第20話 精霊

 「それでコレは一体どう言う状況なんだ?」


 オレは予定通り30分後にリゼの部屋へ行った。


すると、部屋は荒れに荒れており、疲れ果てたミヤビ、縄が掛かって気を失っている貴族風の男、リゼとその横には大きな白狼が座っていた。


「はい、説明します」


リゼが話し始めた。


「まず、このベルファント王国のローザン男爵様がマーゴット様からのお手紙を持って、私を訪ねて来たのです」


リゼは縄に掛かった男へ視線を向ける。


「それで?」


「執事のモネ爺が応接室に案内して、私が呼ばれました。室内に入るとマーゴット様の手紙をここで読んですぐ返事が欲しいとの事で、人払いを申し出られました。通常なら室内に殿方と2人になるのは憚られますのでお断りするのですけど、このお方とても怪しかったのであえて話に乗っかってみたのです。ミヤビも居ますし」


「いや、リゼ、、、それはどう考えても危ないだろ」


オレは呆れた顔する。リゼは気まずい顔になる。


横からミヤビが続ける。


「それで、お嬢が手紙を受け取ろうとしたら、こいつがお嬢の手を掴んだので、オレの出番になりました。ところがコイツは魔法使いだったらしく、この部屋で、派手に風魔法を使いやがって、この通りです。オレはお嬢に近づけなくて、、、。そうしたら、この大きな白狼が現れてコイツの腕に噛みつきました。すると、魔法が弱まったので、お縄をかけました」


あー、恐ろしい。


ミヤビもリゼも、この屋敷の者たちも、無鉄砲過ぎる。


「で、リゼ、怪我は?」


「それは大丈夫です」


「なぜオレを呼ばなかった?」


リゼはそれに対する返事を声には出さず、念話で話しかけて来た。


「人前でというか、貴族の方の目の前であまり転移とか魔術を使うのはマズイって言われていたので、、、ごめんなさい」


「そうか、オレのために気を遣わせてすまない。だが危機の時は別だからな、次からは遠慮なく呼んでくれ」


「分かりました」


リゼが俯く。


怒るつもりじゃ無かったんだが、言い方がキツくなってしまったかもしれない。


オレは再びミヤビの方を向く。


「それで、その大きな銀狼は、、っとその話は後にしよう。ミヤビ、アズを呼ぶからその男を連れて行け。オレはリゼと話がある」


「分かりました、殿下」


オレは念話でアズを呼んだ。


「アズ、不審者を一人拘束した。ここまで引き取りに来てくれ。ミヤビが今、見張っている」


「殿下?はぁー?また何かあったの?俺ご飯食べてる」


「すまないが、急ぎで頼む」


「そっか、そうだろうな。仕方ない、今から行くよ」


刹那、少し食事を邪魔されて、不服そうなアズが現れた。


「あー、え?何この状況。、、、白狼?」


「いや、今はあまり考えるな。詳しいことはミヤビに聞け。オレとリゼは話があるから外す。後は頼む」


アズとミヤビに捕縛された男を任せて、オレはリゼの手を引き廊下へ出た。


すると大きな白狼も付いてきた。


「ルイス様、この大きな白狼は何なのでしょう?」


リゼがオレに聞いてくる。


「それも含めて、リゼに伝えたいことがある。こんな時間で悪いが、連れ出してもいいか?」


「例の大切な話というやつですか?とっても気になるので、私も早く聞きたいです。時間は大丈夫です。モネ爺に伝えてきます。ここで少し待っていて下さい」


と、言い残して、リゼは執事のところへ向かった。


大きな白狼はそのままオレの横にいる。


オレは白狼を連れて、先程の応接室に戻った。


室内に居たミヤビ、アズ、捕縛された男の姿はもう無かった。


オレは横にいる白狼に尋ねる。


「お前はリゼを守る精霊か?」


白狼は大きく頷いた。


「オレはリゼを連れてこの後、王家の霊廟に行く。お前も付いてくるか?」


一緒に行ったところで、白狼も入れるのかは分からないが、リゼの守護をしている精霊に失礼なことは言えないので誘った。


白狼は首を横に振った。


そして、姿を霧のようにふわっと消した。



その時、トントン、とノックが聞こえる。


「はい」


返事をすると、先ほどとは違う服に着替えたリゼが現れた。


「ボロボロだったので、着替えてきました。もう出掛けても大丈夫です」


「リゼ、怖かっただろう。リゼが来るなと言ってもすぐに来れば良かった。済まなかった」


オレは先ほどキツイ言い方をしてしまったので、本心を素直に告げた。


リゼは驚いた顔をする。


「そんなそんな、私の判断が悪かっただけです」


オレは両腕を伸ばして、リゼの両肩を掴んで、抱き寄せた。


「本当に無事で良かった」


リゼは無言で頷く。


オレは腕に力を入れる。


リゼはオレの腕の中にいる。


リゼの温かな体温を感じて、ようやく安心した。


「ルイス様、不謹慎ですけど幸せな気分です」


と、リゼが顔を上げて言う。


先ほどの強張った顔から柔らかな表情に戻っている。


良かった。


「リゼ、このまま王家の霊廟に移動する。転移で入口まで行くから」


「えっ転移!?」


オレはギュッとリゼのを強く抱きしめたまま、転移術を展開した。

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