第367庫 残り一枠

「安心しろ。殺しちゃいねえよ」


 ど、どこら辺の部分が?

 以前、ゴザルも大陸龍から落下したことはあるけれど――ゴザルならともかく、普通の人間ならば絶対に死ぬ高度である。

 先に武器を抜いたのはあちらだが、こちらもキッカケになることを口にしたのは事実だ。

 僕の悲痛な表情で察したのか、


「"ソロモン"を付与しておいた。こいつはカード師のスキル――様々な効果を持っていてな、落下死する直前に発動して生き長らえているだろうよ」


 後藤さん曰く、今回は浮遊するという。

 武者姿の男をリーダー格と判断を下し、争いを即座に収めるため一刀両断したのかもしれない。

 最早、僕たちに絡んでくるものは――ゼロに等しいだろう。


 ……もしかすると、ナコやイリスの安全も考えての行動だったのか? 


 ミミモケ族というだけで、無作法に近付いて来る連中だって多い。

 少し乱暴な解決策でもあるが、効果が絶大であったことには違いない。

 やはり、イリスが懐く通り――後藤さんは優しいのか。


「ただ、この下は――一面の海だ。モンスターも大量にいやがるから、落下死は免れても喰われてるかもしれねえがな」


 前言撤回である。


「今、俺たちは4人しかいねえだろ。残り一枠、根性あるやつがいたら――スカウトする考えもあったんだがな。どうにもこうにもあの程度で騒ぐレベルじゃ、期待薄にもほどがあるぜ」


 後藤さんは言う。

 やはり、あの挑発めいた一言にはきちんと思惑があったのか――どうにも、不器用な御仁である。

 後藤さんを中二病と例えた当たり、プレイヤーの炙り出しには成功している。

 しかし、後藤さんのお眼鏡には適わずといったところか。


「我を入れろ」


 その時だった。

 威勢のある声、一人称――振り向くと、見覚えのある人物が立っていた。

 まさかまさかの邂逅に、思わず一歩後退してしまう。

 男は両腕を組みながら、威風堂々とした立ち振舞にて、


「久方ぶりだな。触術師クーラよ」


 フレイムドルフだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る