第12話 王国の魔神

 王宮筆頭魔術師ルータは考え込む。


昨日、王子の婚約者エリーゼを襲った犯人にはトカゲの使役紋が付いていた。


使役紋で人を操る魔術は高位魔術のため誰でも出来るわけでは無い。


そして、今回の使役紋はこの大陸の魔術師協会に登録されているキチンとした魔術師のモノではなかった。


嫌な予感しかしないが予測でものを言うわけにはいかない。


さて、どうしたものか、、、。




「おはよう爺様、何か分かった?」


アズールが転移術でやって来た。



アズールはルイス王子殿下の側近で、かつ王宮筆頭魔術師ルータの孫でもある。


「ああ、おはよう。そうだな、お前はあの犯人をどう思うかい?」


「犯人?特に思うところもないけど」


「そうか、、ワシはちょっと気になる事があるんだよ」


無意識に顎の髭を撫でながら、思索に耽る。




「シータを呼んだら?」


沈黙に耐えかねたアズールは、シータを呼ぶことを提案する。


シータはバッファエル公爵家の次男でアズールの弟だ、あとは三男マーリがいる。


シータは王国の魔神と呼ばれる一族、バッファエル公爵家の中でも桁外れの魔力を持って産まれた。


ゆえに王宮筆頭魔術師ルータの後任は、王立魔術研究所・所長でアズール達の父ロイド・バッファエル公爵を飛び越えて、シータが引き継ぐと決まっている。


「そうじゃな、シータを呼ぶか」


王宮筆頭魔術師ルータはテーブルに置いてあった杖を手に持ち、一振りした。


ドシーン!!


大きな音と共に少年が落ちてきた。


「痛っ!何だよ!あっ爺ちゃん」


痛そうに腰をさすりながら、シータは起き上がる。


「すまんな、ちょっと力を貸しておくれ」


王宮筆頭魔術師ルータがシータに頼む。


「それは良いんだけど、この呼び方はやめて!今、ルドルフに朝ご飯あげようと思って袋開けてたところだったのにー!!大丈夫かな、ルドルフ、、、」


微妙な表情を見せるシータ。


ルドルフはバッファエル家の愛犬だ。


「ちょっと急ぎの用だったんじゃ、使役紋のことなんじゃがお前の意見を聞きたくての」


そんな事はお構いなしに話を進める王宮筆頭魔術師ルータ。


「使役紋?わー、禁忌の術なんてワクワクしちゃう!」


あー、シータはやっぱりヤバい奴だなとアズールは思った。


そのまま、王宮筆頭魔術師ルータはシータを連れて犯人の元に行くと言うので、アズールはそこで別れて学園に向かった。




「ああ、アズか。おはよう」


「おはよう、殿下」


 俺も結構早く着いた気がするけど、殿下は教室にもう来ていた。


「今日もエリーゼが早く来るの?」


「いや、今日リゼは休みだ」


「ああ、昨日の今日じゃ元気も無いよな」


「あー、リゼは元気だから心配は要らない。ちょっと考えをまとめる日にするって言っていた」


「何だそれ?」


意味がわかんねー。


「秘密だ」


殿下は笑顔で答える。


何なんだよ、リア充か?思わせぶりなこと言うなよ。


「そう言えばさ、爺様がシータを連れて犯人のところに行ってくるって」


「シータを?何か気になることでもあったのか」


「うーん、俺には言わなかった。多分、何かの裏付けにシータを呼んだんだと思う」


「なるほどな」


俺は黙って頷く。


「アズ、ひとつ頼みがある」


急に殿下が念話で話しかけてくる。


「何?」


俺も念話で答える。


「ベルファント王国に入って、姫の周辺を調べてくれないか?この国に来た経緯を聞いても、姫からはそのうち分かると言われたが、待てない」


「殿下らしいね。分かったよ、今から用意して向かう」


「よろしく頼む」


「御意」


俺は教室を出て、調査の準備するため王宮へ向かった。




 「本当に何も覚えてなくて。何故ここに居るかも分からないんです」


 ダルクは弱々しい声で答えた。


先程から、王宮筆頭魔術師ルータと、その孫シータは罪人ダルクの取り調べをしている。


ダルクはベルファント王国でパン職人をしていると言う。


彼は使役紋の力で最近の記憶はスッポリと抜けていた。


「使役紋のあったところ触っていい?」


シータがダルクに聞く。


「は、はい」


ダルクはシータを少し怖く感じつつも了承する。


スッとシータがダルクの首筋に手を伸ばす。


青みがかった光がシータの指先から広がる。


「うーん、辿れと言われたら辿れそうだけど、この人にかなり負担がかかるかも。どうする爺ちゃん?」


「そうじゃな、一旦仕切り直して横になってもらった方が良いかも知れないな」


シータはダルクから手を離した。


そしてダルクに部屋の隅にあるベッドへ横になるようにと促す。


ダルクは素直に横になったものの、怖くて堪らないという表情を見せる。


王宮筆頭魔術師ルータはふわっと手を動かす。


するとダルクがスッと眠りに入った。


「爺ちゃん、ありがとう。それと追跡は結構時間かかると思う」


「ああ、とりあえず今出来るとこまでしてくれるかの」


「分かったよ」


そして、シータは再びダルクの首筋に手を当てて、今度は強く眩い紫の光を放ったのだった。

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