第19話 陛下と宰相

「陛下、リゼに盾が発動しました。これで、彼女が私の妃となる条件は揃いました」


 オレは、リゼに王家の秘匿を伝える許可をもらうため、父上であり、国王でもあるハリス・ランドル国王陛下の元へ向かった。


ここは王の執務室、王宮の中央棟の奥にある。


父上の横には、リゼの父親で宰相ルーヴェンス・ベルカノン公爵も立っている。


「そうか、盾が発動したならば、王家の霊廟に入る事を認めよう」


父上は威厳のある声で了承を告げる。


「はい、ありがとうございます」


オレは無事に許可を貰えて安心した。



「よし、許可は出した。もう、ここからは職務外だ。で、何故、盾が発動する様なことになったんだ?ルイ」


急に砕けた話し方で、父上は質問してきた。


「リゼがまた襲撃にあいました。王宮筆頭魔術師ルータの孫、シータの協力で犯罪組織の詳細を掴めました。ヘミングウェイ達が捕縛に向かってます」


「そうか、次期王宮筆頭魔術師シータは優秀だと私も聞いている」


「そうですね。使役紋を辿って、半日で200人ほどの容疑者が記載されたリストを上げて来ました」


父上と宰相が驚きの表情となる。


「それは、規格外な話だな。王宮筆頭魔術師ルータがその地位を譲ると言い出した時は驚いたが、、本当に先祖返りなのだな」


「はい。また人の心が読めるとも言っていました。オレはそれを聞いてから思考は閉じておくようにしました」


オレの話を聞いて、父上の表情が歪む。


「それはまた何とも、、。よし!宰相、私たちも思考は閉じておこう。ルイ、進言感謝する。危ないところだった」


父上は宰相に向かって言った。


「いやはや、全くですな。心が読めるとは恐ろしい!!しかしながら少し可哀想な気もしますな。彼は聞かなくて良い事も聞こえるのでしょうから」


宰相はシータに同情している様だ。


「確かにな。まあそんなに優秀なら、捕縛の件は大丈夫だろう」


父上がオレに視線を戻す。


「はい」


そしてオレの顔を見つめながら、何か言いたそうな顔をする。


「私もひとつ伝えたいことがあるんだが、宰相、ルイに共有していいか?」


父上は宰相に確認した。


横に立っている宰相は頷いた。


「ベルファント王国の者が我が国の秘匿を探っているとの情報を得た。秘匿を完全に暴くことは、私かお前を捕えない限り無理であるから、特に心配はしておらぬ。しかし、エリーゼに盾が発動したと言う事は、ルイとエリーゼは一蓮托生。エリーゼに何かあれば王家は滅びる。私たちに出来る事は彼女を護る体制を強化することだろう。私からもエリーゼには影を数名付ける。良いか?」


秘匿を探っているだと?


オレは怒りで体温が上がっていく感覚がした。


だが、オレが今この立場で出来ることは少ない。


「リゼを、、、。影の件は、お願いします」


オレは父上の提案を受けた。


「それと宰相、可能なら王宮にエリーゼを移した方が良いのではないか?どうだ?」


父上は横の宰相の方を向いて言う。


「寂しいのですが、襲撃が続くようですと我が公爵邸では対処出来かねます。陛下よろしくお願いします」


父上の提案を飲みつつ、宰相は寂しそうな表情になる。


「なんだ?ルーヴェンス、お前はここで仕事をしているじゃないか。エリーゼとはすぐ会える。心配しなくても大丈夫だ」


父上が宰相を慰めている。


オレはその様子を見ながら、次の話を持ち出す。


「父上、ひとつ気になる情報があるので話しても?」


「ああ、なんだ?」


「ベルファントのロイ王太子が、詳細は不明ですが昏睡してるようです」


「な、昏睡?それは、どう言う事なのだろうか。我が国の秘匿を探っている者との繋がりも気になるところだが、、、」


父上は考え込む。


「私も独自のルートで王太子の件は探ってみます」


宰相が言う。


「ああ頼む。悪い方に考えるのではなく、真実をしっかり調べ上げるとしよう」


父上は答えた。


「はい」


宰相とオレの返事が重なり、その場は解散となった。



 リゼを王家の霊廟に連れて行くと共に王宮へ内密に引っ越しをさせる。


通常の執務に加えて、急にすべき事は増えたがちょっと嬉しい気分のオレもいる。 


さて、まずはリゼのところへ向かうか。


オレは心の中で語りかける


「リゼ?今大丈夫か?」


「ル、ルイス様、ええっとーあんまり大丈夫じゃないです。30分待ってください」


「分かった。30分経ったら、そっちに行く」


「はい、すみません」


リゼから待てと言われて、時刻を確認する。


18時35分


風呂にしては、早くないか?


いや、風呂などと邪な想像してはいけない。


オレは煩悩と闘い、きっちり30分後にリゼの元へ向かった。

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