第22話 竜神王
「さっき、オレはこの国の始祖の先祖返りと言っただろ?そもそもこの国を作ったのは竜なんだ」
「えっ?今人間だらけですよ。この国」
「それには秘密があるんだ。まず、国の成り立ちから説明する」
昔、神はこの世界を創り出した。
神は竜達に世界を見守る役目を与え、竜の長はこの大陸を神から賜った。
そして、神は竜の長に神力も分け与えた。
その神力を得た竜の長が竜神王ルーだ。
竜神王ルーと竜達は幾つもある大陸を手分けして見守り、時に愛と知己を持って、問題を解決してゆく。
次第に人々は竜を崇め、信仰の対象とする様になる。
「なるほど、その頃の人々は竜を神様と思ってたのですね」
「そうだな、だがそのいい時代も長くは続かなかったようだ」
竜達に願いを聞いてもらおうと私利私欲に溺れる者が出て来たのだ。
とうとう女人を生贄に持ってくる者が現れ、竜神王ルーの怒りは頂点に達する。
竜神王ルーは1人の乙女と出逢った。
彼女に名はない。
精霊と人間の混血児で、虐げられた挙句に生贄として連れてこられた。
竜神王ルーは、彼女の腰までサラサラと新緑色に輝く銀髪に濃いエメラルドの目、白磁のように滑らかな肌と柔かな表情を見て恋に落ちた。
「えっ、その見た目って私に似てません?美しいかどうかは置いといて、、、」
「まあ、そのヨミは当たってるけどな」
「えっ?」
ルイス様は壁画を指差す。
「この壁画の絵はリゼではなく、その彼女だと思う」
「!?この壁画、そういうことだったのですね」
「ああ、竜神王ルーと彼女だ」
竜はツガイを見つけるとその相手を一生愛する。
他の者と愛し合う事は無いし、片方が死ねば、己も死ぬ。
そう言う生き物なのだ。
だからこそ、兄の恋に落ちる様子を心配したのは双子の弟ドゥだった。
ドゥは竜神王ルーが番と契りを結ぶ前に彼女を殺害しようとする。
計画は上手く行き、竜神王ルーの目の前で彼女は命を落とす。
「そんな!そんな悲しい事。なんで、、、」
あまりの内容にリゼが悲痛な表情を見せた。
オレは話を続ける。
だが、竜神王ルーは諦めては居なかった。
彼女が絶命する寸前に己の命をかけて、禁呪をかけた。
『どれだけ長き時がかかろうとも、我は彼女と転生し巡り合い、共に生きる。ドゥよ、其方は命を繋ぎ、我を待ち受けよ。我は良き時代を持って帰ってくる』
竜神王ルーは、そう言い残し彼女と共に散った。
「今、転生って言いましたよね?私、前世以外にも色々有ったって解釈で良いのですか?」
「ああ、長い年月が経ってるからな、オレも多分どこかを彷徨っていたと思う」
「そして今、2人の時間が重なったという話になるんですか?」
リゼは何とも言えない表情を見せる。
「そうだな、殆ど正解だ。あとは残されたドゥの話も少ししたい」
竜神王の弟ドゥは己の意志で散っていったルーの後を継ぎ、竜神王ドゥとなった。
そして、ドゥは人間の妻を娶った。
「えっと、竜なのに人間と結婚するって、、」
「竜は神力を使えば、人の姿で生活することは普通に出来る。現にオレもそういう生活をしているだろ?」
「確かにそうですね、あっ、すみません。お話、続けて下さい」
ドゥの妻はツガイでは無いので、仮に亡くなったとしても、ドゥは次の妻を娶ることが出来た。
先代竜神王ルーから命を繋げと言われていたので、生涯で5人の妻を娶り5人の男の子が生まれた。
竜は子が出来にくい種族なので、この数はかなり多い。
それぞれが母親の特徴を継ぎ、長男は指導力、次男は魔術、三男は武術、四男は知略、五男は算術に長けていた。
竜神王ドゥは子供達の特徴を活かすため、長男を王家とし、後の4人にはそれぞれの家門を作り公爵家とした。
「それって今の四大公爵家のことですか?」
リゼの質問にオレは頷いた。
「そんなに歴史があったとは驚きました。そう言えば、何故男の子しか生まれないのでしょう?」
「ハッキリとは分からないが、王家には今まで1世代に男児が1人しか生まれ無かった。公爵家にも人数は多いとは言え、男児しか生まれなかった。これは王家が滅びる可能性を減らし、彼女の転生を分かりやすくする意図があったのかもしれない。竜神王は呪いの様なものをドゥにかけていたのかもな」
「なるほど、で、私は何者なんでしょう?ベルカノン家の子供じゃないのでしょうか」
不安そうな顔でリゼが聞く。
「いや、リゼは間違いなくベルカノン家の長女だ。ただ王族に連なる血筋からの初の女児だったから、生まれた時からオレの婚約者にして様子を見る予定にはされてた」
「なんとも私を様子見ですか、、、」
「でもな、リゼはすぐに彼女だと証明されたんだ」
「え、何故?」
「リゼは子供の頃、領地で過ごしていただろう。森にもよく遊びに行っていたと聞いたよ。宰相の話では、帰ってこないリゼを探しに行くとだいたい湖の辺りで精霊たちに守られて眠っていたらしい。だが、何故かリゼが起きると精霊達は消えてしまうので、この話はリゼには秘密にしたそうだ」
「えええー、精霊さんに会いたかったですよ。父上、言ってくれたら良いのに!」
リゼが拗ねている。
その姿も可愛い。
「そう言って探しに行ったりしたらダメだから、伝えなかったんだろうな」
オレは思わず笑ってしまった。
「ということは、先ほどの大きな白狼は精霊ですね」
「そうだな」
「あー、分かりました。私だけ知らなくて皆さんズルい!!このお返しは楽しみにしてて下さいね」
「いや、返礼は無用だ」
リゼは悔しそうにしている。
「それで、盾が発動って?アレは何なんですか」
「あれは、王家の一員になったと言う守護の証だ。婚約式をして、あの盾が発動するとお互いの気持ちが繋がっているという証明になる。その判定を下すのは竜神王の加護らしい。竜の血族だけに、お互いの気持ちが繋がらない相手はツガイではなくとも、王家の一員として拒否される。そうすれば婚約は破棄だ。特にオレはリゼがツガイだから、拒否されるとこの国は終わるところだった」
「は?終わる?どう言う事ですか?」
「オレは、始祖のルーでもあるということだ。リゼ以外と子供を作ることは出来ないし、拒否する」
オレの話にリゼが目をパチクリさせる。
「ルイス様、私の想像を遥かに超えた重い話ですね、、、」
「そうだな。だからリゼが狙われて殺されたりするとオレも、、、」
「あー、それはダメです。絶対ダメ!!私も気をつけますから」
「ああ、2人で楽しくやって行こう。狙ってくる奴は倒して行こう」
「、、、ソウデスネ」
6月11日 晴れ
今日も襲撃に会った。前世の出来事なんて軽いアミューズよー!って思うくらい色々あった。明日も何があるのか、、怖すぎる。
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