第16話 騎士団と姫の騎士
「し、、しくじりやがったんです。すんません」
倒れ込み、声を振り絞って喋る男は再び髪を引っ張られ引き摺り回される。殴られた左目の瞼は腫れ上がり、右目は1度目の失敗の際に潰されている。
今回は激しく殴られ鼻も曲がってしまったようだ。
室内は明かりもなく闇に包まれていて、僅かな月明かりで分かるのは数人の人影。
しかし、黒いフードを被り顔も見えず、口も閉ざしている彼らの身元の判別は難しい。
「もう一度、、」
ザクっ、、。
男が最期まで話し終えることもなく、その生を終えた。
小さな火の玉が現れたと思えば一気に大きくなる。
闇の中の誰かが放ったのか?それも分からない。
やがて辺りは火の海となる。
闇の中に居たはずの人影も消えていた。
「ルイス殿下、わたくしと私の騎士リチャードがランドル王国の騎士達と一緒にブランド地方へ行く許可を下さい」
突然、執務室を訪ねて来た姫が言い放つ。
髪を後ろで束ね、騎士服に2本の剣を左右の腰に差した姿は、先程までの紫陽花を愛でるガーデンパーティーで華やかな衣装に身を包んでいた時とは大違いだ。
「何か掴んだのか?」
「はい、掴みました」
「いやいや、はい掴みました。ではなく内容は?」
「言えません」
そんなにキッパリ言うか?
「それでは許可出来ない。何故なら、貴方が我が国の騎士団の妨害をするとも限らないだろう」
「細かな説明は出来ません。ですが、首謀者らしき者が分かったからです」
「それは、、、そちらの国の王族が関わることか?」
「言えません。許可お願いします」
「では、これだけは答えて欲しいのだが、我が国の騎士団の邪魔はしないか?」
「、、、場合によります」
ダメだ。話にならない。オレがお手上げになっていた時に、ヘミングウェイが戻ってきた。
「王女殿下、戦場になるかも知れない地です。貴方の行く場所では無いと思われますが」
いつもの冷淡な口調で諭す。
「わたくしは負けると分かっていて出るほど、愚かではございません」
氷の騎士団長も姫には効果なしだな。
「悪いが隣国の姫に何かあれば国際問題になる。オレから許可は出来ない」
毅然とオレも断る。
「では、わたくしの護衛のリチャードだけでも同行させて下さい」
「姫の護衛はどうするんだ?」
「他にも護衛はおります」
姫はここが落とし所と、最初から狙っていたのか?
「分かった。騎士リチャードの同行は認めよう。ただし、総指揮官のヘミングウェイの指揮には従ってもらう。それでいいか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
姫は一礼すると後ろに控えていた騎士リチャードの肩を叩き、部屋から退出した。
「ご許可いただきありがとうございます。ベルファント王国近衛騎士所属のリチャード・ダストンと申します。よろしくお願いいたします
」
残された騎士リチャードは深々と頭を下げた。
「リチャード、姫のゴリ押しの事情はよく知らないが、くれぐれも総指揮官ヘミングウェイの指示は守ってくれ。死傷者が増える様な事態は避けたい」
オレはそう言って、横のヘミングウェイに目配せする。
「リチャード殿、ブランド地方での単独行動などは許可出来ないと思うが、貴殿はそれで大丈夫なのか?」
へミングウェイが問う。
「はい、私は王宮騎士団の方々のお力になり、王女殿下にご報告するのが今回の仕事です」
リチャードは、オレの方へ向き直り、更に話を続ける。
「ルイス王子殿下、先ほどは王女殿下の同行をお断りいただきありがとうございます。私なりに精一杯勤めされていただきます」
そして再び、深々とお辞儀をした。
ああ、あのジャジャ馬を誰も止めれないのだろうな。
オレは騎士リチャードに同情を覚えた。
「おはようございます。ルイス様、起きてますかー?」
そんな声が聞こえて来たのは、ヘミングウェイとリチャードと王国騎士団達がブランド地方へ王宮から出発した明け方だった。
「ああ、リゼ?おはよう。どうした?」
リゼの可愛い声を聞くと、急に眠気が襲ってくる。
「ルイス様、ちょっと来れませんか?」
「ああ、すぐ行く」
オレはリゼの部屋へ転移した。
「ごめんなさい。こんな早くからお呼びしてしまって」
リゼは無防備な寝巻きのまま、ソファーに腰掛けている。
こんな早朝にこの部屋にいる事がバレると厄介だなと思ったオレはそのまま念話で話す事にした。
「ああ、起きていたから大丈夫だ」
オレがそう言うとリゼはハッとした顔をする。
「ルイス様!寝てない?お洋服が、、、。あー!!お忙しいのに、本当にすみません!」
「構わない。話があるんだろ?」
「はい、そうです。気になってる事があって学園では話せないなと思ったのでお呼びしました」
「で、何が気になってるんだ?」
「あのー、昨日のガーデンパーティーで私って襲撃されたんですよね?」
「そうだな、されたな」
「いやー、何というか、皆さんがあまりに淡々とされていて、何が起こったのかよく分からなかったんです。ナイフ、、、えっとナイフがシュッと飛んできたんですよね?私が気づいた時には落ちていて、ルイス様が私を助けて下さったのですか?マーゴット様は動いて無かった気もするし、、」
ああ、変なところでリゼは勘が働くんだな。
オレは困ったなーと思いながらも、
「リゼは何か変だと思ったわけだな?」
「はい、私に当たるハズの物が落ちていたので、流石に変だなぁーと」
そろそろ王家の話もちゃんとした方がいい頃合いなのかも知れない。
「理由はあるんだが、オレはまだ言えないんだ。リゼには準備をしてから話すから少し待って欲しい」
「あ、何か大切な話なんですね。分かりました。待ちます」
オレはリゼのそばに腰掛けて、リゼの頭を優しく撫でた。
撫でてるのは、オレなのに眠くなってくる、、。
「ん?ルイス様」
私は隣に座ったルイス様から、ほんのり温かい体温を感じる。
私の頭を撫でたと思ったら、眠ってしまわれた。
うわー、可愛い!!ルイス様、とてもお疲れだったのね。
肩に乗ったルイス様の頭を私の膝にゆっくり降ろす。
こんなに近くでこの美貌を見るのは初めてかも知れない。
まつ毛バサバサで肌のキメも細かい!!徹夜でもヒゲは無い!!美男子キープしてて凄いな。
私なら徹夜したら、目にクマが出来たり浮腫んだりしそう。羨ましい!
学園に行くまで、まだ4時間くらいあるし、このまま寝かせてあげよう。
じーっと美男子の顔を惚れ惚れと見ていた私も、気づけば、ほんのり温かい体温に意識を持って行かれたのだった。
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