第5話 王子とヒロインと、、、私

 早朝、馬車から降り立つ。


何故か、目の前に姫がいる。


「おはようございます。ルイス殿下。ずいぶんとお早いですわね」


「おはよう。姫こそ、こんな朝早くからどうされたのでしょう?」


「わたくしは剣術部の朝稽古の見学で参りました。先程、終わったところです。思ってたよりメニューが厳しくもなくて拍子抜けしましたわ」


厳しく無かっただと?


剣術部の部員は卒業したら騎士団に入るものも多いのに、、、。


「そうでしたか。ところで姫が剣の達人であることは皆に知れても構わないのですか?」


それとなく聞いてみる。


「まあ、国を離れてるし問題ないでしょう」


姫は不適な笑みを浮かべる。


やっぱり怖いよな、この姫は、、、。


その時、丁度良いタイミングでリゼの乗っている馬車がロータリーに到着した。


しかし、サッと馬車のドアが開き、リゼが出て来た。


素早すぎて、オレがエスコートに向かう間もなかった。


だが、リゼはステップを一歩降りたところで、こちらを見て急に立ち止まる。


「、、、スチル?えええーこれ、スチルだわ!!うそ!本当に!?そんな急に、、、ええーっ!!」


彼女、突然叫びながら、馬車にスッと戻った。


オレと姫は良く分からない叫びに驚く。


しばしの沈黙、、、。


「あの方は殿下のお知り合いの方?」


姫に聞かれるまで、オレは固まっていた。


スチルって何だ?


リゼの様子が普通ではなかったのが気になる。


しかし、姫に何と言ったものか、、、。


でも、早くリゼにどうしたのかを聞きたい。


悩んでる時間も勿体ない。


「悪いが私の婚約者が一大事のようなので失礼する」


オレは心の焦りを何のオブラートにも包まず口に出してしまった。


「婚約者様でしたのね。それは心配ね。では、わたくしも失礼いたします」


微妙に含みのある笑みで見送られ、何とも言えない気分になったが、今はリゼの方が心配だ。


リゼの馬車まで駆け寄り、オレはコンコンとドアをノックする。


「はい」


リゼのか細い声が中から聞こえた。


「おはよう。リゼ、少し話をしたいんだが」


シーン。


返事がない。


「リゼ、開けるよ!」


今度は返事を待たずに強引に扉を開けると、リゼが床に両手と頭を付けた姿でそこに居た。


「大変申し訳ございませんでした!!」


彼女は大きな声で詫びて来る。


「えっ、えっとどうした?」


オレはよく分からない状況に動揺した。


リゼは、まだ床に頭をつけたままで顔を見せようとはしない。


「いやいやいや、身体は大丈夫なのか?話をしよう。顔を上げてくれないか?リゼ」


怯えた様子にも見えたので、ゆっくりと穏やかに言ってみた。


すると彼女は少し顔を上げた。


「一昨日はマーゴット王女殿下をご案内する使命があるにも関わらず、うっかり転けて、更に気を失ってしまいまして、ルイス様には大変ご迷惑をおかけいたしました。わたくし、未来の王妃は失格でございます」


そして、また頭を下げる。


「リゼ、ケガをして休んでいたんだろう。そんなこと気にしなくていいから、ちゃんと座って話をしよう」


オレは手を伸ばして、リゼを起こした。


「本当にいつも肝心な時に申し訳ござい、、」


「もう謝らなくていいから、元気になったのならそれでいいよ」


馬車の椅子にリゼを座らせて、向かいの席にオレも座った。


「さっきオレと一緒にいたのがマーゴット王女殿下だ。見た目は美しい薔薇姫と言われているが、中身は脳筋のいばら姫だ。リゼが体調不良で休んでいた事もあの姫は何も考えて無いと思うから気にするな」


「薔薇姫さま、、、うっ、確かにとてもお美しかったです。輝きで目が潰れそうでした」


「オレはそんなに美しいとは思わないがな、、、。リゼの方が、、」


「いえ!マーゴット王女殿下は最高です。女神様の様でした!!推しです!!素敵ー!」


オレの話を遮って、リゼは興奮気味に語る。


リゼを心配して仕方なかったオレのことではなく、彼女は姫のことばかりを褒めるのが何となく気に食わない。


「姫のことはもういいだろ」


オレはとうとう強い言葉で彼女の話を止めてしまった。


2人の間に微妙な空気が流れる。


こんなハズでは無かった。


この二日間、リゼが心配で仕方なかったのに。


オレはスゴく会いたかったのに、、。


「すみません。興奮してしまいました。ルイス様、ミヤビから早く登校する様にと聞いたので早めに来たのですが、何かあったのですか?」


「いや、特には、、、早く会いたかっただけだ」


オレは小さな声で呟いた。


「???」


リゼには聞こえなかったのか、、、。


彼女は不思議そうな顔をして何かを考えている。


そして、急にボソボソと何かを呟いた。


「ウソ!もしかして私が悪役、、、そんなぁー!」


しかし、今度は俺が聞きとれなかった。


「どうした?」


リゼにもう一度聞いてみる。


「いえ、ヒトリゴトデス」


何だかバツが悪そうにして彼女は教えてくれない。


今度はオレがリゼの様子に怪訝な顔をする。


「ルイス様、そろそろ降りて教室へ向かいましょう。ここで長く停車してるわけにもいきませんし」


急にリゼから馬車を降りようと促された。


そして、馬車から降りたリゼはオレを置いて、さっさと教室に歩いて行ってしまった。


あー、一体何なんだ!?


リゼとの時間を全く上手く過ごせなかった自分に腹が立つ。


その日は結局、リゼと距離がある感じのまま1日が過ぎ去ってしまった。

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