第7話 朝食会
6月6日 晴れ
ルイス様と朝食を食べる日が来るとは!それにしても情報量の多い日だった。で、明日からどうやって学園に通うのかも考え直してみないといけない。もう少し頭の回転が早くなりますように!!今日も早くねよう。
昨夜、またミヤビがルイス様の伝言を持って来た。
今度は早く登校するのではなく、明日の朝ルイス様が私をお迎えに来るそうだ。
そう言えば、昨日はルイス様から何かお話があったのかも知れないのに、すっかり聞くのを忘れてしまったと気づいた。
我が家の朝ごはんは大体トーストと季節のフルーツにミルクティーという軽いメニューを父と私の2人で取る事が多い。
どうして2人なのかと言うと、母と小さな双子の弟たちは領地で生活しているからだ。
公爵家の子供達は大人になった時、スムーズに領地経営するための足掛かりとして、幼少期は領地で現地の子供達と過ごす事を大切にしている。
ここ数年は学園の長期休暇にしか母や弟達と会ってないので少し寂しい。
私もルイス様の婚約者になる前の7歳までは領地で生活していたので、最初は人が沢山いる大都市での生活が怖かった。
それにしても、、、。
今日はちょっと素敵なクラブハウスサンドだなと、、、。
父上、見栄を張ったのかも。
横を見るとルイス様が優雅な手付きでサンドイッチを食べている。
何故?ルイス様と私達は一緒に朝食を食べているのだろう。
眠気の抜けない頭ではサッパリ分からないけども、向かいの席で父上がニコニコしてるのでとりあえず食べるとしますか。
「殿下、今朝は娘をお迎えに来てくださり、ありがとうございます。こうやって朝食をご一緒するのも新鮮ですな」
「いや、こちらこそ朝早くからすまない。このサンドイッチもとても美味しい。お心遣い感謝する」
父上はルイス様の感謝の言葉に感激したのか満面の笑みになった。
クラブハウスサンドにして良かったね、父上。
「あの、、ルイス様は何時ごろ来られたのですか?」
私は気になっていた事を聞いてみた。
「朝の剣術の稽古が終わってからだから、6時前くらいだったと思う」
「は、は、早いですね!!急ぎのお話とかあった感じですか?」
「いや、特にそう言うのはない」
「え、あーそうなんですね」
「たまにはこう言うのも良いかなと思っただけだ。なかなか放課後はゆっくり話す間もないからな」
「まぁそう言われて見ればそうですね。ルイス様は連日、授業が終わったら王宮にすぐお戻りになられてますよね。最近お仕事がお忙しいのですか?」
「うーん、ここにはリゼと宰相しか居ないから話しても問題ないかな。実は隣国にちょっと怪しい動きがあって、少し前から探っている。これは他言無用で頼む」
「え!それ私が聞いて良い話ですか?」
話の内容に、ちょっと腰が引けたので、それ以上はー!という仕草をしてみた。
「リゼには国の機密も話していいんだよ。オレの婚約者だし。婚約するときの誓約に守秘の制約魔法も付いてるから、機密は話そうとしても話せないはずだよ」
ん、なんかサラッと怖い事を言った様な気もするけども、、。
「そうですか、口には気をつけます。で、その隣国って、、、ベルファント王国ですか?」
私はルイス様に質問した。
そこに父上が割り込む。
「そうだ、ベルファント王国は表向きは安定しているが、国王が隣接するヨーク公国を併合してから度々、前公国民が王国に対して争いを起こしている。今回は結構大きな組織が出来上がっているのではないかという情報が流れている。と言う事で、殿下とも手分けして情報を手繰っているところなんだよ」
「そんな火種が、、、。先日学園に留学して来られたマーゴット王女殿下の身辺警護は大丈夫なのでしょうか?」
私は王女が心配になったので聞いてみたら、ルイス様が答えて下さった。
「ああ、あの姫に関しては問題ないだろう、かなり剣の腕も立つし、最強の護衛も連れて来ているし、何より王宮の別館に留学中は滞在しているからな。自国にいるより安全だと思う」
「私もそう思います」
父も向かいの席から強く頷く。
「それよりもこのタイミングで留学して来た事にわが国を巻き込もうとしている感が滲み出ていて油断なりませんな」
「そうだな、隣国からは手っ取り早い手段として、オレが狙われてそうな気もするが、オレとあの姫は全くもって気が合わないからな、難しい作戦だと思うがなぁ、、」
ルイス様は驚きの発言をする。
私は何から聞いていいのか分からなくなって、マゴマゴしてしまう。
「エリーゼ、よく分かって無いかも知れないが、今一番身の安全に気をつけないといけないのはお前だよ。殿下、エリーゼに護衛を増やそうと思うのですが」
「オレもそれは考えていた。宰相、オレの影を1人送っていいか?」
「殿下の影をお借りしていいのなら、それは安心ですな。よろしくお願いいたします」
父上とルイス様は企んだ様な笑顔を交わしていてちょっと怖かった。
そして、私の残念な頭は話を追う事で精一杯。
何故に隣国が不安定になったら私が狙われるのか、まだ飲み込めて無いまま朝食の時間は終了してしまったのだった。
これから学園に向かうため、私はルイス様の馬車に乗せてもらった。
このままでは消化不良で健康に悪そうだったので、向かいに座っているルイス様に質問してみることにした。
「ルイス様、何故に私が狙われるのでしょう?」
私が口に出すと、ルイス様はご自分の唇に人差し指を縦に置いて、シッという仕草をされた。
私は首を傾げると、ルイス様がスッと私の横に座り直す。
ん、ルイス様、何をしてらっしゃる?と思っていたら、そっと私の方へ顔を寄せて、耳元に唇を近づける。
「ギャー!!ル、ルイス様、えー近いです」
恥ずかしさで顔が熱くなった私は手でルイス様の肩を押して抵抗した。
一方、私に押されてるルイス様はクスクス下を向いて笑っている。
ひとしきり笑ったあと、ルイス様はご自身の唇にまた人差し指を縦に置き、シィーの仕草をした。
私も流石に同じ仕草を二度されたら、何かあるのかしら?と、ちょっと耐えてみる事にした。
再びルイス様が顔を近づけて、耳元に唇を寄せる。
「リゼ、リゼに刺客が送られたと言う話がある」
ルイス様は顔を上げて、私を見た。
え、なんだかとんでも無い話が出て来て、ビックリを超えたビックリが出て来て、、ん?
刺客って、あの殺し屋とかそんな奴ですよね?って、ルイス様に目で訴えてみるとゆっくり頷かれた。
「どうすれば、、」
私が言いかけたところで、ルイス様は私の口の前にご自分の指を縦に置いてくる。
あ、私もするんですね。また顔が熱くなって来た気がするけども、意識したら負け。
私はルイス様の耳に唇を寄せた。
「どうしたら良いのでしょうか?」
私は囁く。
また、耳元に返事が来るのかと待ち構えたら、ルイス様はポケットからクリップみたいなものを取り出した。
そして、そのクリップを私の耳たぶに躊躇なくガシッと付けた。
イタっ!と小さな声は出たものの一瞬の事で何がなんやら。
「リゼ聞こえる?」
ん?
「これでオレと念話が出来るから、声を出さなくても大丈夫だ」
えええ、何か付けられた?
耳たぶを触るけれど何も無い。
えー何も無い????どこに行った〜クリップ!?
「ルイス様、クリップが、、」
「リゼ、心で話してー。声が出てる」
ルイス様、すっかり念話モードになっている。
「ルイス様、クリップが、、」
「うん、そうそうちゃんと聞こえたよ。クリップって、、、。あれは魔道具だよ。これで、ランドル王国の国内ならオレに呼びかけて話すことが出来る。もちろん普段考えていることは読めないから安心してくれ」
「魔道具!?そうなんですね。こんなこと出来る魔道具って聞いたことがないのですけど、私なんかに使ってしまって大丈夫なのですか?」
「宝物庫にしまっていても、ゴミになってしまうだけだから使わないと」
「今、宝物庫って聞こえた気がしますが、、、無理です。そんな国のお宝。うぅっ返したいです」
大層なものを付けられて完全に動揺する私にルイス様はトドメを刺した。
「それは一度しか使えないので返品は出来ない。リゼの安全が一番だから、何かあったらすぐに知らせてくれよ」
あえなく私の返品願いは却下。
そして、私の護衛にミヤビもつけるからと、ルイス様が宣言したところで、学園に到着したのだった。
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