第14話 紫陽花の園

 6月9日 快晴


 王宮の紫陽花を愛でるガーデンパーティーの開催日。アリアナ様が色々と教えて下さって助かった。相変わらずU伯爵は苦手。あっ、ダメだ悪口書いちゃ。マーゴット様も来られてて、とても美しかった。お花よりも。



 いくつか配置されたガセポでは、優雅なオーガンジーのカーテンが風に揺られている。


優しい色の布で出来た天井がティータイムを楽しむお客様を柔らかな光で包み込む。


季節は6月、本日は紫陽花を愛でるガーデンパーティーが王宮で行われている。


庭師によって色とりどりの紫陽花が咲き誇っていて、なかなか美しい風景だと思う。


今日の私はルイス様とお揃いの布で作られた衣装を身にまとい、社交用の笑顔でお客様を迎える。


主催者は王妃様なので、色々と雑用は私に回ってくる。


「エリーゼ、今ウーノ伯爵がご到着されたみたいだけど、テーブルのご用意が出来るまで歓談しておいてくれないかしら?」


アリアナ様は扇子で口元を隠しながら、私に耳打ちをして来た。


うわっ、ウーノ伯爵ってフィフィのお父様、、、。うーん苦手だけども、、、、。


「分かりました!歓談してきまーす」


私は嫌な気分を押し殺して返事をした。


王妃のアリアナ様は、私がルイス様の婚約者候補になった時から、私をとても可愛がってくれるお優しい方、そして、嫌味なくテキパキとお仕事をカッコよくこなされるので、私はとても尊敬している。


そして、アリアナ様は私を見て微笑みながら、女の子が欲しかったのにこの国はね、、、と言葉を濁すことが良くある。


詳しいことを私は知らないけれど、王家と4代公爵家の中で私だけ女の子だということもあるし、何かあるのかなとは思ってる。


誰に聞けばいいのかもわからず、疑問はそのままだけど、、、。


「ようこそ、ウーノ伯爵様。王妃様よりご案内役を任されましたエリーゼ・ベルカノンでございます」


ゆっくり心を込めてカテーシーをする。


「あー、君が宰相の娘のエリーゼ嬢か、いやー宰相も可哀想にな。うちの可愛い娘から君の残念な話は聞き飽きるほど聞いている。よくもまぁ、ここに居れるね?その座はふさわしい高貴な方へ譲るべきだと思うがね」


うっわー、歯に衣もない!!フィフィ嬢、あることないこと話してるんでしょうね。


「まぁ、わたくしにご興味を持って下さりありがとうございます。本日は様々な趣向を凝らした演出を王妃様とご用意いたしました。まずはあちらの紫陽花の園へ画家の方をお呼びいたしておりますので、本日の記念に一枚いかがですか?」


嫌味にも負けず営業トーク炸裂の私にウーノ伯爵はイライラしだす。


「エリーゼ嬢は侍女のようですな。転職なさられた方が国のお役に立ちそうですな」


厭味ったらしく大声で話し、私を嘲笑う。


私もこんな場所でなければやり返したいけど、ここは王妃様の主催パーティーだから、ぶち壊すわけにはいかない。


よし!今の私には最強の武器があるのよ!


「ルイス様~!一大事です!!」


心のなかで呼ぶ。


顔に営業スマイルを張り付けウーノ伯爵の前で嫌味に耐えつつ待つ。


だが、来ない!?


えー、逆にルイス様が一大事???


そうしていると、ウーノ伯爵も飽きたのか紫陽花の園の方へ歩き出した。


私はちらっと王妃様を見る。


王妃様が扇子をスッと上げた。準備OKのようである。私の仕事は完了した。



解放された私は、心の声でもう一度ルイス様に話しかけてみる。


「ルイス様ー?何か事件発生ですか?」


すると、タイミング良く後ろから肩を軽く叩かれた。


振り返るとルイス様が立っていた。


「すまない、駆け付けれなかった!」


ルイス様が小声で言う。


「どうかされたんですか?」


私も小声で聞く。


「実は王族は魔法がほとんど使えないことになっているから、こういう場所で転移は出来ない」


お返事は念話で話して来た。


「えっ、そうなのですか?知らなかったというか、今まで全く気付いてなかったです」


私も念話に切り替える。


「そうだろうな。オレがリゼの前では堂々と使っていたからな」


「バレたらなにか問題でも?」


「ああ、何というか不正を暴くときとかに、魔術は使えないって思われていた方が有利だろ」


「黒い話ですね」


「まぁそうだな。あとは天変地異を何とかしろとか言われても出来ないからな」


「なるほど、確かに期待してしまいますね。分かりました。こういう場ではルイス様を呼ばずに頑張ります」


「制約があってごめんな」


いえいえ大丈夫ですよーと表情で伝える。


「さて、私たち王妃さまのところへ戻りましょうか」


最後は声に出し普通の会話に戻した。


先ほどから私たちは互いの顔を見つめながら念話をしていたのだけど、事情を知らない人たちは熱く見つめあってるようにしか見えなかったらしい。


気付くと周囲はちょっとした騒ぎになっている。


恥ずかしさで顔が熱くなって来て、頬を両手で包むと、後ろから声がした。


「エリーゼ様、ごきげんよう。ご調子はいかがですか?」


振り返るとマーゴット様がうすい黄緑色の上品なドレスを着て立っていた。


「マーゴット様!ごきげんよう!すっかり元気になりました。ご心配おかけしました」


「それは良かったです。その衣装はルイス殿下とお揃いなのですね。お二人ともとても素敵ですわ」


「ありがとうございます。この衣装はルイス様がご用意してくださって、とても気に入ってます」


横のルイス様はとてもにこやかな王子スマイルをしている。


その時、何かチカっと煌めいた?と思ったら、私の前で弾かれて落ちた。


よく見ると細いナイフ?


今回は驚く間もなく、ポトっと落ちて、周りも気付いてないようだ。


マーゴット様が口を開く。


「あら、ルイス殿下どうされます?」


「そうだな、騒ぎにするのが目的かもしれないから、王宮騎士団に対応させよう。」


そう言ってルイス様はハンカチで、そのナイフを拾い懐に入れるフリをして、、、。


「消えた!?」


思わず、私が口走る。


「ああ、ヘミングウェイに送っただけだ。それにしても、襲撃が立て続けだな。しかもまたリゼと姫が揃っている時に、、、」


ルイス様は首を傾げた。

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