第9話 王女とデート

 6月7日 曇り

 最高と最悪の出来事で目まぐるしい一日だった。

マーゴット様が気さくに話しかけてくれるのが幸せ。ルイス様、魔法、、、使えるとは知ってたけど目の前で見たのは初めてでドキッとした。私の特技って何なんだろう。どこでも寝れる事かな。さて、今日も疲れたのでねよう。



「おはようございます。エリーゼ様」


 鈴を鳴らした様な可憐な声がしたので振り返ると、あーーー!尊い!!


私の前世でイチオシのマーゴット様がそこに居た。


「おはようございます。マーゴット様」


私は軽く会釈をする。


「エリーゼ様、わたくし剣術部へ入部の申し込みを昨日しまして、先程入部が認められました」


「それは良かったですねー、、、」


剣術部?そう言えば、ルイス様が何か言われていた様な、、。


マーゴット様は剣にご興味があられるってことよね。


「と、言う事は、マーゴット様は剣が使えるのですか?」 


「はい、わたくし剣は幼少期から兄と習ってまして、中々の腕なのですよ」


キラキラした笑顔で凄い内容を教えて下さる。


「マーゴット様、その美しさで剣術までなさられたら完璧過ぎますよ」


思わず私は羨望の笑みをしてしまう。


「お褒めの言葉をありがとうございます。話は変わりますが、わたくしエリーゼ様にお尋ねしたいことがあるんです」


「はい、何でも私で分かることならお答えしますよ」


「兄から、イヴァンカという洋菓子店のピスタチオクッキーを送って欲しいと手紙が参りまして、その洋菓子店の場所をお聞きしたいのですがご存知ですか?」


あー、あの王都で有名な洋菓子店か!と、私はすぐに閃いた。


「そのお店なら知っていますよ。宜しければご一緒しましょうか?今日の放課後でも大丈夫ですよ」


「ありがとうございます。エリーゼ様、明日から部活動が始まるので、わたくしも今日の放課後ですと助かります」


「承知いたしました。マーゴット様、では放課後に!!」




 そして今、我が家の馬車でマーゴット様と私は十六番街の有名洋菓子店イヴァンカまで移動中なのである。


「それにしても、マーゴット様のお兄様がクッキーをお好きとは驚きました。甘いもの全般お好きなのですか?」


「そうなんです。兄は甘いモノには目がなくて、わたくしのランドル王国への留学が決まってから、こちらで人気のお店を調べているみたいで」


マーゴット様は美しい笑顔で話して下さる。


もう、眼福です。


推しキャラとデートしてるんですもの。


今日は幸せすぎて命日になりそう。


私がこっそり妄想している間にもマーゴット様は外を目をキラキラさせながら眺めていらした。


ふと、ルイス様の声が頭に響いてくる。


「リゼ?聞こえるか」


「はい、聞こえます」


「今日は特に変わりないか?オレは午後から視察で学園を出たから心配で、、、」


「大丈夫ですよ。ミヤビもずっと護衛してくれてますし。それとルイス様、私は今、マーゴット様とお出掛け中なんです」


「は?お出掛け?何があった?」


「いえいえ何も。マーゴット様がお兄様にイヴァンカのクッキーを買って送られるそうなので、ご一緒しているだけです」


「ああ、ロイにか、マーゴットの兄のロイならオレも良く知ってる。クッキーとはな、、、。くれぐれも気をつけてな」


「はい、ルイス様もお気をつけて」


こんな風にルイス様から急に話しかけて来られるのも案外楽しいなとリゼは思う。


たった数日で今までより距離がかなり近づいたような気がする。


それでもここは、たぶん乙女ゲームの世界。


今のこの状況はストーリー通りなのか、それとも私が転生する前とは全く違うものになっているのかも分からないけど、、、。


この世界の未来に破滅を呼ぶ様な事が起こるとするなら、私はルイス様と離れないといけないのかもと考えると胸がチクっとするのだった。


ガタンと音を立てて馬車が止まる。


コンココンとドアがノックされた。


どうやら目的地の辺りに到着したようだ。


「マーゴット様、降りましょう」


私達はゆっくりと馬車から降りた。


「わぁキレイな街並みですね。建物の色もハチミツ色で素敵」


いえいえそこに立っているマーゴット様が素敵です。


「お店はあの人だかりがある辺りです。少し歩きますね」


私はマーゴット様の横に寄り添って歩く。


すると後ろにミヤビがしれっと歩いて付いてくる。


影なのに思いっきり見えてますけど、コレで大丈夫なの?と、内心ハラハラしながら店へと進む。


「ここです。お店の雰囲気も可愛くて大人気の洋菓子店なんです。このキャラクターのうさぎも人気があってあちらのコーナーにはグッズもあるんですよ」


私は店内を説明した。


「これは人気があるのも良く分かります。素敵なお店ですね。あら、クッキーの購入はあちらの列のようですわ」


マーゴット様は店内を見渡して、私に列を指さし教えた。


「そうみたいですね。並びましょう」


私達は列に向かった。




 半刻ほど並んで、ようやくクッキーのショーケースの前に辿り着く。


「マーゴット様、ピスタチオクッキーでしたら、このうさぎの型抜きタイプと丸いタイプがあるみたいです。どちらになさいます?」


「せっかくですから、うさぎの方にします」


彼女はまた素敵に微笑んでいらっしゃる。


そして、マーゴット様が思いのほか気さくなのが私は嬉しい。


店員さんにその旨を伝えて、贈り物用に可愛いうさぎの包装紙でラッピングもしてもらった。


私達は荷物を受け取って店を出る。


外ではミヤビが我が家の使用人の制服を着て立っていた。


「お嬢様、お荷物は馬車まで自分が持って行きますので、ゆっくりされて下さい」


誰?と言うくらい優雅な仕草で私達の荷物を受け取りミヤビは去っていった。


「エリーゼ様のお陰で今日は助かりました。宜しければ、お茶でもご一緒しませんか?」


マーゴット様から嬉しいお誘い。


「ありがとうございます。是非行きましょう。あちらの角を曲がったところに素敵なカフェがあるんです」


私は指を差してカフェの方向を教える。


「ええ、ではそちらへ行きましょう」


二人で歩き出した。


私達はしばらく真っ直ぐ歩いて、角を左に曲がり人気のない落ち着いた通りに入った。


その時、キィーンと金物が当たった様な音がして私は咄嗟にしゃがみ込む。


あ、マーゴット様が!と、思いチラリと横を見た。


「えええええー、マーゴットさま?」


思わず、心の声が出る。


マーゴット様は、左手の指先からワイヤーを出して相手に絡め、右手の短剣をその相手の首筋に当てて押さえ込んでいる。


私は心臓がバクバクして声も出ない。


その時、辺りに白い光が広がって、


「リゼ!!大丈夫か!」


突如、ルイス様が姿を現した。


即座に場を把握したルイス様は、マーゴット様が押さえ込んでいる男性に呪文を素早く唱えて拘束した。


そして、一歩遅く駆け付けたミヤビが拘束された男を迅速に連行した。


「もう大丈夫だ。リゼ、ケガはないか?」


ルイス様は地面にしゃがみ込んでいる私に駆け寄る。


私が頷くと、後ろを振り返りマーゴット様を見た。


「姫も、、、ああ充分元気そうだな」


「殿下、分かりやすいですね」


マーゴット様が呆れた声で言う。


何だかマーゴット様はルイス様には塩対応?


それはそれで可愛い。


私が大丈夫と頷いたものの立ち上がれず、ルイス様に抱きあげられたところで、マーゴット様が口を開いた。


「エリーゼ様、急な賊の襲撃で驚かれましたよね。今日はお家でゆっくりお休みされて下さい。お礼はまた改めてさせて下さいね」


「すみません!そうして貰えると助かります。私は腰が抜けたようです」


その後、我が家の馬車でマーゴット様をお送りして、私はルイス様の馬車で家まで送ってもらう事になり解散となった。

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