アレクの儀式
あっという間に二年の月日が経った。
俺は今も小さな天使さまという鬼教官のもと、魔力訓練を続けている。
『この年齢としてはだいぶ魔力管も広がって、魔力濃度も濃い方ですね。でも、魔力の循環速度がまだまだです。もっと速度を上げてください』
「くっ、魔力濃度が濃いせいなのかわからんけど、魔力が重いんだよ……」
『なら、魔力をもっと集めて、魔力管をもっと広げてみましょう。そうしたらスムーズに流れると思います』
「うぐっ、余計なこと言ったな、これは。新たな課題を出されてしまった…」
そんな風に魔力訓練をしていたら、扉をコンコンと叩くノック音が鳴った。
入室を許可すると、部屋に俺の専属のメイドが入室する。
「ディーノ様。アレク様の儀式へ同行するのであれば、そろそろ準備しないと間に合いませんよ?」
彼女はナンシー。
城への奉公としてやってきている男爵令嬢だ。
物静かな印象だが、可愛いものが好きなのを俺は知っている。
あと、意外と食いしん坊なのも。
「はーい、着替え着替えっと」
「私が着替えさせたいのですが……」
「ナンシーは最終確認だけしてくれ。さすがに着替えさせられるのは恥ずかしい」
「ハア、わかりました……」
なんで、そんなに残念そうなんだよ、まったく。
着替え終わって確認も終わり、朝食を食べに食堂へ行く。
「おはよう、ディーノ」
「おはようございます、母上。父上と兄上は?」
「あの二人なら儀式の最終確認です。私たちは先に朝食を頂きましょう。」
紹介しよう。我が母、リリー母様だ。
豊かでふわっとした金髪に均整の取れたモデル体型。
瞳の色はエメラルドのような鮮やかな緑だ。
食事をとる所作も優美で、一生かけてもマネできないなと俺は思っている。
「遅れてすまんな、2人とも」
「いえ、まだ料理を並べてる最中だったので間に合っていますよ、あなた」
「おはようございます、母上、ディーノ」
やや遅れて食堂に入室してきたのが、この国の国王。
我が父であるヴィルフリート父様だ。
艶やかな黒髪に、金の瞳で細マッチョである。
たまに母上をお姫様抱っこしているのを見かけるくらいにはムッキムキだ。
大変仲睦まじい様子で、3人目も時間の問題かなって思っている。
兄であるアレクは母上の金髪を引き継ぎ、アイスブルーの瞳をしている。
俺はというと、父上の黒髪を引き継ぎ、瞳は茶色で人形のような顔立ちである。
日本人な色ではあるのだが、西洋人に近い顔立ちなので将来に期待ができる。
ただ、今世でも女顔なので『今度、商人が来た時にでも、ディーノには女装させてみようかしら?』と、母上が呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。
(くっ、今世でも女装するハメになるのか……! まあ、その時はその時だ。諦めよう。似合わないかもしれないしな!)
この時の俺は甘かった。パンケーキほどに甘かったと言っていい。
あれは人生を狂わすほどの事件だったからな。
朝食を食べ終わり、本格的に儀式の準備が始まる。
王族の場合、守秘義務が発生する可能性があるのでこじんまりとしたものだ。
本人と儀式を行う神官、それを見守る家族というメンバーだけで儀式を行う。
大きな秘密を抱えることになったとしても、神官を処分するだけで済むらしい。
処分とか簡単に言っちゃうのが恐ろしいよ……
とはいっても、基本的にそんなことにはならないようだ。
どうやら女神様からステータスなるものを授かり、それが表示できるようになるだけらしい。
この辺はゲームみたいだな、近未来なVRゲームって感じだ。
さてさて、王族の儀式の間へとみんなで移動だ。
ここには護衛も侍従も入れない。入れるのは神官と王族のみ。
大昔に、王族に手を出そうと、この場に踏み入った者たちがいたそうだが神々の裁きを受けて、跡形もなく消えたそうだ。
そういうわけで、セキュリティは万全のようだ。神々の裁き怖え。
「さあ、アレク。手筈通りにな」
「はい、父上」
「では、アレク様こちらへ」
アレクが神官に連れられて、女神様と思わしき像の前で膝をつき祈る。
儀式はたったそれだけのようだ。
女神像の持つ水晶が一瞬光ったようだが、これといった変化は見受けられない。
「儀式が終わりました。あとはご家族で確認してください」
「ふむ、無事に終わってよかった。さて、夕食まで時間がある。私も少しなら時間が取れる。このあとは家族団らんと行こうか」
「はい、父上!」
「あら、あなたにしては珍しく仕事を片付けたのね」
「こういうときくらいはな?」
父上、母上にあまり信用がないようだ。
でも、俺は知ってる。
そうやって、イチャついてるってこと。
アレクは純粋に喜んでいるが、騙されるな!
あれはイチャつく前段階だぞ!
団らん室に移動してから、アレクが自信満々にステータスを両親に見せる。
「見てください、父上、母上! ステータス!!」
「ほお? 水の適性が高いかもしれないとは聞いていたが、水魔法がもう三レベルではないか。」
「あらあら、このまま訓練を続けていけば、優秀な魔法使いになれそうね」
「それに氷魔法の適正もあるのか、夏場には便利だぞ?」
「夏場の鍛錬には、氷魔法使いのもとに人が集まりますからねえ……」
「うっ、なんか僕の想像と違う……」
(へー、ステータスって言っても適正魔法とその熟練度が見れるだけなのか。俺の適性魔法とかどうなっているんだろうなー)
「二年後にはディーノの適性もわかるのか、楽しみだな」
「ディーノにはどんな適性があるのかしら?」
「きっと、僕よりもすごい適性があるかも? 毎日、魔法を見せていたからね!」
そうなのだ。アレクはあれから毎日のように、俺に魔法を見せつけていたのだ。
俺が魔法を使えないのをいいことに。
意外と腹黒い部分がある兄のようだ。
いつか弱みを握ってやろう。
絶対にアレクよりもすごい適性もらうんだからな、今に見てろよ!
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