第6話 婚約者と王女

 木立の新緑が風になびく、この季節は所々にあるピンクの薔薇で作られたトピアリが可愛らしい。


芝生も生え揃い美しい絨毯となっていて、休み時間はここでのんびりと過ごす生徒も多い。


この王立学園は四季折々の花や緑が美しく映える様に植樹されている。


建物もこの国で取れるレア・アラバスターをという真っ白な地色に独特の紋様が金の粒で織りなされている石を使用しており、とても美しい。


またこの王立学園は他国の王族や高位貴族の留学先として好まれている。


理由としてはランドル王国の長きにわたる平和な治世と温暖な気候、良いものを取り入れて行こうとする気質が挙げられる。




 私は走らないように精一杯早歩きしながら考え事をしていた。


ルイス様はマーゴット王女殿下の事ばかりを言う私に苛立っていたわよね。


私のヨミが正しいなら、マーゴット王女殿下がヒロイン。


私は邪魔な悪役令嬢と言うことになるのよね。


悪役、、って、そもそも2人の邪魔をするのが、悪役令嬢ってものよね。


で、悪役令嬢になった後はどうなったのか?が、乙女ゲームの内容を思い出せていないから、何とも言えない。


断罪されて殺されるとか、そう言うお決まりのパターンだけはやめて欲しい!!死にたくないし。


とりあえず、2人の仲を引き裂いたりしなければ良いのよね。


マーゴット王女殿下がどんな方かもまだ分からないし、とりあえずお詫びからよー!!


リゼは傍から見ても不自然な早歩きで教室に向かっていた甲斐もあって、教室に入る直前で王女の姿を捉えた。


「おはようございまーす!!」


私は大きな声で呼びかける。


その声にマーゴット王女は振り返り、私の姿に目を止めた。


「おはようございます、ルイス殿下の婚約者さま」


柔らかな笑顔で挨拶してくれる。


私はその美しい笑顔に心を射抜かれた。


あー美しい!!やっぱりマーゴット王女殿下は私の推しだわー!と心で叫ぶ。


「急に呼び止めて失礼いたしました。私、ベルカノン公爵家のエリーゼ・ベルカノンと申します。一昨日は学園のご案内を賜っておりましたのに体調不良でお約束を守れず申し訳ございませんでした」


深々と頭を下げてお詫びを伝える。


「ベルカノン公爵令嬢さま、そんなにわたくし気にしておりませんので、お顔をお上げになってください。学園のご案内は殿下にしていただきましたし、大丈夫ですわよ。それより体調はもう大丈夫でいらっしゃいますの?」


マーゴット王女殿下の優しい言葉に感動しながら私は顔をゆっくり上げた。


「ありがとうございます。マーゴット王女殿下、もう体調はすっかり良くなりました。今後、何か分からない事などありましたら遠慮なく私に聞いてください。それから、私のことは気軽にエリーゼとお呼び下さい」


「分かりました。エリーゼ様、頼りにさせていただきます。わたくしのこともマーゴットと名前でお呼びになって下さい。どうぞよろしくお願いします」


あまりにマーゴット王女殿下、もといマーゴット様の気さくな感じに感動し、涙が出そうになる。


「ええ、是非ともよろしくお願いいたします!」


私は精一杯の社交的な笑顔で会釈をして別れた。


あんな素敵な方、ルイス様が好きにならないハズがない!!


私が悪役令嬢になるまでも無い。


これはお二人のキューピッドになるのが世界平和のためにも正解かもしれない!と、私は本人達の意思も確認せず決意を固める。


一方、"可愛らしい天真爛漫な婚約者さまですこと。殿下や兄上が気に入って仕方ないのも分かったわ"とマーゴットが思っていた事は誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る