?」
「ええ、ここで仕事してもらうわ。マックスには子供たちのリーダーとして、みんなをまとめてもらうわ。まだスラム街には孤児たちがいるでしょ? その子たちも盗みを働いた店に謝り次第、ここで働くように呼び掛けて」
「わかった、任せてくれ!」
「ところで、仕事って何をするんですか?」
「あまり難しいことはできませんよ?」
「最初は警備をする大人たちと一緒に読み書きと計算を学んでもらうわ。その後は、魔力訓練よ。魔力訓練に関しては、先生も用意しているから大丈夫よ」
「魔力訓練? 俺たちにも魔法を教えてくれるのか?」
「お兄様、街の儀式ってどうなっているのかわかりますか?」
「いや、知らないな」
「基本的には五歳になったら教会で授けてもらえるっす。ただ、教会側がお布施を要求するので孤児たちには難しいと思うっす」
「ありがとう、ヤン。私たちではわからないこともあるから助かるわ」
「では、五歳以上の子供、大人にはこちらから援助する。教会で儀式を受けられるように手配もしよう。彼らをただ遊ばせているのはもったいない。もしかしたら、育てば優秀な者も出てくるかもしれないからな」
「そうですわね、お兄様。では、そのように動きましょう。次の新年のときにまとめて見てもらいましょう」
「ディーネの適性も楽しみだな」
「ふふっ、私もです」
「最終目標としては、スラム街の撤去、街としての復興だな」
「これが第一歩になってくれるといいのですが……」
「大丈夫だ、僕もいる。父上や母上も協力してくれるさ。心配しなくていい」
そうだ、俺は決して一人じゃない。支えてくれる仲間がいる。
この一年でどこまで進めるかわからない。
だが、一歩を踏み出すことで進むんだ。
よーし、頑張るぞ!!
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