第2話 王女とルイス
隣国ベルファント王国のマーゴット王女が馬車から降り立った。
薔薇姫として有名なマーゴット王女は赤みを帯びた銀髪と薄いエメラルドグリーンの瞳、透き通るような白い肌という美しい容姿に加え、学業も優秀だという。
また非公式だが、剣の達人であることも王族や貴族の間では知られている。
「ようこそ、わがランドル王国の王立学園へ」
オレは社交辞令を顔に張り付けて笑顔で挨拶をした。
「ご丁寧にありがとうございます。ルイス殿下」
優美なカテーシーで挨拶するのは隣国のいばら姫だ。
何故、薔薇姫ではなく、いばら姫なのかって?
見た目と違って、この姫は性格や行動に辛辣なところがあるからだ。
オレは幼いころからベルファント王国の兄妹と交流がある。
この姫から何度も喧嘩を吹っ掛けられたことがある。
その度、兄のロイが仲裁に飛んで来た。
彼女をとても薔薇姫なんて思えない、、、。
しかしながら、彼女の立場の問題もあり『いばら姫』は極秘事項とされている。
「ところで殿下、本日のエスコートは殿下だけなのでしょうか?」
早速、無表情で問われた。
オレを嫌いなのは分かるが態度に出し過ぎだろ。
「すまない。私の婚約者が案内する予定だったが、彼女は体調が悪く休んでいる。今日は私が学園を案内する」
詳しい病状とか聞かれると痛いな、、、。
「あら、殿下の婚約者様はお身体が強くないのですね。くれぐれもお大事にされてくださいませ」
少し鼻に笑いをかけてるような物言いに何となくカチンと来たけれども。
「御心遣い感謝する」
イライラは心の奥にしまい、笑顔で対応した。
オレはサッと腕を出し、姫をエスコートしながら学園の中へ入った。
何というか、お前たち隠れているつもりだろうけど笑えるくらい見えているからな。
オレは心の中で柱の影に潜んでいる生徒たちにツッコミを入れて廊下を姫と歩いた。
「殿下、これは見世物のようで面白いですわね。ご婚約者様は明日激怒なさるのではなくて?」
「姫、御心配には及びません。私たちは強い信頼がありますので」
「そう、それならいいのだけど、ほら、あのご令嬢方は噂話がお好きそうに見えなくて?」
横で人ごとのように笑う。
いやいやいや、そういう行動が誤解を生むんだろ!わざとか?
俺のリゼを不安にするようなことをするなよ!と一人ごちる。
「なにか言われました?」
「いえ、なにも。次は図書館の場所と利用方法をご案内します。こちらへ」
社交辞令で仕方なくやっているということを察して欲しい俺の叫びはどこかへ空しく消えるのだった。
翌朝、オレが登校して荷物を机に出していると聞こえてくる不穏な会話。
「見られました?昨日のお二人!!」
「ええ、素敵でしたわ~。美男美女で微笑み合いながらゆっくり歩まれていて」
勝手に勘違いして、うっとりしている女子生徒が二人!
ではなく、、、辺りを見渡せば、、、。
多数、発生している!?
「エリーゼ様より、マーゴット王女殿下の方がルイス殿下にはお似合いですわ!」
ひときわ大きな声で叫ぶのは噂大好き令嬢で有名なウーノ伯爵令嬢のフィフィだ。
フィフィは今までもリゼに嫌がらせをしていると影から度々報告が来ている。
野放しもそろそろ限界か?
「あら、おはよう皆さま。朝からお元気そうで何よりです。それより一限目の音楽の授業はどちらへ向かえばいいのかしら、教えていただけません?」
大きな声で皆に話し掛けながら、姫は教室に入ってきた。
何とも呑気なものだ。こっちの気も知らずに、、、。
ん?皆の視線がこちらを向いている?
まさか、俺に案内しろというのか?
オレは同級生で、同じクラスの側近アズールに念話を送る。
「アズ、姫を案内してくれないか?」
「嫌です」
まさかの即答!しかも王子(上司)の頼みを断るだと!?
オレはいい側近を持って幸せだよ。
アズ!あとで覚えてろ。
「姫、私と一緒に行きましょう」
姫はこちらを振り返って、
「ありがとう殿下、助かります」
無駄に姫は社交辞令の微笑みを返して来た。
あーますます誤解が、、、。
リゼ早く帰って来てくれ!!
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