熱々の料理

 香ばしい生地の焼けた香りに、このトマトソースの香りがもはや暴力だな。

 ソースに何か香辛料でも入れたのかな?

 ふんわりとスパイシーな香りを感じる。


 オーブンの扱いもさすが本職って感じだ。

 チーズがまんべんなく溶けて、焦げ目もついていて食欲をそそる。

 表面のチーズがぐつぐつとしていて、見た目のインパクトも強い。


 フライドポテトは見習いたちが面白がって、色々な形に切っていた。

 どれもこれも揚げた食感が楽しみだ。


 さあて、肝心のお味はどうかな?



「熱っつつ、ふむふむ。美味しい! ソースがすっごく美味しい!」


「お褒め頂きありがとうございます。教えられた通りに作っただけですが、多少自分でもアレンジしてみました」

「副料理長、このソースおいしいよ! この生地もふっかふかのもっちりで美味しいね! 腹持ちがよさそう!」


「ヤン、両手に持って食べるな。ほかの人の分がなくなる」

「なに、今回は実験でもありますからな。また焼けばいいのです。それにしても、このフライドポテトですか? 見習いたちに任せて、好き勝手に切られており少々不安でしたが……、揚げるという調理方法で、どれも食感が違って面白いですね」


「だよねー、好みが分かれて戦争になりそうだよ。二回以上出すなら、事前に出すときに好みを聞いた方がいいかもね」



 俺たちは口々に感想を言い合う。

 おおむね感触はよさそうだ。

 あとは料理人たちに任せて、味を洗練していってもらおう。


 あーでも、あれだな。

 トマトソースだけじゃ物足りないんだよなー。



「はあ、テリヤキソースも作れればなあ……」


「ほお? ほかにもソースがあるのですか?」

「ええ、あるにはあるけど、ソースの素となる調味料を見たことないんだよね」


「どのようなものでしょうか? 今度、食材を卸している商人に聞いてみましょう」

「あのね、醤油と言ってね。色は黒くてさらっとした液体で、それ単体だと塩辛いだけなの。これを加工したりすることで万能調味料になるの。さっき言ったテリヤキソースの素になるのが醤油だよ」


「ほおほお、そんなものが……」

「味噌も探してほしいんだけど、茶色の泥のような見た目なんだ。ただのお湯に溶かすだけでも滋味深い味わいになるんだよね」


「ミソですか? わかりました、聞いておきましょう」

「もし味噌が見つかったら、かつお節と昆布も一緒に探してみて。類似品でもいいんだけど、水に浸けておくだけで、うまみが水に溶けだすの。それが出汁というものなの。その二つの食材は出汁をとって、ほかのスープと組み合わせることでより美味しくなるの」


「わかりました。随分と饒舌でしたな、それだけの情報があれば商人にも伝わるでしょう。ふふっ、ディーネ様は意外と食いしん坊でいらっしゃる」

「副料理長っ!? 私はただ食べたいなって思っただけで、食いしん坊ってわけじゃないよっ!!」


「さて、陛下たちへの調理時間が残り少ないですね。皆で協力して作っていきますか」

「ちょっと、もう! うぅ~……」



 くぅ、食への渇望が前面に出てしまった。恥ずかしい。

 くそっ、笑うなら笑え! 肩、震えてんぞ、そこの護衛二人!!





「ほお、これがディーネが言っていた料理か。実にうまそうだ!」


「我々、文官勢の分まで作っていただけるとは、優しいお嬢様だ」

「ん? この水の入ったボウルはなんだ?」


「そちらは手が汚れることを見越して、手を洗うためのボウルです。お手拭きはそちらに」

「ほほお、俺たちの仕事への配慮もなされている。くぅ、今すぐ抱きしめたい!」


「では、冷めないうちに頂きますかね。むぐっ!」

「これはこれは、陛下は食べないほうがいいですね。我々で先に毒見を致しますので、しばらくお待ちを」


「あっ、あっ、減っていく。俺の分が。ディーネが作ってくれた料理が。って、お前ら、毒見の割には食うではないか!?」

「これは異なことを。これは毒見ですからな。どこに毒が入ってるかわかりませんからね、あーうまいうまい」


「うまいって言ってるじゃねえか!? いいからよこせええええ! 俺もたまには熱々な料理が食いたいんだああああ!!」



 この日を境にちょくちょくと、ピザとフライドポテトが食卓に並ぶようになった。

 俺は食べるのはほどほどにして、運動もしているが……

 みんな大丈夫?


 そんなにバクバク食べたら太っちゃうよ?

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