第8話 王子のヨミ

 今日もオレは学園の授業を終え、王宮に戻り執務室で仕事をしていた。


気づけば、窓の外はうっすら暗くなっている。


時計を見ると時刻は20時を過ぎていた。


ふと頭の中に声がする。


「ルイス様〜?聞こえますか?」


え、えっ嘘、リゼ!?


声可愛い!と悶えそうになるのを我慢する。


「リゼ、聞こえている。どうかしたのか?」


「何にもないですー。ちょっと練習しとこうかなと思っただけです」


彼女は可愛く言ってくる。


この魔道具、最高だなと感心した。


「ルイス様、今日もお仕事お疲れ様です。でもあまり遅くなってお身体壊さない様にお気をつけて下さいね。ではお邪魔しました」


更に優しい言葉を掛けてくるリゼに、恋に落ちるよな〜こんな言葉言われたらと一人で頷く。


「ありがとう。リゼの言葉で元気が出たよ」


こちらもいつもより糖度高めのセリフを吐いてみた。


「きゃー!ありがとうございます」


リゼの可愛い返答で、念話は終わった。




 本当にリゼと念話で連絡出来る様になって便利だし、最高だ。


それにしても、今朝の馬車の中でのリゼは可愛いかったな。


耳を押さえて騒いだりする姿も、近すぎます!って押してくるのも、髪から甘い香りもして、、、と、油断すれば思考がふわふわと恋心に持っていかれそうになる。


ダメだダメだ!!


ここのところのキナくさい状況を忘れるな!


気を抜いてはいけない。


隣国ベルファント王国はクーデターが起こる可能性が高い。


かの国は過去に併合した旧公国民との軋轢がある。


それ故、火種を解消する為に他国からの支援や情報が喉から手が出る程欲しいのではないかと言われている。


それゆえ政略結婚などで、大国と大義名分のある結びつきを持てるのならば最高だろう。


しかし、この大陸で大国と言えるのはベルファント王国以外にはこのランドル王国しかない。


後は中小規模の国ばかりなのだ。


そして、ランドル王国の王族の次世代はオレ1人だけ、もし、オレを狙っているのならば、かなり強引な事をしてくる可能性がある。


例えば、リゼを亡き者にして姫をオレの王妃にするとか、、、。


残念ながら、今一番この説が有力視されている。


しかし、いばら姫が1人で留学して来たのには驚いた。


婚姻目的の作戦としては、かなり杜撰な気もする。


またオレに擦り寄ってくる気配も全くない。


オレ達は何か相手の戦略を読み間違えてるのではないかと言う気もする。


何にせよ、リゼがオレの大切な婚約者である以上、生命の危険に晒されない様にするのはオレの仕事だ。


オレは徐に天井に向かって、「風」と呼びかけた。


途端、室内につむじ風が起こり、黒装束で小柄な男が現れる。


「サヴァ、ロナウド!!」


ミヤビは胸に手を斜めに置いて出て来た。


ロナウド?誰だよ。


ミヤビはいつもの意味不明な挨拶をしてくるが、こちらも慣れたものである。


「サヴァ、ミヤビ。仕事を頼みたい」


オレはミヤビの奇行は気に掛けず、話しを進める。


「イジって貰えないって寂しい、、」


ミヤビが呟く。


それを無視して、俺は真顔で指令を告げる。


「ミヤビ、今日からエリーゼ専属護衛に任命する。彼女の身に傷一つ付けることは許さない。しっかり頼む」


ミヤビは真っ直ぐと姿勢を正して返事をした。


「はっ、しかと承りました。」



フザけて出て来た時とは違い、シャキッと返事をし、すぐさま消えた。


あいつのことだ、もうリゼの元へ向かっただろう。



その一連のやり取りを横の机から、無言で見守っていたヘミングウェイが話し出す。


「殿下にお伝えしたいことがあります」


「何かあったのか?」


「マーゴット王女殿下より剣術部への入部願いが届きました。学園の剣術部の指導は王宮騎士団がしていますので」


「は?入部?昨日、あの姫は練習のメニューがもの足りないとか何とか言っていたのにか?」


それを聞いたヘミングウェイの目が光る。


殺気、、、。


「それならば、是非、マーゴット王女殿下の入部の許可を出してください。私が直々に指導いたします」


オレは余計な事を言ったかもしれない。


今度は反対隣の机から、ホメロスが口を挟む。


「流石ですね〜。ヘミングウェイ、剣の名手と名高いマーゴット王女殿下にくれぐれも無様な姿を晒さない様、お気をつけて下さいね」


彼の発したトドメの一言で、執務室の空気がピリっと悪くなった。


皆疲れが溜まっているのかもしれない。


「今日はここまでにしよう。明日の夕方、私は城下の視察が入ってるので、それが終わったら、ここに来る。皆よろしく頼む」


オレは潔くその日の仕事を締めた。

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