専属護衛と料理

 誘拐されてから数日が経った。


 あの誘拐事件はバカな貴族が俺を攫うことで……

 悪漢たちから俺を助け出して、国王に恩を売る作戦だったらしい。


 俺の外出が急だったために……

 計画が杜撰だった点。雇ったチンピラの頭が悪かった点。

 国王である父上にあの辺りにいるかもしれないと自己申告して怪しまれた。

 などなどと、バカな貴族のせいで、俺はだいぶ怖い目に合った。


 そして、俺は城に現在軟禁状態なのだ。

 父上がもう城の外には出さん! とね……

 バカな貴族のせいで、本当に迷惑だ。




 まあ、悪いことばかりじゃない。

 あの二人の護衛が俺の専属になり、自己紹介することになった。

 俺が男だと知ると、大層驚いていた。



「いやあ、お嬢……いや、ディーノ様にそんな趣味があったとは驚きですねえ」


「ニヤニヤするな、ヤン。それに趣味じゃない。父上や母上、ナンシーや王宮メイドたちに、俺は毎日この格好にされるんだ」

「そうだぞ、ヤン。例え主人に女装癖があろうとも、からかうようなマネはやめろ」


「お前も同罪だぞ、シャフリ……」

「なっ、どうして!」


(ハア、専属の護衛が出来たんだ。せめて城の中だけでも自由に行き来させてもらえないかなあ? まあ、とりあえず父上に相談かな?)



 俺は護衛を引き連れて、父上の執務室に向かう。



「むっ? どうした、ディーネ? 何か欲しいものでも出来たか?」


「違います。専属の護衛がついたのです。せめて城の中だけでも自由に移動させてほしいのです」

「だが、またいつバカな貴族がお前を狙うのかわからんのだぞ? 俺はそれが心配で……」


「さすがに、城の中では人の目があります。今は護衛もいますから安全ですよ。なんなら移動先は必ず連絡しますから」

「ふう、仕方ないな。それでどこに行くつもりなんだ?」


「厨房です」

「厨房? 何か食べたかったのか?」


「いえ、料理でもしようかと。美味しくできたら食べてくれますか……?」



 ここで上目遣いも忘れないのがポイントだ。



「ぜひ作ってくれ! ディーネの作る料理が食べたい!」


「ありがとう、パパ! 大好き!!」



 二人の護衛からジト目を向けられつつ、厨房へ向かう俺たち。

 何を作ろうかなと考えつつ、この世界のことを考える。




 この世界には、俺以外にも地球からの転生者がいたらしい。

 『らしい』というのは、あまりにも情報が断片的で、言い伝えですら曖昧なのだ。

 だが、現在にも残るものがある。

 それがリバーシと天然酵母だ。


 リバーシは仕組みが簡単だからか、現代までにも残り、いまだに人気のようだ。

 天然酵母に関しては、食にうるさい人が作り上げたんだろうな。

 どうせなら醤油や味噌なども作ってほしかったよ。


 この国には海があるので、昆布は存在するという曖昧な話は聞いたことがある。

 だが、実物を見てみないことには判断がつかない。

 それに出汁だけがあっても、やはり醤油や味噌が欲しい。


 どうにかならんもんかな……




 つらつらと考えていたら、あっという間に厨房に到着したようだ。

 今は昼食が終わり、賄いを食べ終わって片づけをしている時間帯のようだ。

 ちょうどよく、料理長がお茶を飲みながら休憩していたので声をかけた。



「どうかしましたか? ディーネ様」


「お前たちもか……」

「?」


「いえ、父上たちに料理を作ろうと思ってね。ティータイムくらいに間に合えばいいなと」


「何をお作りになるつもりで?」

「そうだねえ? 手軽に食べられて、腹持ちもいいピザかな?」


「ぴざ? それはどのような料理でしょうか? 非常に興味深いです」



 ピザに興味をもった料理長にレシピを説明して、ピザを作ることにした。

 詳しいレシピなんて知らないので、基本はおおざっぱに、だ。



「ほおほお、パン生地を皿代わりにした料理ですか。男性には好まれそうですね」


「女性にもデザートピザというのがあるわ。でも、そっちは材料が足りないから、今回は作れそうにないかな」



 デザートピザには、アイスやチョコソースなどと色々と必要になる。

 それに、今回は食事という面が強いので却下だ。


 さて、作っていくか。まずは生地からか。

 ソースも同時進行できるのなら、指示だけは出しておく。



「発酵具合とかわからないんだよね。食べたときの食感は、生地の厚さでもっちりだったり、カリッとしたものにできるよ。ほかにも生地にチーズなどを入れ込んだりして、飽きない工夫ができるんだよ」


「ほお、実に興味深い。今回はもっちり食感とやらで作ってみましょうか」

「トマトソースは、ただトマトを潰して使うよりも、香辛料や香りの強い野菜や薬草を入れたり、ベーコンなどで脂を加えることで、より味わい深く、風味豊かになるよ。ガーリックを入れるだけでも、お手軽にコクが出るわ」


「わかりました。ソースの方は私にお任せください!」



 副料理長も興味を持って手伝ってくれるらしい。

 俺のつたない説明でも、こうしたら美味しくなるかも? と考えてくれている。

 俺としては非常に楽な作業だ。


 この世界の野菜などの呼び名は俺の翻訳機能で、俺にもわかりやすくなっている。

 口でしゃべってる言葉と頭で考えてる呼び名が一致していなくて、若干気持ち悪いのだが、こればかりは慣れるしかないと諦めた。



「最後にオーブンに入れる前のチーズなんだけどね。これはあまり癖の強いチーズを使わないほうがいいわ。そういうのが好きな人もいるかもしれないけどね。けれど、私はやっぱり普通のチーズの方が好きだよ」


「なるほど。風味が強いものを使うと、ほかの味の邪魔をしそうですからね。ピザとは、皿代わりのパン生地との一体感が大事のようですね」

「そうそう、好みで酢漬けにした唐辛子の液体を振りかけるといいわ。トマトソースの場合は辛みで味が引き締まって美味しくなるよ。付け合わせに、ジャガイモを切って油で揚げようか」


「あげる、ですか? どのような調理方法でしょうか?」

「ああ、温めた植物油などで茹でる? といった表現の方が伝わりやすいのかな? まあ、試しに作ってみよ? ジャガイモは切る形によって食感が変わって面白いよ。薄く切ったり、くし切りにしたり棒状にしたり、細くしたり太くしたりね?」


「それくらいなら、見習いたちでもできそうですな。おいお前たち、言われたように作ってみろ」



 そうして、あっという間に完成したジャンクフードの塊。

 ピザとフライドポテトだ。

 カロリーのお化けだなー、こうやって見ると。

 まあ、食べる量に制限かければ大丈夫だろう。



「おー、圧巻だね! これだけのピザとフライドポテトを見ると」


「ふらいどぽてと? いえ。実に美味しそうですね! では、実際に食べてみますか?」

「ヤン、シャフリ。二人の意見もちょうだい? 騎士たちの食卓にも並ぶかもしれないからね」


「いいんすか!? やった! 見ていて腹減ってたんすよねー!」

「俺たちの意見もですか? 責任重大ですね……」




 シャフリさんや、そんな真面目に考えすぎないでくれ。

 物欲しそうな目をしていて、俺たちだけで食べるのが出来なかったんだよ。


 さて、いよいよ実食!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る