美容魔道具のお披露目と噂

 気まずそうな顔したおっちゃんが、俺に今抱えている問題を教えてくれる。

 気付かなかった俺も悪いが、そういうことは早めに教えてくれよ、おっちゃん……



「実はな、開発資金がもう底を尽きそうなんじゃ。訓練機のための高価な光の魔石を何個も使いつぶしてしまっておる。送風機と美顔器の魔道具の部品開発にも、随分と金をつぎ込んだ。この上、献上となると次の開発が出来なくなるんじゃ……」


「ごめんね、おじちゃん。随分と無理させていたみたいだね。それにしても、開発資金の回収かー。城でパーティを開く予定はあったから、ちょうどいいのかな? 開発資金を募集したり、魔道具を購入予約してもらうのがいいかな?」


「送風機と美顔器の魔道具程度なら購入予約してもいいとは思うが、まずはお披露目と資金の募集までに留めたほうがいいとワシは思う」


「どうして?」


「まだ量産体制に入れないんじゃ。今のところ、この魔道具を作ることが出来るのはワシ一人だけじゃしな。ワシもこれだけ大きな案件だと、人を雇う必要が出てくる。だから、購入予約は待って欲しいんじゃ」


「そっか、わかったよ。その辺りも含めてお母様に相談してみるよ。パーティを開くとなると、お母様が主導になるだろうし」


「おう、頼むな。資金さえあれば、人も雇えるし、量産体制にも入れる。時間はかかるかもしれないが、今はじっくりと確実にいきたい」



 今後の開発の問題を解消するために帰ったら母上に相談っと。

 話し込んでいると、ペティが体感訓練機から出てくる。



「どうだった、ペティ?」


「女性騎士には余裕な運動量だと思います。ご婦人方にはちょっときついかなって感じましたねえ」

「そこを煽るための音声が必要かしらね? 考えておきましょう」


「ただいまっす! お嬢、昼食買ってきたっすよー!」

「ただいま戻りました。お嬢様、こちらがお釣りになります」


「ん、ありがとう。じゃあ、昼食をとってから最終確認しましょうか」

「だいぶ動いたからお腹空いてたんだー! タイミングがいいね!!」



 昼食をとってから、体感訓練機の最終確認をする。

 城に持ち帰る際に、献上するという形でおっちゃんも一緒についてくる。

 帰りの馬車の中で、魔力のなくなった光の魔石に魔力をチャージしておく。

 おっちゃんの資金節約のためだ。あとで返すのを忘れないようにしないと……




 応接室に国王である父上と王妃である母上がやってきた。

 おっちゃんはまた緊張していたようだけど、相手は国王だからね。

 おっちゃんが緊張しないように応接室にして! とは強く言ったんだけど……

 それでも緊張はするよね。


 父上は体感訓練機の実物を見て、ワクワクといった好奇心を隠せないでいた。

 母上は念願の美顔器の魔道具を喜んでくれた。

 ナンシーや王宮メイドたちは送風機に喜んでいた。


 体感訓練機はまだ試作機であり、完成品にはほど遠いことを伝えた。

 ガッカリした様子の父上に、王家に協力してもらい完成させたいと話をする。

 この話に父上は、しきりに頷き、「よかろう」と一言返すだけだった。

 ホントはすごい楽しみなんだよね? 父上?


 母上は美顔器を動かしつつ、使い方の説明を王宮メイドたちと共に受ける。

 薬液の存在を聞いてからは早く試したいのかソワソワとしだした。

 保水液の仕様上、就寝前の使用が効果的と説明を受けて、大人しくなった。


 送風機に関しては、王宮メイドたちも使いたいという話になった。

 そこで量産はしないのかという話が出たのだが……

 ここで工房の開発資金が底を尽いたという話を返す。



「そういうことなら、ガーデンパーティーを開いて資金を募りましょう。新しい料理とこの魔道具を紹介すれば、ご婦人方からは集まると思うわ。それと、体感訓練機に関してはまだ噂程度に留めておきましょう。まだ開発の余地はあるのでしょう?」


「はい、お母様。空の魔石の対策もまだ進んでいません。それに、肝心の音声集めも終わってません」

「音声集め? 以前から聞きまわっている声のいい俳優や女優のことかしら?」


「演技力も含めて声質のいい俳優や女優を面接する必要があるのです。その音声を録音して訓練機に使うつもりです。その声に応援してもらえれば、ご婦人方も運動を頑張れると思いましたので。男性向けには臨場感を出すための若い女性の声を集めるつもりです」


「ほお? 面白そうだな。ディーネの声を録音したものもあるんだろうな?」


「ありますよ、お父様。現状では、見た目が安っぽいことや音楽がない状態です。そ、こ、で、もっと臨場感を出すために音楽家や絵師にも手伝ってもらいたいのです! お父様やお母様の伝手でどうにかなりませんか?」


「絵師には伝手があるな。我々の絵姿を残すための絵師に頼めばよかろう」

「私の方では音楽家に聞いてみます。盛り上がる曲や楽しい曲を頼んで作ってもらいましょう」


「ありがとうございます! お父様、お母様! これで一気に訓練機の改良が進みます!」

「すでに訓練機は持ち込んでいるのだろう? 試しに触ってやろう」


「二機あるのですよね? 私も触ってみましょうか」



 使い方の説明を軽くして、二人が筐体機の中に入っていく。

 心なしかワクワクしているようだったよ。この世界、娯楽少ないもんね。

 そして、いざ使ってもらうと、父上が入った筐体機が何やらうるさい。


 声が分厚いカーテンに阻まれているが、聞こえてくるには……

 「ディーネええええ!」「パパは負けんぞおおおお!」という声だった。

 どうやら、俺が吹き込んだ臨場感溢れるセリフに反応しているようだ。

 とても面白い。


 おっちゃんは最初、目を丸くしていた。

 次第に肩を震わせて、笑いをこらえているようだった。俺は恥ずかしいよ。

 しばらくしたら二人が出てきた。

 暗い顔をした父上と笑顔の母上に、訓練機を使った感想を聞く。



「どうでした、お父様、お母様?」


「スライムごときに負けた。ディーネを救えなかった、すまない、すまない……」

「ディーネの声を聴きながらピクニック気分で楽しかったわ。音楽があればもっと楽しめそうね!」


「お母様の方は楽しめたみたいですね。お父様、大丈夫ですか……?」

「二度とやるか、こんなもの! スライムはあんなに強くない!!」


「ええ!? せっかく室内で運動してもらうつもりで作ったのに!」

「そうね、あなた。ディーネの気持ちも考えてあげてくださいな」


「俺は外でも運動できるからいいのだ!」

「そんな時間取れないでしょうに……」



 ここで母上から視線を向けられる。

 その視線は父上の腹部に向かっているようだ。

 実際に使ってもらった護衛たちの話も合わせて、そこを突いてみるか。



「私の護衛たちは自分から足腰を使い、腕を振るいと工夫をしていました。訓練機も使い方次第のようです。一番難しい難易度もやりごたえがあると言って、何度も挑戦していました。父上は難易度は高いのを選んだのでは?」


「う、うむ、最高難易度にした」

「それは難しいでしょう。現役の騎士ですら目標達成できていないのですから」


「そうなのか? なら、難易度が高すぎるのか!」

「はい。それと、言いにくいのですがお父様? 最近腹部が出てきていませんか? 私の料理を残さず食べてくれるのは嬉しいです。嬉しいのですが、太ったお父様は『嫌』です。『嫌い』です。『大嫌い』です。なので、ぜひ訓練機を使って痩せてくださいませ?」


「なっ、なんだと!?」



 俺の言葉に、ショックを受けた父上が灰になってしまった。

 あとは母上に任せよう。

 おっちゃんもいたたまれなさそうにしている。

 というか、おっちゃんも腹部を撫でている。


 おっちゃんも気にしているのか……


 まあ、おっちゃんも運動して健康的になってくれ。

 今までは飲み過ぎだったようだしな、少しは運動しような。




 翌日から父上の執務速度が上がった。

 執務をある程度片付けると、残りは文官や大臣に任せているようだ。

 自室にこもり訓練機を使ってくれているようだった。


 ただ、今日も私を救えなかったようだ。慟哭が聞こえる。


 最高難易度は護衛の騎士たちですらクリアできていないのだ。

 難易度を下げるように進言しておこう。





 母上と相談してガーデンパーティーを開くことになった。

 今日の趣旨は、新しい料理と美容魔道具のお披露目だ。

 それに加えて、開発資金の回収をしなければならない。


 俺がまだ小さいため、すべて俺が考えたものとは捉えられてはいないようだ。

 母上が考えたことになってしまうことを、母上は申し訳なさそうにしていた。

 誰だってそうだろう、自分の子供の手柄をとって喜ぶ者はそうはいない。

 だが、それに関してはいずれわかることなので問題ない。


 今日は広い庭で調理をすることになる。

 簡易的なものだが、石窯を作ってピザを焼いてもらうことにした。

 フライドポテトは厨房から運んでくる形だ。

 ピザ生地を広げる演出が招待客にウケているようだ。


 この日のために、料理長たちは練習していたもんな。



「こちらが美容の魔道具ですか。こちらの送風機は手に取って確認してもよろしいのですか?」


「ええ、よろしくてよ」

「すごいですわね、これなら髪が早く乾かせそうですわ!」


「こちらの美顔器もいいですわ。実際に使えば、顔に潤いを与えてくれそうです」

「メイドに使わせてみせましょうか? どれほど効果があるかがわかるでしょう」


「メイドに、ですか? どこまで効果があるのでしょうか?」

「まずはメイドの肌に触れて、使う前後の差を覚えてくださいね。今回使うのはこの保水液です。こちらをこの貯槽に少々入れて、美顔器を使います。使いながら顔をマッサージすると、薬液が顔に染み込み、より効果的ですわ」



「すでに肌に艶が出ていますわね」

「こちらの保水液は魔法薬師に調合してもらったものです。ほかにも浄化の魔法液を作っていただきました。そちらは顔の汚れがごっそりと落ちるそうですわ。薬液を作った魔法薬師も後ほど紹介いたしますね。さて、これくらいの時間でも効果は出るでしょう。使用後の肌に触れてみてくださいませ」


「まあ、すごいわ!肌がモチモチよ!」

「この短時間でここまで差が出るだなんて、びっくりですわ」


「使用後には薬液で湿らせた薄いガーゼなどで、顔を保湿するとより効果的ですわ」


「ぜひ、欲しいですわ!」

「わたくしも! 工房を紹介してくださいませ!」


「私も工房を紹介したいのですが……。現在、その工房は開発資金が底を尽いてるそうですわ。それに現在はお一人で運営しているそうです。ですので、開発と運営資金さえあれば購入が出来るようになるそうですわ」


「ならば、私が支援いたしましょう」

「わたくしも支援いたしますわ!」


「ありがとうございますわ、皆様方。それと、まだ秘密なのですが、開発中のものもあるそうですよ? 楽しく運動出来て、痩せるという魔道具が……」


「まあ!? 最近、好みの俳優や女優の名前を聞いていたのはそのためですの?」

「どんなものが出来上がるのかしら?」


「ふふっ、王家にはすでに試作機が二機献上されているのです。まだまだ開発中とのことで、協力を申請されたのですよ?」


「王家に協力を!?」

「とんでもないものが出来上がりそうですわね……」


「ですので、そちらの方でも支援をお願いしますわ。すでに私は楽しく運動できています。ですが、完成品を見るのが楽しみなのです」


「わかりましたわ、ぜひ完成品を触ってみたいです」

「楽しみですわね! 旦那様にも使っていただければ、きっと……」


「陛下も執務の合間を縫って使っているそうです。旦那様にはオススメですわ」


「陛下も使っているだなんて、よっぽど腕利きの工房なのですわね」

「それでいてまだ未完成品、伸びしろがあって素晴らしいですわ!」



 母上がご婦人方にゾロのおっちゃんの魔道具をプレゼンしている。

 俺がするよりも格段にうまい。資金回収もこの調子なら余裕そうだな。


 だけど、紳士の方々にはあまり興味をひけていないようだ。

 体感訓練機の実物があればよかったんだがなー。

 こちらは今回は諦めるしかないかな。

 だが、実物が発売されたときにはきっと……


 俺の迫真の演技と今後加わる予定の臨場感あふれる音楽で虜にしてやるぜ!




 さて、資金回収のパーティも成功した。

 新年までは孤児院に行って魔力訓練の調子でも見に行くかな?

 調子がよければ、魔石への魔力チャージを挑戦させてもいいかもな。

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