第10話 応接室
リゼを送り王宮に戻ったオレは、今日の襲撃事件の擦り合わせをする為、離宮に滞在している姫に連絡を入れる。
姫からは直ぐに参りますという返事あった。
そして今、執務室横の応接室にオレと側近で事務官のホメロス、姫と姫の護衛騎士リチャードが集ったところだ。
オレと姫はソファーで向かい合わせに座り、ホメロスとリチャードはお互いの主人の後ろに立って控えている。
侍女はオレと姫の分のお茶を手早く並べていく。
そして、侍女が部屋から去るのを待って、オレは本題を切り出した。
「姫、何か思い当たることは?」
「私は今回の襲撃に思い当たることはございません。エリーゼ様はその後、落ち着かれましたか」
「ああ、リゼは屋敷に着く頃にはすっかり落ち着いていたから大丈夫だ。それにしても思い当たる事が無いというのに姫はいつも暗器を仕込んでるのか?そんなにベルファント王国は、、、」
質問している途中で、姫の目が訴えて来たので、オレは手を挙げて辺りに結界を貼った。
「これで、この部屋の外から話を盗み聞かれることはない」
オレの言葉に姫は頷いた。
「改めて、ベルファント王国は最近どうなんだ?もちろん話せる事で構わないから教えてくれないか」
「そうですね、特に祖国のことについては何も無いのですが、今日の襲撃に関してひとつ気になる事が、、、」
「気になる事とは?」
「わたくしが取り押さえた男の首筋にトカゲの使役紋が見えました。スッと消えたので、あの男は使い捨てかも知れないですね」
「トカゲ、、、。嫌な予感しかしないな」
「そうですわね」
嫌な予感の原因は言うまでもなく使役紋だ。
強い魔力を持つものは使役紋を使って、人を操る事が出来る。
もちろんこれは禁忌の魔術なので重罪となる。
厄介なのは使役紋を付けられた者が使命を果たすと使役紋は消えることだ。
また使役されていた時の記憶も一緒に消える。
それ故に使役紋をかけた者を特定することは難しい。
もっと言うのなら姫の言う"トカゲの紋“も後から確認することなど出来ない。
だから姫が故意に嘘をついたとしても真実は分からない。
普通は、、、。
だが、桁違いの魔力を持つ魔術師がいる我が国では誰が使役紋を付けたのかを後からでも調査することが出来る。
これはランドル王国の重要機密なので姫には伝えない。
「殿下は私が予想していたより、魔術に長けてらっしゃるのですね」
姫にオレが魔術を自在に使えると言うことは今まで伏せていたから、まぁ驚くだろう。
しかし、オレも姫の暗器には充分驚いたけどな。
「そうだな、普段は人が居る場所で魔術は極力使わないからな」
「今日は迷わずに使われていましたわね。エリーゼ様をかなり大切にされていらっしゃる」
「オレの唯一だから当然だな」
「やはりランドル王国はそう言う事なのですね」
姫は我が国の伝統を何となく知っていたらしい。
我が国の王族は代々は自分で伴侶を選ぶ。
側室などは持たず、生涯1人だけを愛する。
「ああご存じだったか、建国以来、婚約者は自ら選ぶと決まっているからな。代わりはいない」
「ランドル王国の次世代は殿下はお一人でいらっしゃるから、エリーゼ様とご一緒にお気を付けないといけませんね」
「ああ、そうだ。それもまぁ慣れたものだな。ところで姫は何故、急に留学して来たんだ?」
オレはベルファント王国の目的を知りたい。
まぁ教えてはくれないだろうが、、、。
「そうですねぇ、あまり言いたく無い理由ですね。そのうち分かると思いますので今は伏せさせていただきます」
姫は護衛騎士のリチャードに目配せをする。
「分かった。それから容疑者の取り調べ内容は姫にも共有すると約束する。そちらも何か分かればこちらへ情報提供をして欲しい」
「承知いたしました。引き続き気をつけておきます。兄にもクッキーを送る際に自国内の様子など尋ねておきます」
「よろしく頼む。ロイにもよろしく伝えてくれ。では夜分に済まなかった、失礼する」
オレは結界を解き、ホメロスと共に応接室から出た。
隣の執務室に戻るとアズが待ち構えていた。
アズはオレの同級生でもあり側近で王宮魔術師でもある。
それから魔道具を作るのが得意だ。
「殿下、爺様に容疑者取り調べの協力をしてもらったよ」
「ルータに?それで何か判ったか?」
ルータはアズの祖父でこの国の王国筆頭魔術師だ。
オレの魔術の先生でもある。
「犯人はどうやら使役紋で操られていたようだ、誰の使役紋かが問題だと思うんだけど、、」
「ああ、それなら姫がトカゲの紋様を見たと言っていた」
「マーゴット姫が?、それ大当たりだよ。爺様がトカゲの紋様って言っていた。それにしても姫は何者なの?めちゃくちゃ強いって聞いたよ」
「どうせミヤビに聞いたんだろ」
「まぁそうだけど、暗器仕込んで学校行くとかヤバ過ぎない?エリーゼを狙われたら終わりじゃん」
アズは痛いところを突いてくる。
「オレもそれは思った。だが、容疑者はどうもリゼを狙ってた様だ。そして、、、」
「それをマーゴット王女殿下がお助けされたのですよね」
ずっと黙っていたホメロスは、オレの言葉に被せて来た。
「オレもそれは疑問だった。姫は自分の身を守るのではなく、リゼを助けた。証言していたトカゲの紋も正しい。とすると、この事件はベルファント王国が仕掛けているのではなく、ランドル王国内に問題が発生していると考える必要もあるだろう」
「アズ、引き続きルータと使役紋の調査の継続を頼む。ホメロス、今日の出来事の調査録の作成をし各騎士団長と共有してくれ」
「分かったよ。爺様に伝えてくる」
そう言うと、アズはフワッと姿を消した。
「わたしも承知いたしました」
ホメロスは引き出しから筆記具を取り出して、すぐに書類の作成に取り掛かり始めた。
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