第376庫 ギルド対抗戦(予選) その1

 ギルド対抗戦が――開始された。

 大型転移陣が光り輝き、僕たちは戦姫の傷跡のフィールド上に飛ばされる。最初に目に入ったのは薄暗い大広間の様子だった。


 ……古びた壁、崩れ落ちそうな天井、どこかの建造物の中のようだ。


 戦姫の傷跡は誰も住まぬ廃都――こういった残骸は多い。他のギルドの動きを見るために身を潜めるのもありか? 

 無駄な戦闘は避けつつ、8組に残るという手もある。


「触術師クーラ、我の意思を事前に伝えておくが――襲い来るもの、全てこの手で斬り伏せていくぞ」


 フレイムが戦闘態勢を取りながら言う。

 そして、両手に持った剣を交差させ――頭上に向かって薙ぎ払った。赤黒い炎のような衝撃波が天井の一部を爆散させる。

 一体、なにを――と、思ったのも束の間、


「死ね、弱者共っ!」


 天井から落下して来た数人、フレイムが一瞬にして首を跳ね飛ばした。

 まるで噴水のごとく、大広間の床が一気に血に染まり――どこからともなくアナウンスが流れ始める。



 ――ぎ、ギルド"弓兵族"全滅、全員死亡により脱落となります。



 ギルド対抗戦は、特殊な魔法を用いて各国に中継されている。

 今の凄惨な光景を目の当たりにしたであろう、アナウンス役の引き攣った声が大きく空に響き渡った。

 転移早々死亡により脱落したギルドがでたという知らせは、参加者に対してなにかしらの意識を植え付けただろう。

 フレイムは剣に付いた血を振り払い、


「触術師クーラ、平和ボケか? あまり我を失望させるなよ」

「ひゃははっ! 狙われていたのはわかっていたが――行動が早すぎるだろ。設定に違わず狂い切ってやがるなっ!」

「無作法者、お前がすでに一人殺していたのは気付いていたぞ」


 フレイムが転がった首の一つを――蹴り飛ばす。

 額の中心に、深くカードが突き刺さっていた。この二人だけ、明らかに戦闘レベルが桁違いである。

 特に、フレイムは――この短期間でどれほどの鍛錬を積んだのか。


「戦闘狂、お前の戦い方――明らかに普通じゃねえな」

「我と同種に近しいものが、戦闘狂とは面白いことを言う」

「そんなこたぁ、今はどうでもいい。一つ教えろ、ジョブはなんだ?」

「我にはジョブなど存在しない」


 フレイムが即答する。


「ジョブが存在しねえだと?」

「生変後、新しい器にはジョブがなかったのだ。今さら神殿で授かるという気にもなれなくてな」


 その言葉が指し示す意味は一つしかない。

 先ほどの赤黒い衝撃波は、純粋に魔力を飛ばしただけとなる。スキルという決まった枠に収まる力ではないということだ。

 ナコが使う――暗波に類似したものだろう。


 ただひたすらに己を鍛え上げ、この男は新たな境地を進み続けている。

 今この段階で芽を摘まなければ、本当に手を付けられなくなるかもしれない。

 僕の視線から察したのか、フレイムが微笑する。


「触術師、クーラ――その瞳だ。我を殺したいと思えば、寝首でもなんでも掻くといいぞ」

「ありえないよ。今は――仲間だ」

「くっくっく。後悔だけはするなよ」


 そう呟き、フレイムは――剣を納めるのであった。

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