第23話 月と太陽
霊廟を出ると美しい月が昇っていた。
険しい岩山の天辺で眺めると幻想的で吸い込まれそうな気分になる。
横にいるルイス様を見ると彼も月を眺めていた。
「美しい月ですね、ルイス様」
「ああ美しいな、記念すべき日にちょうどいいんじゃないか?」
「記念すべき日?って、えーと何の」
ルイス様はちょっと不機嫌な顔をする。
「本当の意味で婚約した。リゼ、、忘れたのか?」
私は多分シマッタ!って顔をしてたと思う。
「ソウデシタ」
「後は、一緒に暮らし始める日」
ん?んんん?
「誰と?」
「オレとリゼが」
はあ?何の話??
「すみません。もう少し詳しく?」
「こうして正式に婚約者になったオレ達は狙われている。と言う訳でリゼはこれから王宮に住まいを移してもらうが、防犯上、この事は公にはせず、今まで通り公爵邸で生活していることにする。宰相とは話が付いてるから大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないですよぉー!何ですかその話は」
えええ、仲良くしてる侍女たちともモネ爺とも会えないのぉー!!私は抵抗した。
「何と言われようとリゼの安全が第一だからな。荷物も、もう運び終わってる頃だろう。王宮に帰ろう」
「うわー、私に拒否権はないパターン!?ヒドイですよ。ルイス様」
「いや、公爵邸に居て、襲撃し倒された方が皆困るだろう?公爵邸はリゼがいる程だから、遠慮なく騎士団と魔術師を配備しておく予定だ」
「それだけ配備するなら、別に私が居ても良いのでは?」
私も食い下がる。
「王宮には姫も居る」
うっ!弱いところを突いてきた!
「マーゴット様は大好きですけど、ええ大好きですよ。見てるだけで眼福です」
「それ、オレには言ってくれないのな?」
「いえ、まぁルイス様も、、まぁ、、もう恥ずかしいんで、聞かないでください」
「そこは素直じゃないんだな。リゼ」
ルイス様は下を向いてクスクス笑っている。
「さて、夜も更けたし、そろそろ行くぞ」
ルイス様は私をギュッと抱きしめて、フワッと舞い上がった。
私は不服ながらも温かい腕の中に包まれて、大人しく移動したのだった。
王宮の東の棟に到着すると、ミヤビが待ち構えていた。
「ボンソワール!ロナウド&メロディ!」
「ボンソワ、ただいまミヤビ」
ルイス様が恐ろしく淡々と返答したのを見て驚いた。
そして、それを悲しそうにするミヤビも。
「ルイス様とミヤビって、そんな感じだったのですね」
私もしみじみと感想を述べる。
ミヤビが頷く。
「それで、準備はどうなったミヤビ?」
ルイス様はマイペースだった!!
「はい、荷物の移動も公爵家の侍女たちに協力してもらい完了しました。部屋も、すぐに使える状態です」
ミヤビは、ビシっと返答した。
「リゼ、部屋に案内する。ミヤビは引き続き護衛を頼む」
「御意」
返事をするなり、ミヤビは消えてしまう。
案外、ちゃんとした主従関係だったので驚いた。
真夜中の広い廊下に2人だけになり、急に緊張して来る。
知らない場所に急に住めって、ヒド過ぎない?
「そう心配するな、部屋はオレの隣の部屋だから、何かあったら声が出ない時は頭の中で叫べ」
ん?隣!?緊張しますね。
ええ、かなり。
イビキでも聞かれたら死にたくなりそうです。
一様、乙女なんですよ私も。
「生きてるから、当たり前だろう。気にするな」
「あー、やっぱり読んでますよね!!もう口聞きませんからね!!」
私のボヤキをしっかり受信しているルイス様に怒りが湧いて、私は口も思考も閉じる。
2人で静かに歩いて、3階の1番奥の扉の前に着いた。
「ここが入り口だ」
ルイス様は先に中に入った。
部屋は明るく照明が付いている。
ここはどうやら応接室のようだ。
真ん中にテーブルセットがあり、奥は大きなガラス張りになっている。
その先には広いテラスも見える。
そして、この部屋には左右に2枚ずつ、全部で4枚の扉がある。
「右奥がオレの寝室、手前が書斎で左奥がリゼの寝室兼書斎、手前が衣装部屋だ。それぞれの寝室は隣の部屋に行く扉も付いているから使い勝手はいいと思う」
ルイス様は各扉を開けながら説明してくれた。
私の寝室に入ると衣装部屋に通じるドアと奥にもう一つドアがあり、バスルームも付いている。
このお部屋から全く出なくても生活出来るくらい整っていて驚く。
「このお部屋の設備はさすが王宮!全てがコンパクトに収まってますね」
私は感嘆の声を上げた。
「気に入ってくれて良かった。世話をする者達は明日の朝、改めて紹介する。王宮を一通り案内したり、今後の計画も含めて話が必要だから、悪いが今週中は学園は公務と言うことにして休むから、よろしく頼む」
「分かりました。では持ってきてもらった荷物を少し片付けてから、今夜は休みます」
「ああ、あまり遅くならないようにな。おやすみリゼ」
そう言うと、私の両肩を持ち、頬にキスをしてルイス様は颯爽と去っていった。
去っていったと言っても、すぐそこの部屋に居る訳なのだけど、、、。
何だか力が抜ける。
今日は沢山のことがありすぎた。
もう、片付け、、無理だな。ねよう。
コンコン、コンコン
ドアがノックされる。目を薄っすら開くと眩しい朝日が目に入った。
んー、今何時?と寝ぼけつつ、身を起こしたところで豪華な天蓋に可愛い透かし編みのレースカーテンが掛かっていることに気づく。
うわっ!!ここは王宮だった。
「はい」
出来るだけ、上品な声で返事をする。
「失礼いたします」
少し年上?の女性が2人入って来た。
「おはようございます。今日から側仕えに任命されました。マキノとミミです。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と礼をする2人。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私もベッドから降りて、軽い会釈と挨拶をした。
「早速ですが、お支度をお手伝いをいたします」
マキノがそう言うとミミは衣装部屋に飛び込んで行った。
2人はテキパキと息のあった動きで、10分程で私の支度を終えた。
私は王宮の侍女のスキルの高さに驚く。
しかも、2人は侍女の仕事だけではなく、私の護衛も担っていると言う。
「あのー、それで私の今日のスケジュールはどうなってますか?」
いつ出掛けても問題ない状態になったので、確認する。
「はい、エリーゼ様の本日のご予定は、朝食を隣の応接室にご用意してますので、お召し上がり下さい。その後、ルイス殿下が王宮内をご案内されます。かなり広いですので、ゆっくりと時間を取ってあります。昼食後は離宮の方で、マーゴット王女殿下よりお茶会のお誘いをいただきました。そして、本日の夕食は陛下、並びに王妃殿下、ルイス殿下とご一緒にお召し上がりくださいませ。以上です」
いきなりハイパワーなスケジュールですね、、、。
死んじゃいそう。
「はい、分かりました。ありがとうございます」
本音を隠し、何とか澄ました顔で答えた。
さて、この猫被り淑女モードも、いつまで保つかしらと自虐しながら、隣の部屋に移動する。
「おはよう!リゼ。いい天気だな」
満面の笑みでルイス様が座っている。
「おはようございます。いいお天気で何よりです」
「よく眠れたか?って聞くのもヤボだな」
そう言いながら、声はもう笑っているルイス様。
絶対、ドアをノックし倒す侍女の二人を見ていたハズ。
「そうですね、とても気持ちよく眠れました」
「それは良かった。これから生活する場所で眠れないって言ったら、仕方なく公爵邸に戻すしか無かったからな」
うわー、意地悪!!
「そんな事いって帰らせる気なんかないくせに」
私が悪態をつくと、侍女たちの表情が凍る。
「当たり前だろう、絶対帰さない」
私に笑顔で全く悪びれずにルイス様が答える。
それを見た侍女たちが驚き倒れそうな状態になってますよ!ルイス様、、、。
「ええ、分かっていますよ。とっても!」
ルイス様の嫌味を受け流し、テーブルを見るとアレ?このお料理は見たことがある様な、、、。
「流石にリゼが可哀想になったから、今朝は公爵邸の朝ごはんを運んで来た。いつも、このチーズトーストとフルーツに紅茶なんですよって、料理長が言ってたぞ。この前のはスペシャルだったんだな」
あー!父上バレました、残念。
「そうです。この前のはルイス様用のスペシャルメニューです。私はこの朝ごはんが落ち着きます。ありがとうございます」
「では、冷えないうちに食べよう」
「はい、いただきます」
待っていてくれたルイス様と朝ごはんを食べ始める。
運んできたはずのお料理は作りたての様に温かくて、食べていると私の心も温かくなってきた。
よし!覚悟を決めて、今日から頑張るぞー。
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