転生と女神との出会い

ここは異世界!?

(真っ暗だ。うすぼんやりと明るい気もするけど……)



 死んだら真っ暗な世界に行くと思っていた俺としてはあまり不思議ではない。

 それにしても、なんだか安心するな。

 言葉で表すなら、人肌の温かさや鼓動を感じるというか……


 そう! あれだ、母親の心臓の音で赤ん坊が寝るという奴。

 あれに近い状態だ。

 そんなことを考えながら、幼馴染の目の前で死んだことを俺は後悔している。

 あれはトラウマになっただろうなあと、悪いことしてしまったと反省だ。


 あいつ泣いていたなあ。

 ひょっとして、俺のこと好きだったのかな?

 そんなわけないか。

 ただ、腐れ縁の幼馴染なだけだ。


 でも、逆の立場だったら俺も泣いていたかもなあ。




 しんみりとしていた俺だったが、ここで異変が起こる。

 な、なんだ!? 周囲が脈動している!

 というか、なんか押し出される感覚がある!


 どどど、どうしよう!


 焦るが、死んだ俺に何ができるんだ? と、急に冷静になってしまう俺がいた。

 まあ、流れに任せるか。

 そんな諦念にも似た感情を抱きながら、押し出される感覚に身をゆだねる。


 そして、スポンという感覚とともに大きな何かに抱えられる。

 ついでに、なんかとても眩しい。さっきまでの暗さから、この明るさは目に痛い!



「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」


(うるさいな! って、この泣き声は俺が出しているのか? え、マジ?)


 俺は赤ちゃんになってるのかっ!?

 まさか、転生って奴か!

 本当に生まれ直すってあるんだなあ。


 しばらく身体を拭かれたり、何かに包まれたりとしているうちにぼんやりと人の顔のようなものが見える。

 もしかして、俺の両親か? ん? 小さな頭も見えるな、俺の兄か姉か?


 むう、よく見えない。

 こればかりは赤ん坊の視力だから、仕方ないよな。

 そうして、俺の赤ん坊生活が始まった。





 あれから随分と経ったな……

 なんて言ってはみたけど、実際には半年も経っていないだろう。

 いやさ、赤子なんて母乳飲んで寝るしかないわけよ?

 そら、暇だろ……


 少しは視界もよく見えるようにはなってきたけど、赤ん坊の耳で現地の言葉を聞き取るのはまだきついようだ。

 両親と兄の髪色と瞳の色から、ここは外国かなって感じなんだけど、どうやら英語圏じゃないようなんだよね。


 なので、絶賛言葉を聞き取り学習中です。

 はあ、これ何年かかるのかな。それだけが不安だよ。

 あー、神様がいるなら言語、読み書きまですっ飛ばしてくれないかなあ?

 二度目の人生で、また語学を学ぶのはきついぞ……


 と、ボヤいていたら突然、機械音声のようなものが聞こえた。



【全言語習得……申請を許可します】

【全文字読解……申請を許可します】


(ほあっ?! なんだなんだ!? 頭に声が響いてきたぞ)



 俺が混乱して大きな声を出したせいか、乳母と思われる人物が部屋に入ってきた。



「どうしましたかー? お腹が空いたのかしら? それとも、おしめかしら?」


(ふおおおお、言葉が聞き取れるようになってるうううう!)



 日本語じゃないのに、意味が分かる!

 なんだこの不思議現象!?

 さっきの脳内アナウンスか!? さっきのあれのせいか?!



「うーん、どこも悪いとこはないように見えるけど……念のために、この者に神々の癒しを、ヒール」



 暖かな光に包まれる俺。

 まるでお風呂に入っているようだ。

 気持ちええんじゃああああ。


 と、あまりの気持ちのよさに粗相をしてしまう俺。

 す、すまん。



「あらあら、やっぱりおしめだったのかしら? 今、変えますからねえ~?」



 温かい濡れ布巾で尻を拭かれ、オムツを締め直される。

 って、そうじゃない!

 あまりに自然だったからスルーしかけたけど……

 魔法みたいなのを使わなかったか、この人?


 さっきの温かい濡れ布巾も、もしかして魔法で……?

 もしかして、ここ地球じゃない?

 さっきの不思議脳内アナウンスも含めて、不思議なことが多すぎる。




 俺があまりの出来事にビックリしていると……

 さらに、扉がバンと勢いよく開き、俺はビビり散らかす。

 どうやら兄が入ってきたようだ。


 そして、乳母に注意されている。



「アレク様? ディーノ様がビックリするので、大きな音を立てて入室しないでくださいませ」


「うっ、ごめんなさい。今日の勉強でね、ディーノにどうしても見せたいものが、できて浮かれていたよ」

「まったく……」



 アレクはちょっとそそっかしいところがある俺の兄だ。

 三歳くらいは俺よりも年上かな?

 この時期の子供の年齢は、俺には見た目だけじゃわからん。


 そして、嬉しそうな顔をして俺のベッドに近づいてくるアレク。



「今日の勉強で魔法を教わったんだ。ホントは儀式を経てからなんだけど、王族は早い方がいいからって」


(やっぱり魔法があるんだ! ここは異世界なんだ!?)



 と、俺が内心驚いていると、兄が小さな杖を持ち集中し始めた。



「水の神の力の恩恵を今ここに、ウォーターボール」



 アレクが詠唱して、魔法名らしきものを唱える。

 すると、水の球が空中に浮かぶ。



「ふふっ、目が真ん丸になって驚いてる! これだけじゃないんだよ」



 そういって、さらに集中しだすアレク。

 空中に浮かんでいた水の球が小さく分裂していく。

 その姿に俺はいたく感動していた。



(ふおおおお、魔法だよ! 本物の魔法だよ! アレクすごい! 俺も使いたい!)


「今までに見たことないくらい喜んでいるね、ディーノ。僕も嬉しいよ」



 ところで、この浮いてる水球は触ったら冷たいのかな、温かいのかな?

 触ろうとしたら、アレクが動かしたのか、ふよふよと水球が移動する。



「ほ~ら、こっちだよー」


(ぬう、弄ばれてる。あ、頭のバランスが……)


「あ!」



 アレクが咄嗟に頭をかばってくれたのは嬉しいよ?

 でも、集中切らしたせいなのか、宙に浮いていた水で俺は水浸しなんだけど?



「あー、ごめんね?ディーノ」



 俺は泣かなかったのだが……

 アレクが乳母にものすごく怒られて涙目だったのは、内緒にしておいてあげるよ。

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