魔力充填訓練の開始
「あなたという人は、もう少し密に連絡を出来ないのですか? いきなり訪ねてきても、私がいるかどうかなんてわからないのです」
「いやー、今日ならいるかなあって……」
「ハア、まったく。もういいのです」
出会い頭に苦言を言うのは、聖女アンナだ。
連絡なしに来た俺が悪いのはわかっているのだが、こちらもあまり連絡を取ると下手な勘繰りをされたり、誘拐の恐れがあるのだ。
特に、前回のパーティの後からは王家のご機嫌伺いと称し、情報を聞き出そうとする連中の多いこと多いこと。
グリッジ魔道具店からも変な動きが見られるから注意するように、とゾロのおっちゃんが言っていた。
だから、慎重に行動する必要があるのだ。
「それで? 今日は何をしに来たのです?」
「ああ、頼んでいた魔力訓練の進捗を確認しにな」
「ほお? 私に丸投げしたあなたが進捗を確認ですか? いい御身分なのです」
「いや、ホントにすまないと思ってるって」
「まったく。小さな子は退屈そうにしたり、すぐにぐずるのです。そういう子たちのために工夫するのに、大変だったのですよ……」
「工夫?」
「ええ、二人で訓練したり、輪になって魔力を送ってみたりと……」
「すごいな! 思い付きでよくそんなことが出来たな!」
「り、理論的には出来ると思ったのです。ですので、もっと褒めてもいいのですよ……?」
「ああ、すごい! 俺が思いつかなかったことだからな。そこまで出来るようになっていたら次の段階に進めそうだ!」
「次の、段階……?」
「ああ、空の魔石に魔力を注ぐ。魔力訓練の最終工程だ。これが出来れば、稼げるようになるぞ!」
「ハア。また私がすべての孤児院に赴き、教えることになるのですね……」
「うっ、ごめんって」
「いいえ、あなたを利用すると決めたのです。今が頑張り時なのです。いずれはスラムの孤児や住人にも、この仕事を与えるのでしょう?」
「ああ、いずれはそうなる。もちろん教会の孤児院でも続けてもらう。スラムの孤児や住人にも接触もしないといけないんだよなー」
「その辺りはあなたに任せるのです。私は教える方に力を注ぐので……」
「わかってるよ。じゃあ、五人の様子を見に行こうか」
「それと」
「それと?」
「あなたは今、女装をしているのですから、口調は乱さない方がいいのです。とても気持ちが悪いのです」
「うっ、気をつけます」
孤児院の広い部屋の中で、五人が目をつぶり魔力訓練をしているようだ。
どうやら、先ほど言っていた輪になっての訓練のようだ。
「テッドお兄ちゃん、もう限界……」
「そうだな、一旦休憩にしようか。あ、シスターアンナ、それにあなたは……」
「テッド。みんなをうまくまとめて訓練してくれているようですね」
「ええ。毎日、あなたやシスターアンナに言われた方法で訓練しています。自分でも魔法の扱いがうまくなったとわかるようになりました。なので、続けられています」
「そうですか、それはよかった。じゃあ、そろそろ次の段階に進みますか。この魔力訓練の最終工程です!」
「最終工程、ですか? 何をするんですか?」
「以前にも軽く説明しましたが、空の魔石に魔力を注いでもらいますよ。今のあなたたちは、繊細な魔力操作が出来るようになっています。ゆっくり魔力を注げば、ちゃんと出来るようになるはずです」
「わかりました。やってみます。おーい、みんな休憩は終わりだ! この子が新しい訓練方法を教えてくれるってさ!」
「今度は何をするの?」
「もう同じことするの飽きた」
「おなかすいた……」
「ぼくにもできるかなあ?」
「ごきげんよう、あなたたち。元気でしたか? 今日からやる訓練にはこの空の魔石を使いますよ」
「なんか変な石?」
「新しいおもちゃ?」
「食べ物?」
「た、高そう……」
「石ではありますが、おもちゃじゃないです。食べ物でもないですよ? これから、あなたたちには今までやってきた魔力訓練の応用をしてもらいます。そこで、この空の魔石を使います。これに魔力をゆっくりと注ぐのですが、まずは私がお手本を見せますね?」
俺は意識してゆっくりと魔石に魔力を注ぐ。
徐々に光を取り戻す魔石に子供たちは大喜びだ。
魔石に魔力がいっぱいになると、一度強く光るので魔力の注入を止める。
「どうです? 綺麗な石になったでしょ? 魔力を注いでいくと強く光るから、それまで魔力をゆっくり丁寧に注ぐのです。一度にたくさんの魔力を送ると、魔石が割れて危ないから注意してくださいませ。強く光った後も注ぎ続けたら割れますから、魔力を注ぐのは止めてくださいね?じゃあ、試しにテッドからやってください。みんなにお手本を示してほしいのです」
「わ、わかりました!」
俺が空の魔石を放り投げて渡すとテッドが慌てて空の魔石を掴む。
テッドは深呼吸してから落ち着いて魔力を注ぐ。いい調子だ。
落ち着いてゆっくりと魔力を注げば、今のお前なら失敗はしないはずだ。
この分だと、わざと魔石を投げて、慌てさせる必要はなかったかな?
そして、魔石は強く光る。
魔力を注ぐのを止めたテッドは大きく息を吐く。
「ふう……、できました!」
「ええ、よくできました! みんなも参考になりましたか? 注意事項を守って、ゆっくりと魔力を注げば失敗することはないです。それでは、みんなで試してみましょう。テッドも見守ってください、シスターアンナも」
「わかりました」
「ハア、仕方ないのです」
この後はみんなで魔石に魔力を注いで、うまくいけばお互いに褒めあう。
アンナも恐る恐るだったが、きちんと注ぎ終わっていた。
だが、ほかのみんなとは魔石の光り方が若干違っていた。
不思議な魔石だったので、一度、ゾロのおっちゃんに見せる必要がありそうだな。
次に会うのは新年の炊き出しだろうと告げた。
定期的に空の魔石を持ってくることも約束して城に帰ることにした。
帰り道にゾロのおっちゃんのとこに寄って、不思議な魔石を渡してみた。
おっちゃんは「これは……」と呟いてから、魔石を見て黙ってしまった。
ゆっくりと説明を聞きたかったのだが、もう陽が落ちる。
夜になりそうだったので、おっちゃんに魔石を預けて急いで城に帰った。
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