リゼの悪役令嬢日記

風野うた

第1話 どこかの国の恋人たち

 紫の薔薇は香り高く鋭い棘を持つ。

 ああ、私の紫の薔薇よ、、。

 高貴な心をもつ、美しい彼女を想う。

 きっと会える、、、その時を待っている。






 6月2日晴れ

 今日はルイス様と我が家の庭に咲き誇った薔薇を鑑賞した。ルイス様が青いバラは珍しいと詳しく教えてくださったけど、余り理解出来なかった。やっぱり私に王妃は無理だと思う。


 

 お気に入りのアイビー柄の日記帳に今日の出来事を書きながら、私はため息をついた。


私はベルカノン公爵家の一人娘エリーゼ。


父はルーヴェンス・ベルカノン公爵。


国王の右腕として、宰相をしている。


ルイス様はこの国の王の一人息子で唯一の後継者。


私と彼は幼少期に親同士の取り決めにより婚約した。


そんな私達は今だ婚約者という感じではなくて、幼馴染?いや結構仲は良いので、親友くらいには慣れているかなという感じだ。


そして、私は長年悩んでいる事がある。


何がかと言うと、私とルイス様は全く釣り合いが取れていないのだ。


ルイス様は、紫がかった濃青な瞳とサラサラ黒髪の美男子でお勉強も運動も何でも出来る完璧王子。



だけど、私の見た目は自分ではよく分からないけど、お勉強はどんなに努力しても中の上だし、運動もそこそこ。


何より侍女たちに言わせると私は残念の塊なのだそうだ。


 残念の塊とか、あんまりじゃない?


 私が行きつけの文具店に来ていた行商の方から虹のしずくで作られたという黄色のインクを金貨3枚で購入してきた時や、ルイス様のお誕生日が12月なので体調を壊さないようにと夜なべをして腹巻を編んで差し上げた時に侍女のレンリーから「お嬢様は残念過ぎます」と言われた。


それの何処に問題があったのか、私には分からないけど、侍女その2のアンナも一緒に頷いていたから、彼女たちは分かり合っていたのだろう。


ルイス様は、リゼらしくて嬉しいよと、手作りの腹巻を受け取りとても喜んで下さったというのに、レンリーとアンナは失礼だわ。

 

そうよ、彼女たちが単純に私に失礼なだけなのかもしれない。


少し勇気が湧いて来たわ!


 明日は学園に隣国の王女様が留学して来られるとルイス様が言われていた。私は粗相しないように頑張らないと、、、、。早くねよう。




 6月3日 晴れ

 今日は朝から空に雲一つなくて、いい天気!! 

王女様をお迎えするのに最高の日じゃない?王女様どんな方なんだろう?お友達になれるといいなぁ。

ルイス様は以前隣国に滞在した時に王女様にはお会いした事があるって言われていたけど、詳しくは教えて下さらなかった。あまり親しくないのかしら?




 私は考え事をしながら、玄関に待たせている馬車へ向かうため部屋を出ようとした。


その時、ガツッ、ドタン


物凄い音とともに、私は気を失った。




「殿下、大変です!!エリーゼ様が倒れられて、本日は学園を欠席されると連絡が入りました」


「なんだと?リゼが倒れた??病気か?」


「いえ、ケガと聞いております」


オレの側近で事務官のホメロスは答えた。


「ケガ?大丈夫なのか?」


オレが問う。


「はい、ドアに足の小指ぶつけて転倒されたようです。意識がないというのがよく分かりませんが・・・恐らく大丈夫でしょう」


ホメロスが答える。


「はぁ、いつものことですね」


横から、側近で王国騎士団団長のヘミングウェイが悪意に満ちた言葉を吐く。


オレは彼を視線で一瞥し、牽制した。


「言い過ぎました」


すぐに詫びるヘミングウェイ。


ならば、口に出すなよと思う。


オレは今日のスケジュールをしばし考える。


今日は隣国ベルファント王国の王女マーゴットが我が国の王立学院に留学して初登校する日だ。


リゼが居ないとなると姫を案内するのはオレの役目になる。


急に不安になってきた。


リゼのふわっとした優しい雰囲気はオレには出せない。


どうしたものか、、まぁ考えても仕方ない。


精一杯やるしかないな。


リゼが小指を打って倒れたという事態にツッコミも入れ忘れ、オレは学園に行く準備を始めたのだった。

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