第30話 救出作戦

 私たちは20時に魔塔の王宮筆頭魔術師ルータの研究室へ呼ばれた。


今、この部屋には、私と王宮筆頭魔術師ルータ、シータ、アズール、ルイス様、マーゴット様とリチャードの7人が居る。


陛下も参加すると言ったらしいけど、周りからルイス様と陛下がセットで何かあったら困るとの理由で足止めされたそうだ。


「どれ、揃ったようじゃの。シータ、これから行うことの説明をするのだ」


王宮筆頭魔術師ルータが音頭を取る。


シータは一度頷いてから、みんなの方を見た。


「これから、異世界に飛ばされたベルファント王国のロイ王太子殿下と婚約者のロゼ公爵令嬢を救出します」


そう言いながら、シータは後ろにある壁に人型のイラストを映し出す。


「まず、こちらの世界からリゼ姉さまの夢を使って異世界へ入ります。具体的にはスマホという魔法道具を使って夢と異世界を繋ぎます。そして、リゼ姉さまとルイス王子殿下を送ります」


私とルイス様がリボンで繋がれ、異世界と書かれた丸に吸い込まれる絵が映し出される。


パソコンもないのに凄いわシータ。


「そして、辿り着く場所は僕があらかじめ目星をつけた場所にしています。あちらの時間とこの世界は時間進行にズレがあるので、念のため、ロイ王太子殿下とロゼ公爵令嬢が飛ばされた時間より、5分ほど早く着くようにしておきます。大体1分で2.5日経つので、到着してから帰るまでは迅速にお願いします」


数式なども映し出されているけれども、これは難しすぎて私には分からない。


「1分で2.5日か、かなり急がないといけないな」


ルイス様は真剣な表情でシータに問う。


「異世界の時を止めてみようかなと思ったんだけど、それは色々な世界との均衡を壊してしまいそうだから辞めとく。今回はルイス王子殿下も行くから何とかなると思う」


シータが答えた。


「オレに丸投げされるとは思わなかったな」


苦笑いのルイス様。


「すみません。わたくしとリチャードは全く理解が出来ていなくて、異世界は何処にあるのですか」


マーゴット様が質問して来た。


横のリチャードも頷いている。


「異世界は目に見えるところにはないんですよ。良かったら説明しましょうか」


横からアズールが答えて、二人を部屋の隅にあるミーティングテーブルへ誘って連れて行った。


どちらかというと、私もあちらのチームのような気がするけど、、、。


「早速、始めていい?」


シータは、私とルイス様に声を掛けた。


「えええ、ちょっと待って着替えが!私はあちらの世界で浮かないように侍女服で行く予定にしてたから」


私は急なスタートにストップを掛けた。


「夢から入るのだから、服を着替えても意味がないと思う」


シータから、バッサリと切り捨てられる。


私の準備計画は即没。


「あああ、そうなの?えっ私とルイス様は異世界ではどういう状態で現れるの?」


「普通に行くと異世界人の姿は見えないんだけど、僕が異世界でも今と同じように姿が見えるような魔術をかけるから大丈夫だよ。同じようにロイ王太子殿下とロゼ公爵令嬢もその異世界に入り次第、姿が見えるようにしておくね」


「シータ大丈夫なのか?複雑で難しかったら俺たちの姿をあちらで現すくらいはオレが引き受けるぞ」


と、ルイス様が言う。


二人の間で分かりあってるのだろうけど、私だけ分かりあえてなーい!!!


「リゼ、大丈夫だ。何かあっても大体のことは俺も何とか出来る。心配はいらない。一番大切なのは迅速に帰ってくることだからな」


何とも心強い味方だ。


「分かりました。足手まといにならないように頑張ります」


王宮筆頭魔術師ルータが隣の部屋へと続く扉の前から、私達を手招きする。


「こちらの部屋で、お二人は眠りに入ってもらう」


私とルイス様は頷く。


私たちがドアに向かって歩み始めると、アズールと話していたマーゴット様が席から立ち上がる。


「エリーゼ様、ルイス王子殿下、どうぞよろしくお願いします」


彼女はリチャードと共に深々と頭を下げた。


「マーゴット様のお兄様たちはすぐに連れて帰ってきますね。無事に終わったらみんなでお茶でも飲みましょう」


「それはいいな。ロイの好きな甘いものも用意させよう」


ルイス様はそう言ってから、私の手を取り隣の部屋に移動した。


部屋に入ると大きなベッドと準備台があった。


準備台の上には謎の液体と私のスマホが置いてある。


謎の液体の色は緑と黒とシルバーがマーブル状になっていて、心なしか蠢いている。


まさかコレを飲むの?と、気になって仕方ない!!


「さあ、まずこの薬を飲み干してもらおうかの」


王宮筆頭魔術師ルータは予想通りの指示を出す。


「あのー、それは何のために飲むのですか?」


恐る恐る聞いてみる。


間違っても何で出来ているのかは聞かない!飲めなくなっちゃう。


「これはね、もしかしたら長時間眠るかもしれないから、少し体内の時間を遅くする薬だよ」


後から部屋に入ってきたシータが答えた。


「マズそうだな、、」


と、ルイス様。


「ですよね。ルイス様でもあの蠢く液体は引きますよねー」


と、強く同意する私。


「味を変えてみたらいいかもな」


ルイス様がいいコト思いついたみたいに言う。


「は?変える」


私は理解出来ないような顔をしていると、シータが横から話し掛けてきた。


「ああ、変えても大丈夫だよ。お好きにどうぞ」


王宮筆頭魔術師ルータは、私とルイス様に謎のドリンクを手渡す。


「リゼ、好きな飲み物は?」


ルイス様が聞いて来る。


「そうですね。イチゴミルクとかショコラショーも好きですよ。何だか今、無性に甘いものが飲みたい気分です」


「じゃあ、イチゴミルクにするか」


ルイス様は人差し指で私の謎のドリンクのグラスをコンコンと弾く。


えっ!!!


イチゴミルクになった!!!イッツマジック!!


「す、スゴイですね!これでやっと飲めそうです」


横のルイス様を見ると、レモネードをもう飲み干しかけている。


おおっと私も急いで飲まないと!!


王宮筆頭魔術師ルータはドリンクを飲み終えた私たちに、次はベッドへ横になるようにと促す。


「まず眠りについてもらいます。そしてルイス王子殿下をリゼ姉さまの夢に繋いだところで、スマホも夢の中に接続します。そうすると異世界へ繋がるので二人で入ってください。そこで、ロイ王子殿下たちを見つけたら、スマホにつけたこのカエル人形のお腹のボタンを押すと僕に伝わります。その合図で僕は一気に4人を引いてこの部屋に戻します」


シータの話す、手順の説明をしっかり聞いてから、私たちは目を閉じた。




 隣の部屋からドアを開けて、シータと王宮筆頭魔術師ルータが戻って来た。


「どうなった?」


アズールが聞く。


「今、リゼ姉さまとルイス様を眠らせたところだよ。眠りが深くなったところで二人の夢をつなぐので少し休憩する」


「シータ、結構時間が、かかりそうだな」


「うん、1時間後に二人の夢を繋いで、異世界に接続する作業をした後は、二人があちらでロイ王太子殿下とロゼ公爵令嬢を見つける時間次第で変わって来ると思う」


「そっかー、1分で2.5日って、言ってたもんな」


「予定より10分遅れると25日後ということになるのですよね?」


マーゴット王女殿下が、アズールに問う。


「そうです。王女殿下、何となく分かられましたか?」


「ええ、何となくですけど、ご説明が分かりやすかったです。ありがとうございます」


美しい笑顔で、お礼を言われて、アズールは少し照れている。


その姿を見逃さなかったシータがアズールに聞く。


「アズ兄ちゃん、王女殿下のこと好き?」


アズールが驚きの表情でシータを見る。


「な、なにを言い出すんだよ、お前は」


すると、シータはマーゴット王女殿下の方を振り返って、質問した。


「王女殿下は、アズール兄ちゃんのことをカッコいいと思いますか?」


マーゴット王女殿下は横のリチャードをチラリと見るが、リチャードは何も言わず、ニヤニヤ笑っている。


「そうですね。背も高くてハンサムな方だとは思いますが、あまりお話したこともないので詳しくは、、、」


アズールはまさかの誉め言葉で真っ赤になる。


「シータや、年上を揶揄うではない」


王宮筆頭魔術師ルータが、シータに注意した。


「揶揄ってなんかないよ。僕、王女殿下にアズ兄さまをあげようと思ってるんだ」


「なんと!」


王宮筆頭魔術師ルータが驚く。


「ねえ、王女殿下、アズ兄さまをもらってくれませんか?」


シータが、祈りのポーズで懇願する。


「えっ、いただいてもよろしいのですか?ありがとうございます」


困惑しつつ、、全く断らないマーゴット王女殿下に、隣のリチャードは大声で笑い出す。


「シータ、、お前、、、、よくやった!」


アズが心の中でシータに伝えたのは、また別の話。

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