第17話 天使

 んー?美味しそうなバターの香り??


ハッと目を覚まして、膝の上の重みで今朝方の記憶が蘇った。


そっと下を向くとスヤスヤとルイス様が眠ってる。


いい香りを辿れば、ドアの前にワゴンが置いてある。


見間違いでなければ、パンとオムレツとフルーツが2セットと大きな紅茶のポット、2つのカップが、ふんわりとした傘の様なカバーを乗せて置いてある。


バレてる!!あー!完全にバレてる。


「ルイス様、ルイス様」


小声で呼びかける。


少し身じろぎして、ルイス様がうっすら目を開けた。


うわー!ちょっとちょっとちょっとーぉ!!美貌が零れ落ちてますよ!眼福が過ぎる!!と、一人でテンション爆上がりの心中はさておき、にこやかにご尊顔を見つめていると、ルイス様が私の首の後ろに腕を伸ばしてきて、私を下に引っ張ったと思ったら、チュッと軽く口にキスをした。


は!?はーあぁ、キス!キス!キスを!!!ああああー!ウソー!!


突然の事で顔に火がついたかと思うほど熱い。


恥ずかしくて両手で頬を包む。


私がそうやって悶えてる間にルイス様は覚醒したようだ。


「あー!」 


彼も一声上げて、同じく顔を両手で覆った。


傍から見るとバカップルそのものである。



ようやく落ち着いた頃、私はルイス様に話しかけた。


「ルイス様、ち、朝食らしきがあちらに」


顔を覆ってた両手をゆっくり外して、ルイス様はワゴンのある方を見る。


「あー!」


再び、声を出して、今度は右手をご自分のおでこに当てる。


「すまない、オレがいるとバレてるよな。リゼ怒られたら一緒に謝るから、それと寝てしまってごめん。目が覚めて、とても可愛い天使がいたからキスしてしまった」


そう言いながら、ルイス様はニコニコしている。


まぁ、天使は貴方様ですわーと、わざわざ言うのも嫌味になりそうだから心に仕舞った。


「ありがとうございます。嬉しいです。バレたらバレたで仕方ないですね。まずは朝ごはんを一緒に食べましょう」


私はルイス様を朝食に誘う。


ルイス様はゆっくりと私の膝から頭を上げた。


私は立ち上がって、ワゴンへ向かった。


ん?メモ?


『おはようございます。昨夜、ご主人様はお仕事が立て込んでらっしゃるとのことでお戻りになられませんでしたので、ごゆっくりお召し上がり下さいませ』


恐ろしく優秀な侍女に言葉も無かった。




「おはようございます。エリーゼ様、昨日はお疲れ様でした」


「まあ!おはようございます!マーゴット様」


朝から、潑剌とした美少女、最推しのマーゴット様からご挨拶いただけるなんて!!と、しあわせを噛み締めている私を横からジト目で見ているのはルイス様である。


「姫、おはよう。その姿は、朝練も参加したのか?」


「おはようございます、ルイス殿下。はい、今朝も参加して参りました。部活って良いですね」


マーゴット様は笑顔だ。


ううっ、美形が二人並ぶと絵になる。


「授業が始まる前に着替えて来ますので、また後で!失礼します」


やっぱり天使ってマーゴット様みたいな方を言うんですよ、ルイス様ー!と心中でごちる。


「いや、リゼの方が天使だよ」


耳元に囁かれる。


うわっ!っと私が飛び退くとルイス様は声を出して笑う。


「オレの天使は鈍いからな、ちゃんと言わないといけないって思っただけさ」


こんな私を天使なんて言ってくれるのはルイス様だけですよ。


本当にありがとうございます。




「殿下、ヤバいかもしれない」


「何を掴んだんだ?アズ」


授業中に隣国へ潜入させていたアズから念話が入る。


アズとの念話はリゼとの様な魔道具を介した物ではなく、アズの実家であるバッファエル公爵家の初代と、オレの先祖である王が血の盟約を結んだものだ。


この盟約により、オレとアズはお互いが生きていれば、どこにいようとも語りかけれる。


また、アズ以外にもバッファエル公爵家の男達なら念話を交わす事が可能だ。


「ロイ王太子殿下が昏睡してる」


「は!?昏睡?姫がクッキー送ってたのは、カモフラージュか?」


「だと思うよ。ロイ王太子殿下は王と一緒に執務してる事になってるけど、実際は王が1人でしてる。かなり厳重に管理した部屋に匿ってるみたいで、近づけないのだけど、潜入した方がいい?」


「いや、そこで脚が付くのも下手な話になる。帰ってこい」


「御意」


なんて事だよ。


厄介過ぎる。


姫は、、、どうするか?


呼んで追求するのは簡単だが、、、。


リゼに頼むか?


「リゼ、ちょっと頼みたいことがある」


おれは念話で同じ教室にいるリゼへ話しかけた。


「今、大丈夫ですよ。何でしょう?」


「姫を誘って、ロイの事をさりげなく聞いて欲しいんだ」


「ロイ王太子殿下の事ですか?えっーと、どんな事を聞いたら良いですか?好きな食べ物とか?」


「うーん、そうだな、そんな感じでいい。最近のロイの事を聞いたら、オレに教えてくれ」


「分かりました。マーゴット様をご飯にでも誘ってみますね」


「ああ、よろしく頼む」


「はーい」


オレが探って欲しいのはロイの好きな食べ物では勿論ない!!


気を抜いたら笑ってしまいそうだ。


あー、今は授業中だからなー!耐えるしかない。


リゼは、例え食べ物の好き嫌いの様な他愛のない話をしても、結果、相手から重要な事を聞き出してくれる気がするから不思議だ。


本当に信頼できるオレの天使だよ。


本人は全く自己評価が低くて困るけどな。

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