第11話 召喚
6月8日 雨
今日は学園を休んだ。最近、出来事が多すぎてこの三行日記帳に取りまとめて書くのが大変。来年はもう少し行が多い日記帳を買う!
私はまた夢を見ている。
今回は暗闇ではなく光の中にいる。
しばらくじっとしていると段々と周りにあるものの輪郭がハッキリしてきた。
「あ、私の部屋、、」
今立っている場所が前世の私の部屋になった。
くるりと部屋を見渡すと洋服を掛けたラック、本棚、机、、そこで視線を止める。
机の上にスマホがあるのが見えたからだ。
「そうだ!」
閃いた!
スマホの中の乙女ゲームを見れば何か分かるかもしれないと私は手を伸ばす。
ガシッと掴んだ。
「よし!中を見て確認確認」
画面に触れると、ルイス様とマーゴット様のスチルが出て来た。
「やっぱり間違ってなかったー!」
そして顔認証でホーム画面を出そうとしたが失敗。
パスワードを入れると開いた。
そこで背景の絵が目に入る。
「ん?何これ?ブラックドラゴンが何かを咥えて私に差し出している」
指で拡大してみたけど、何コレ?
モヤがかかって見えないー!!
もしかして私は悪い仲間とタッグでも組んで、何かもらってるの?
もうサッパリ分からない!!
と思ったら、目が覚めた。
はぁーあ?
いきなり目覚めたらダメじゃん私。
まだまた知りたい事がいっぱいあったのに!!
アレ?何か変?
「はぁー??ウソ!!」
思わず心の中で叫ぶ。
手にスマホ持ってるじゃん私。
いやいやいや、は?
動揺しつつ、画面に触れてみた。
スチル出てきたー!!
顔認証通らなーい!当たり前か!と、1人ツッコミ。
でも大丈夫、パスワードで開けちゃう。
ササっとパスワードを入れる。
私とドラゴンの背景にアプリのアイコンが浮かぶ。
するといいタイミングで部屋に眩い光が、、、。
嫌な予感しかしない。
「リゼ!どうした!!」
あーあ、またしても召喚してしまった?
「ルイス様、すみません、特に何も無いです。今何時ですか?」
平静を装おうとする私。
「その手の見た事のないヤツは何だ?触って大丈夫なのか?」
そうよねー、まだ薄暗いこの部屋でこんなに煌々と光ってたら簡単にバレるよね。
「コレは私の持ち物なので安全です。説明が必要ならしますけど、、ゴニョゴニョ」
言い辛そうな素振りをしてみる。
ルイス様の緊迫した表情が怪訝な表情に変わる。
「いやいやいや、何と言うか何なんだよ、それは、、。理由を教えてくれるなら聞きたい」
もう、分かってたけどさー、やっぱりドジなんだよ私。
何の考えもまとまらない内にこの状況だよ。
「ルイス様、私もまだ上手に説明出来るか怪しいんですけど聞かれますか」
渋々な感じで答えて、途端にベッドに2人で居るこの状況はマズイだろうと思った私は、部屋の中央にあるソファーセットへ、ルイス様を連れて移動した。
侍女を呼べる時間でも無いし、、、いやいや、ルイス様もここに居てはいけない状況だ。
「ルイス様、他言無用な話なんですけど、、」
「声に出さなければ良いだろ」
彼は頭の中に直接話しかけて来た。
おおお、賢い!ルイス様。
早速、私は念話で話し始める。
「では、そうします。まず、この道具の事は置いておいて、最近起こった事なんですけど、、、」
私は不思議な夢を見て、前世の断片を見た事と、この世界を知ってたかも知れない事、そしてこの道具の中にそれらの情報が入っていて、先程、夢の中からコレを持って来た事をしどろもどろしながらも説明した。
その際、流石の私もマーゴット様がヒロインで私が悪役令嬢という話は出さなかった。
「なるほど、リゼは生まれる前の世界で、すでにこの世界のことを知っていたと言うのか。それとその薄い板にその情報が入っているんだな。それ、さっき光っていただろう。リゼの生きていた世界は異世界なのか?」
「それは私も分かりません。前世の私の世界でここはゲームの中という設定でした。でも、いま暮らしているこの世界はあの世界と完全に同じなのかは、詳しい事が思い出せないので何とも言えないのです」
「そうか、、」
そりゃそうよね、いきなり夢でちょこっと前世を見て、ここはゲームの世界です。スマホ持っているんですとか、一度に説明も上手くできないし、ルイス様も私のグダグダな説明で理解するのは難しいと思う。
そんなグダグダをそのまま話してしまった私も私だけど。
ルイス様はテーブルに手を伸ばし、私のスマホを手に取った。
画面にそっと触れる。
「ん?」
ルイス様が首を傾げた。
「何も反応しない」
「んんんん?反応しない?えっ!」
私はルイス様からスマホを取り返して画面に触れてみた。
「うそーー!!動かないー!」
私の心の叫びが響き渡る。
「すまない。オレが触ったのが良くなかったのかもしれない」
「いえ、そんな。私も理由が分からないです。充電切れたとかだったら最悪ですけど」
再びルイス様が首を傾げる。可愛いかも。
「充電、、?」
あー、それですか、何て説明したら良いんでしょう。
「そうですね、簡単に言うと燃料切れです。コレは電気という燃料で動いてるんです。この世界には無いので、それが原因なら全く役に立たない状態になりました」
「そうか、でも、リゼにとってかなり大切な物だろう」
「そうですね、国の一大事もコレで分かるかなと、ズルをする気満々でしたけど諦めます」
何故かルイス様が笑っている。
そんなに変な事言ったっけ?
気づくと部屋が明るくなっていた。
どちらともなく、解散しようかという雰囲気になる。
「今日の学園は午前中だけだし、リゼは昨日の事もある。休んでゆっくりするといい。オレはまた時間を作って、さっきの話をじっくり聞きたい。念話で連絡するよ」
「ありがとうございます。私もお休みして今日は色々考えをまとめます。ところでルイス様は私が叫んだら今後もお見えになるんですか?」
「勿論だろ、リゼに何かあってからでは遅い!」
「すみません。何てない時にお呼びしてしまったりしそうですけど、よろしくお願いします」
私がペコリと頭を下げるとルイス様はにっこりしながら、私の頭をぐるぐる撫でる。
「あんまり色々巻き込まれるなよ。じゃあオレは戻るから」
カッコよく言い放った後、光に包まれてルイス様は消えた。
王子をそんなに度々召喚して大丈夫なのか?と思いつつ、本音はとても嬉しかった。
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