スラムの住人たち
今年もやってきました、新年の炊き出し!
新年を迎えて、これで俺も四歳だ。
早く儀式を行って魔法を使いたいぜ!
毎日毎日地道な魔力訓練、そろそろ頭がおかしくなりそうなんだ。
まあ、最近は光の魔石への魔力チャージという仕事が出来たんだがな。
父上がとても体感訓練機で頑張っているのだ。
その結果、画面が映らなくなった、操作が効かなくなったと騒ぐのだ。
魔石の魔力切れだと判断して、魔石に魔力チャージすることになったのだ。
これには父上が驚き、誰にもまだ見せるなよと忠告してきた。
すでに孤児院では教えていることを父上に告げる。
孤児院内の中ですることであれば問題ないという言葉を頂いた。
だが、人前では絶対にやるなよと注意をもらった。
孤児たちが外に出ることは少ない。
ましてや、外で魔石に魔力チャージする機会もないだろう。ひとまずは安心だな。
魔力チャージのお礼としてお小遣いをくれた。
王様のポケットマネーから出ているにしては、そこそこな大金ゲットだぜ!
冒頭に戻って、新年の炊き出しのために教会に来ています。
いつも通り調理には役に立たない俺は孤児院を訪ねる。
子供たちと空の魔石に魔力チャージをして、父上の注意を子供たちに伝える。
アンナは何やら書きものをしている。
俺があげた教本をさらにわかりやすくするためのメモ書きだそうだ。
「あなたは肝心なところで抜けているのです」とは本人からの苦言だ。
なるべく抜けはないようにと、確認はしたんだがなー。
子供たちの面倒を見ていると、ナンシーがやってきた。
調理が終わったようだ。
さて、配って配って、配りまくるかねえ。
俺のスマイルで住人たちを篭絡してくれるわ!
炊き出しの前に移動する。
護衛たちもこの時ばかりは目を光らせる。
あまり威圧するなよとは言ってはいるんだがな。
「はい、おじちゃん。寒いから体調には気を付けてね?」
「おお、俺にもこんな孫が欲しかった……」
「はい、おばちゃん。これ食べて今日も一日頑張って!」
「あたしの若い頃にそっくりだわ。あなたも頑張ってね」
順番に炊き出しを一人ずつに渡していると、列の後方が騒がしくなる。
どうやらスラム街の住人が並んで、周囲の人が嫌がっているようだ。
これはスラム街の住人との交流の絶好の機会と思った俺は行動する。
今、列に並んでいる人たちに別の列に並んでもらうように言いつける。
シスターさんたちと母上には許可をもらった上での行動だ。
俺はスラム街の住人だけの列を作ることにしたのだ。
衛兵さんたちは多少嫌な顔をしているが、協力してもらった。
護衛たちはより厳しい視線でスラム街の住人を見つめる。
「はい、おじいちゃん。大丈夫? 痛いところとかない?」
「ありがとうごぜえますだ、わしらにもこのような恵みをくださるなんて……」
「はい、お兄さん。ゆっくり食べて? 急に食べると身体がビックリしちゃうから」
「ああ、わかった。俺にもこんな娘がいればな」
ゆっくりとだが、列を消化していく。
そして、スラムの子供たちがやってくる。
いかにも俺たちヤンチャだぜみたいな風貌だ。
こんな子供たちの扱いは手馴れている。
大学の講義の中に幼稚園に行くことがあったのだ。
あの時はそこそこ体力のある俺が疲れ果てるほど、元気な子供が多かった。
っと、今は目の前の子供たちだな。
「大盛にしてくれよ、チビ」
「ダメよ、一律一杯なんだから。ほかの人の分がなくなるでしょ?」
「いいじゃねえか、こんだけあるんだ。ちょっとくらい多くしてくれたって」
「だーめ、あなただけを特別扱いは出来ないわ」
「お前たち貴族は毎日腹いっぱい食えるじゃねえか! だけど、俺たちスラムの孤児は明日には腹ぺこなんだぞ! 今日ぐらい、いいじゃねえか!」
そういう理論武装を展開するんだ。ふーん。
ほかの孤児たちも同じような目を向け、周囲の空気が悪くなる。
「じゃあ、あなたは働いたことはあるの? 食べ物を盗んでばかりじゃない?」
「俺たちのような孤児を雇ってくれる奴なんていねーよ! ばーか! その日を生きるために盗んで何が悪い!」
「悪いに決まってるでしょ、お馬鹿さん。まず、身ぎれいにする努力をする。口調も丁寧に。真摯にお願いすれば、雇ってくれるところはきっとあるわ」
「なんだよ、チビのくせに説教すんな!」
「それと、盗みはいくらなんでもダメ。その人が働いて得たものを、働いていないあなたが奪ってはダメ。最悪、衛兵たちに捕まって、あなたは鉱山行きなんだから」
「うぐっ! じゃあ、お前が俺たちを雇ってくれるって言うのかよ!?」
「ちゃんと仕事をするなら、雇ってあげてもいいわよ? 私にはそれだけの権力があるもの」
「なっ!? 本当か!?」
「ただし、身ぎれいにする努力。口調を丁寧にする。乱暴なことはしない。これだけは絶対よ」
「ああ、それくらいなら余裕だ!」
「あと、盗みを働いた所には私も付き合ってあげるから、謝りに行くことが条件よ」
俺の勢いに飲まれた少年少女たちが息をのむ。
周囲の大人たちも驚いているようだ。本当にいいのかと。
「あなたたちが誠心誠意働くというなら誰でも雇うわ。身体が悪い人には無理はさせられないから、仕事は選ぶけど」
「お、俺みたいなおっさんでもいいのか?」
「そうね、あなたは何が出来る? 読み書きや計算はできる? それとも腕っぷしが強かったりする?」
「腕っぷしは空っきしだ。で、でも、読み書きや計算は出来るぞ!」
「なら、あなたには私の事業の経理さんかな? ちょっと計算量が多いかもしれないから、ほかにも欲しいわね」
「お、俺も読み書き、計算できるぞ!」
「ワシも座ってなら手伝えるぞっ」
「じゃあ、おじいちゃんを中心にまとまって、事業の運営してもらえるかしら?」
「俺は読み書き、計算は微妙だが、腕っぷしは強いぞ!」
「お、俺もだ!」
「あたいもどっちかと言えば、腕っぷしだねえ」
「じゃあ、あなたたちには最低限の読み書き、計算を学んでもらうわ。その上で、警備の仕事かしら? 働くみんなを守ってほしいわ」
仕事が次々決まっていくのをポカンとした顔で眺めるスラムの孤児たち。
孤児たちだけじゃないな、周囲の大人たちもだな。
ホントに雇えるのか? って感じだ。やってやるさ、下地はあるんだ。
さあ、スラム街撤去計画の始まりだ!!
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