魔力訓練

 アレクが魔法を使った翌日から、俺も魔法を使いたいと乳母におねだりしてみた。



「うう、ああー!」


「なんだか今日はご機嫌ですねー? 何かいいことでもあったのかしら?」



 まあ、こっちは赤ん坊である。

 おねだりしてみても可愛いなあで済まされるよな、そりゃ……

 うー、俺も魔法使ってみたい!

 またアレク来ないかなあ、見るだけでも楽しかったしなあ。


 いや、嘘をついた。正直に言おう。

 魔法、ものすごく使ってみたい。

 見るだけじゃなく、自分で扱って楽しみたい。

 とは言っても、どうすれば使えるのかもわからんしなあ?


 ライトノベルに載っていたように、お腹の辺りに不思議な力でもあるのか?




 うーん、わからん。

 意識してみてもなーんにもわからん。

 うがー! 俺も魔法使ってみーたーいー!

 そんな俺の心の叫びを汲み取ってくれたのか、またあの脳内アナウンスが流れる。



【魔力操作習得……申請を許可します】

【全魔法習得……申請を却下します】



(ほあ!? 魔力操作!? あ、なんで魔法の方は却下なんだよお……)



 ふむ、神様的な存在にでも見守られているのかな?

 魔法はまだ危ないから、今は魔力操作で我慢しろ的な?

 まあ、いいか。

 魔法を使う一歩は踏めたし、しばらくは魔力操作とやらで遊ぼう。


 もしかしたら魔力チートだとかそんな領域までいけるかもしれないし、ぐふふ。




 とは言っても、どうしたらいいんだろうか?

 まずは瞑想か?

 魔力とやらを感じてみないことにはな。

 うーん、魔力魔力、魔力ちゃーんどこですか~?


 そんなことをしていたら、俺はどうやら寝ていたようだ。

 くっ、赤ん坊の身体が憎いぜ!

 魔力を感知できないのが問題なんだよなー。

 操作だけできても肝心の魔力を感じられなきゃ、宝の持ち腐れだぜ……


 ボヤいていたら、またあの脳内アナウンスが流れてきた。

 マジで助かります、神様、仏様。



【魔力感知習得……申請を許可します】

【魔法チュートリアル(限定)を開始……申請を許可します】


(魔力感知を覚えたのか。って、それどころか魔法のチュートリアル!? 願ったり叶ったりなんですけど!?)



 ぽけーっとしていたら、目の前に小さな赤ちゃんな天使が現れた。

 って、こんなのほかの人に見られたらまずいって!?

 俺は慌てているのに、赤ちゃん天使はのんびりした声で安心だと言う。



『だいじょうぶですよお、ほかの人にわたしの姿は見えませんからあ』


(あ、そうなの? すごいな、完全なステルス性能付きか)

『とはいっても、神威を感じられる人には見つかるかもしれませんが』


(神威ねえ。てか、考えてることが筒抜け!? いやんいやん!)

『めんどくさい人ですねえ。めがみ様もこんな人をサポートしなくてもいいのに…』


(おお、女神様なのね。やっぱ、神様的なのに見守られていたか。どうして転生させてくれたんだろ?)

『そういうお話はめがみ様に直接聞いてください。わたしはあくまで、あなたに魔法を使うための魔力の使い方を教える存在なので』


(それもそうか。んじゃあ、魔力の使い方を教えてください)



 それからが地獄だったと結果だけ伝えておこう。




 まず、魔力は心臓の辺りから発生するらしい。

 魔法を使うと全身の魔力が薄くなっていくようだ。

 そのため、魔力を使い過ぎると息切れや倦怠感を感じるそうだ。

 最悪死ぬこともあるため、倦怠感を感じたら休憩することをオススメされた。


 最初の特訓は心臓から発生する、まだ微弱な魔力を感知するとこからだった。

 赤ん坊がゆえに、ホントに微弱なんだこれがまた。

 心臓の鼓動に合わせてうっすらと発生しているのに気付けたときには、だいたい一週間くらいはかかっていた。



『あなたは成長しても、魔力量に関してはあまり期待できないかもしれませんね』


(マジかー。俺の無双譚、ここに完結っと)

『まあ、だからといって、歩みを止めたらそこまでですけどね。わたしのハードルが高いだけかもしれませんし』


(そっか。じゃあ、諦めずに続けるか。んで、魔力は感知できるようになったけど、ここからはどうしたらいいんだ?)



 そこからの説明も難解だったが、要するにこうだ。


 全身の魔力が一時的に薄くはなるが、一か所に集めてみろと。

 そして、集めた魔力をグルグルと身体の中を行き来させて、魔力の血管? 魔力管を広げろということらしい。

 とにかく、魔法の発動よりもそちらを重視して訓練すればいいとのこと。


 魔力の操作もうまくなり、魔力量も増えて、いいこと尽くめなので地道なこの訓練を続けろってさ。

 これを怠ることで魔法をうまく扱えない上に、魔力量も少ないという最低な魔法使いになってしまうらしい。




 まあ、こちとら暇な赤ん坊ですし?

 娯楽もあるわけじゃないし? 全然楽しいんですけどね?

 それは全然いいんですけどね?

 アレクが自慢するように魔法を使ってくるんですよ?


 すんごいイラっとしてしまうわけですよ。



「ディーノは僕が来ると、すごく機嫌悪くなるんだけど何かしたかな?」



 アレク、すまんな。

 八つ当たりなのはわかっている。

 地味なトレーニングしか出来ることがない俺としてはな……


 そのキラキラくるくると回って光る水球は見ててイライラするんだよお!



『魔力管は広がってきてはいますが、まだまだですねえ。魔力濃度がまだ薄いです』


(ぐぬぬ、今度は濃度か。どうしたらいいんだ?)

『こちらは時間をかけるしかありませんね。集めた魔力を元に戻したときに魔力濃度は濃くなるので。ドロリ濃厚な魔力で全身に魔力を運ぶんですよ』


(ぬああああ、魔力がドロッと重くなったああああ)

『それも魔力管を広げるコツです。あとは全身への魔力の循環速度も上げられるなら上げたいですね。継続的にこの魔力訓練を続けていきましょう』


(くっそー! やればいいんだろ、やれば! 今に見てろよ、アレク! お前よりもすごい魔法を絶対に使ってやるんだからな!)



そうして、俺の赤ん坊ライフは鬼教官の下、賑やかに過ぎていったとさ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る