第29話 抱き枕とモフモフ
6月13日 快晴
昨日から魔塔暮らしになった。成り行きでルイス様と一緒にいる時間が増えた。おやつに出たハニークルミ!!美味!!あとルドルフがデカくなっていて驚いた。シータはルドルフに何を食べさせてるんだろう。気になるぅ。
カーテンの隙間から朝陽が強く差し込んでいる。
今日はお天気がよさそうだ。
そろそろ起きようかなと身じろぎをして気付いた。
横に艶めく黒髪にまつ毛バサバサで眠る美丈夫。
黒竜の姿も精悍だったけど、同一人物なのよね。
うーん、不思議だ。
ここ最近の出来事が濃密すぎて、脳みそに受け入れられていないまま進んでる気がする。
シータが準備している異世界へ渡るという概念も、私には理解不能。
万が一帰って来れなくなったら、この国は亡びる?
責任重大だわ、、。
今回はうっかりしないように、私もしっかりと気合いを入れなければ!!
いろいろ考えながら、私はルイス様の顔を頬杖をついて眺めていた。
バサッと音がしたと思ったら、視界が突然真っ暗になる。
「うわっ!」
驚きの声を上げると耳元でクスクス笑う声がする。
ルイス様、頭からブランケット被せてきた?
目下、2人でブランケットの中だ。
「何するんですかー!ビックリしましたよぉ」
私は苦情を言う。
「ずーっと眺められたら起きれないだろう。おはよう、リゼ」
暗闇から、ルイス様の声。
あー、眺めていたコトを、お気づきでしたか。
「それは、すみませんでした。美しすぎて見惚れてました。おはようございます!カッコいい、ルイス様」
暗闇の中から、ルイス様が喜びそうなコトを言ってみた。
「うっ」
ルイス様、悶えてる声?照れている?
ヤッター!今回は私の勝ち!!
よし!今のうちにと、私は勢い良くブランケットを捲って、起き上がろうとした。
しかし直ぐに、ルイス様が後ろから私の腕を引っ張って、またブランケットの中へと戻される。
「もう!何なんですかー!」
「リゼに甘えたいだけー!」
ルイス様は暗闇で堂々と宣る。
途端にカーっと私の耳は熱くなった。
負けた。
私の負けです。
そして、私はルイス様が飽きるまで、ギュウギュウ抱きしめられた。
ようやく遅い朝ごはんが終わり、私たちは紅茶を飲んでいた。
そこへ王宮筆頭魔術師のルータがやってきた。
「昨夜のことはシータから聞いておる。異世界へ渡る準備をすると言っておったな。あやつはトンデモナイ事を平気で言ってくる。勿論、わしも協力させてもらう。それと陛下から伝言じゃ。王宮の部屋が用意できるまで魔塔にいるようにとの事じゃ。悪いが、この部屋しか空いておらんのでな。くれぐれも仲良く過ごされよ」
「えっ、お部屋はこのままなのですか?侍女の方々は?」
「ああ、この部屋を使っておくれ。広いから大丈夫じゃろう。侍女は魔塔には入れんのでな。無理じゃな」
「そうですか、分かりました」
ガックリ、、、。抱き枕生活決定!!
チラッとルイス様を見る。
さっきのグダグダな甘えっぷりは微塵も見えない。
そういう切り替えは凄いわよねー。
「ルータ、準備の件はよろしく頼む。それでシータは何か目途がついているのか?」
「さて、聞いてみますかの?」
あ、この流れは、、、、危険!!
ルータが手を上げようとする。
「待ってください!大丈夫です。分かってからご連絡いただければ大丈夫ですから!」
私は思わず口を挟んでしまった。
だって、またルドルフと遊んでる最中とかだったら、シータが可哀そうじゃない?
ルータは手を下げる。
「そうか?ならば分かり次第連絡するとしよう。では失礼する」
王宮筆頭魔術師ルータは部屋を後にした。
その数分後。
コンコンとノックの音。
「はーい」
私が答える。
「姉さま、おはよう!シータです」
は!?このタイミング?
怖っ!
シータはゆっくりドアを開ける。
「バウッバウ!!」
真っ白でモフモフな大型犬が一緒に入って来た!!
「ルドルフもつれてきたよー!」
「お、おっきいわね!」
素直な感想を述べる。
すでに母犬のリベロよりデカい!
「ルドルフは御飯大好きだからかなー」
シータはニコニコしている。
こうやって見るとただの10歳の少年なのよね。
人は見た目に寄らないなとつくづく思う。
「シータ、目途はついたのか?」
後ろからルイス様が問う。
「うん、今夜には決行出来ると思う。道具の材料とかを爺ちゃんに今揃えてもらっているところだよ」
「今夜か、思ったより早いな」
「うーん、遅くなると異世界に落ちたロイ王太子殿下たちが移動しちゃいそうだから。多分、時間の流れ的には数分しか経ってないと思うんだ」
「数分?」
私は驚く。
「そう、姉さまが転生して、この世界で17年生きてきた時間が、あちらでは数日だと思う」
「そ、そうなのね」
私はルドルフを撫でながら、話を聞いていた。
確かにモフモフで可愛い。
その横でルイス様はシータに向かって、更に質問する。
「シータ、リゼは1人で行かせるのか?もしもの時はどうやって脱出するんだ」
「別に1人だけじゃなくても大丈夫だよ。ルイス王子殿下も行きたいですか?」
シータも私と同じくルドルフの横に来て、撫でながら返事をする。
「そうだな。出来れば行きたい。オレはロイと顔見知りだからな」
ルイス様も近づいてきて、ルドルフを撫で始める。
「僕もルイス王子殿下か、リチャードさんが一緒に行った方が話は早いかなとは考えてたんだ」
シータが横のルイス様へ向いて答える。
「そうか」
傍から見ると3人でルドルフを撫でまわしているいうシュールな状況。
ルドルフは大人しくしていて、お利巧さんだった。
「分かりました。姉さまとルイス王子殿下のお二人で行くと考えておきます」
「ああ、それで頼む」
「それと、ルイス王子殿下お願いがあります。後日、僕をベルファント正教会で聖女を呼び出そうとした人物に会わせてくれませんか。僕は陛下の許可がないと国を出れないから、ルイス王子殿下から陛下やロイ王太子殿下にお願いしてもらえると嬉しいです」
えっ、シータってランドル王国から出れないの?と私は驚いた。
「分かった。陛下には口添えしておく。リゼ、以前シータは魔力が強すぎるから、成長して安定するまでは国外に出さない取り決めを王家とバッファエル公爵家でしていたんだ。大丈夫、オレたちがロイを連れて戻ってきたら、ロイからも許可は取れると思う」
ルイス様はルドルフを撫で回していた手を止めて私達に言った。
私とシータは撫で撫でしながら、頷く。
それって、シータはまだまだ成長するってことなのかぁ、、、。
すでに異世界に人を送れるってだけでも、凄いコトなのに!!
「それとルイス王子殿下、僕、いい考えが思い浮かんでるんだけど」
「何だ?」
「アズ兄ちゃんをマーゴット王女殿下にあげようかなと思ってるんだ」
「は?」
二人の声が重なる。
「だって、ベルファント王国の王家は魔力が無くて困っているんでしょ?この前、捕えたベルファント王国の貴族は魔法を使ってたもん。だから王家も魔術は使えた方がいいと思うんだ。アズ兄ちゃん、彼女もいないし、バッファエル家には末弟のマーリも居るし、あげてもいいかなと思ったんだよ」
「おまえ、それアズにちゃんと確認した方がいいぞ。勝手に決めたら、あいつ弟に身売りされたと思って落ち込むぞ」
「そうかな?」
シータは不思議そうな顔をしている。
「ああ、そうだ。それと姫にも好みというものがあるだろうしな」
「ルイス様、アズールに厳しいですよね」
私は横槍を入れる。
「そうか?姫は魔術師より筋肉の方が好きそうだけどな」
「ああ、確かに、、、」
リチャードの顔が思い浮かんだ。
それにしてもアズール、知らぬ間にお気の毒である。
その後も、3人でルドルフをモフモフしながら、おしゃべりをしていたら、あっという間に正午になった。
シータがお昼ごはんを食べに帰るというので、2人で見送った。
ルイス様と2人になったところで、私は忘れないように早速思いついたことを口に出す。
「ルイス様、今回私に考えがあるのですが、、、」
「どうした?リゼ」
「あのですね、私の前世の世界は、この世界とはいろいろ違うのですけど、先ず服装が全然違うのです。普段ドレスを着ている人なんて、全く居ないです。ですので、私は今回、侍女服を着て行こうかなと思っていて」
「そうか、用意は出来ると思う。ならばオレも着替えた方がいいか?」
「そうですね。白いシャツとスラックスで大丈夫だと思います」
「その世界はオレが知らないことが沢山ありそうだな」
「はい、魔法や魔術がない代わりに学問が発達していて、科学の力で高度な文明を築いています。今回はお二人の救出が目的なので、ゆっくり見れないのは残念ですけどね」
「確かに残念だな。科学か、、、興味深いな。スマホにも高度な技術を感じたからな。今回はロイ達の救出に集中するよ。でも、機会があれば、ゆっくり行きたい」
「ええ、その時は私が案内します」
「まあ、取り敢えずは今回だな」
「はい、お互いに気を付けて行ってきましょう!」
私はガッツポーズを決めた。
それを見て、ルイス様が苦笑いするのも、すっかり様式美だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます