第15話 鑑定

頭上に白い鳥が現れた。


くしばしで器用にハンカチで包まれたナイフを咥えている。


ヘミングウェイはそれを慎重に受け取った。


続いて、白い鳥はメッセージを伝える。


「紫陽花の園で襲撃があったが、盾が発動した。リゼは無事だ。今から凶器のナイフを送る」


以上を話し終えると白い鳥は消えた。


私は頭を抱えていた。


今朝、王宮筆頭魔術師ルータから、先日のエリーゼ嬢の襲撃事件の罪人と繋がっている人間のリストを受け取った。


そのリストには200人近くの名前が線で繋いで記載されていた。


そして、大半が私の故郷である辺境ブランド地方の領民だったのだ。


辺境ブランド地方は私の兄ルソー・ブランド辺境伯爵が領主を勤めている。


もちろん辺境と言うだけあって、隣のベルファント王国との国境に面している。


私の領地から問題のある輩が沢山出入りしていたとは、、、なんたる不覚!!


領主の兄は何をしていたのか?沸々と怒りが湧いてくる!


しかし、今頃そんなことを言っても、事件はもう起きてしまった。


グタグタ頭を抱えていても仕方ない。


気持ちを切り替えて、今後の捕縛作戦を考えよう。


だが先に、このナイフを王宮筆頭魔術師のルータに鑑定してもらわねば、、。


部下に紫陽花のガーデンパーティー会場への出入りのチェックを厳しく確認し直すように指示し、私は殿下から受け取ったナイフを持ち、王国筆頭魔術師ルータのいる魔塔へと向かった。



「ルータ殿、鑑定をお願いしたい」


私は案内された部屋に入り、依頼を口にする。


「おお、ヘミングウェイ。また何か事件が起きたのかね」


「はい、先程エリーゼ嬢がまた襲撃に遭いまして、コレはその時飛んできたナイフだそうです。殿下が送ってきました」


「物騒なことよ。それも一昨日に続いてとは敵も何か焦っているのか?分かった。そちらは預かって調べておこう」


王宮筆頭魔術師ルータは濃紺のベルベット地のトレーを差し出す。


そこへ私はナイフを静かに置いた。


「そう言えば、お主の領地は大変な事になっておったな?ルソーは大丈夫か。今回の件は次期王妃を狙ったもの。魔塔もチカラを貸す。困った時は早めに報せるのだよ」


「ルータ殿、心強いお言葉ありがとうございます。私も兄がどうなっているのか分からないのです。準備が整い次第、領地へ出向くつもりです」



「そうか、くれぐれも気をつけてな」


「はい、よろしくお願いいたします」


ヘミングウェイはテキパキと挨拶をして、部屋を後にした。



それを見届けた王宮筆頭魔術師ルータは机の上にある杖を手に取り、一振りする。


ドッシーン!!


「イタタタタ、またかよー!!爺ちゃん!この呼び方は辞めてって!もう、今、ルドルフと遊んでたのにー!僕、フリスビー投げたところだったんだから」 


前回よりも不機嫌なシータ。


「ほう、それはすまんかった。で、今回はこのナイフが問題なんじゃ」


またも気にせず、王宮筆頭魔術師ルータは話を切り出す。


「は?また事件?姉様大丈夫だったの?」


心配そうにするシータ。


「盾が発動したそうじゃ、エリーゼ嬢は無事じゃよ」


「良かった。で、爺ちゃん、僕が鑑定するって事だよね。最近、僕に頼み過ぎじゃない?」


「修行じゃよ。修行」


笑顔で王宮筆頭魔術師ルータは言う。


「仕方ないなー。じゃあするよ」


そう言うや否や、シータはトレーの上にあるナイフへ手をかざし、手のひらから青い光を一瞬放ち、すぐに手を元に戻した。


「コレは僕の作ったリストの165番目の人がお店で買って、75番目の人に渡して、55番目の人が連れてきた63番目の人を使って、王宮の東の塔の3階の奥から2番目の部屋の窓から、少し魔法をかけて投げてる。依頼したのは3番の人だよ」


「そうか、やはりブランド領はベルファント王国の正教会と繋がってそうじゃな。どれ、ヘミングウェイに伝えておこうかの。シータ、ご苦労じゃった」


そう言うと王宮筆頭魔術師ルータは机の上の杖を手に取り、一振りした。


その瞬間シータは、この部屋から元の場所に戻されたのだった。

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