初めての魔法

 うっ、何ここ? くっさい。

 てか、顔が砂でザラザラする。

 どうしてこんなとこに寝かされてるんだっけ……?


 記憶を辿って、ハッとする。

 そういえば、おばあちゃんを手伝おうとしたんだっけ?

 それで、意味深なことを言われて、急に馬車が突っ込んできて攫われたんだ!


 ぐぬぬ、不覚。

 あんな唐突に決まった外出予定で、誘拐する奴がいるなんて思わんじゃん?


 さて、状況確認からだな。

 部屋は薄暗いけど、壊れた屋根からはうっすらと陽の光が入ってきている。

 んで、状況は悪いことに手足まで縛られてる。

 軽くイモムシさん状態だ。


 遠くから下品な笑い声が聞こえてくる。

 俺を攫った奴らは四、五人かな? それくらいの人数の声が聞こえる。

 とりあえず様子見かな?

 人数差がありすぎるし、子供の俺じゃどう頑張っても勝てそうにない。


 さて、ホントにどうしよう。

 脱出しようにも手足は縛られているしなあ。


 あ、そうだ!



(教官! 教官いる!? いるなら返事して!)


『まったくなんでこんな状況になってるんですかねえ?』


(それは俺が聞きたいよ! ねえ、教官助けてくれない?)


『わたしが直接助けることはできないんですよねえ……』


(マジかよ、どうにかなんない?)


『なりませんねえ、めがみ様にお伺い立ててみるしかないんじゃないですかね?』


(こんなときの神頼み!? って、何をどうすればいいんだよ!)


『限定的に魔法を使わせてもらえないか、聞いてみたらどうですか? 今の状況に有効な魔法を授けてくれると思いますよお』


(お、おう。女神様! 今の状況を脱せられる魔法をお願いします!)



【土魔法限定習得……申請を許可します】

【光魔法限定習得……申請を許可します】



(おおっ! 『限定』ってことは今だけっぽいけど、魔法が使えるようになったのか!? でも、どう使えばいいのかわかんねえ! 教官助けて! ヘルプ!)


『ハア。まあ、こういう時のためにわたしがいるんですが……、まずは周囲の壁を土で覆ってしまいましょうか。今までの訓練の応用ですよ。循環させた魔力を指先から放出。あとは想像力で魔法が形作ります』


(ほおほお、なるほど。指先って、手縛られてるんですけど!?)


『じゃあ、まずは縄を焼き切る想像して光魔法を使いましょう。気を付けてくださいね? 縄を切るつもりが、指を切り落としましたとか笑えませんから』


(お、おう。……ちゃんと集中して。光で縄を焼き切るイメージで……!)



 指先に集中してから、人差し指を伸ばして、縄に沿って指を動かす。


 プツン。


 よし、手が自由になった!

 足も自由にしようと思ったけど、こちらに向かってくる気配というか軋む床。


 ヤバい、急いで土の壁を生成しないと!?


 とりあえず、正面の壁だけでいいから、間に合え!!

 俺は扉に向かって、土壁ができるようにイメージして手のひらから魔法を放出。



「ん? なんだこりゃあ!? どうしてこんなもんが?!」


(よし、なんとか間に合った! でも、急いでいたせいで、ちょっと扉との距離感をミスった。もっとちゃんとイメージしなきゃ!)



 このままでは簡単に崩されると焦った俺は、もう一度しっかりとイメージして硬い土壁を魔法で用意した。

 初めての魔法なんだ、大盤振る舞いしてやる!

 四方の壁も、ついでに床も土の壁で埋めることにした。



「くそっ! おい、おめえら! 商品が逃げ出すぞ、囲め!!」


(ふう、これでとりあえずは大丈夫かな? あとは助けを呼ばなきゃ!)



 今のうちにとばかりに、足の縄も切り終わった。

 天井を見る。

 壊れた屋根から、陽の光が入る。

 ここから助けを呼ぶしかない。



『基本的には魔法は想像力ですよ、あとは魔力量だけです。心配しなくても、今のあなたならそう簡単には倒れないですよ』


「教官、ありがとう! よーっし!」



 魔法はイメージ!

 なら、これだ。気づいてくれよ、みんな!

 俺は天井に向かって、光魔法を放つ。

 もう夕刻だ、この魔法なら目立つはず!



「いっけええええ!!」



 空に光の大輪が咲く。

 俺は何度も何度も、光の花火を打ち上げる。

 気付いてくれよと願いながら……





 それから、しばらくしてからだった。



「うおおおお! 俺の『愛娘』を攫ったのはお前らかああああ!!」



 この声は、父上!?

 てか、誘拐犯逃げていなかったのかよ?! 馬鹿か!!

 大きな音が辺りで鳴り響き、静まったころには土の壁をノックする音が聞こえた。



「この中かと思われます!」


「ディーネ! 無事か!? 悪い奴らはパパがみんな倒したぞ! 出ておいで!!」



 父上の声を聴いて、なんだか安心してしまった。

 土壁の一部を崩し、父上たちを招き入れる。



「ふぇ、怖かったよお……」



 父上に抱かれて、安心して泣いてしまい、泣き疲れて寝てしまった。

 そのまま父上の胸に抱かれて、俺たちは城に帰ったそうだ。


 頭を撫でる父親の大きな手を感じて、心から安堵した。

 俺はこの人の子供なんだなと思う瞬間だった。

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