第366庫 生ゴミ掃除

 大陸龍に揺られる。

 王都までの飛行時間は――半日ほどとなっていた。

 休憩スペースも設けられており、そこでゆっくり仮眠するもよし雑談するもよし、各々自由な時間を過ごすのがベストだろう。

 以前、ゴザルが乗り物酔いならぬ――ドラゴン酔いで参っていたなぁ。


 そんな思い出を振り返っている最中、ドカドカと複数の足音が響き渡り――僕たちの周囲が取り囲まれる。

 今の時間枠はギルド対抗戦の参加者のみ、どこかのギルド連中であろうことはひと目で理解できた。

 その内の一人、武者姿の男が刀の切っ先を向けながら、


「私たちを雑魚と、聞き捨てならない言葉を放ったのは――貴様か」

「ああっ? 本当のことだろうが?」

「余程、腕に自信があるか? 貴様の珍妙な格好を見ている限り、ただの中二病を拗らせたままの大人にしか見えないがな」

「ひゃははっ! 煽ってるつもりかぁ? 俺はお前の言う大人様だからな、突っ掛かって来る子供には優しく相手してやるぜ」

「……貴様ぁあっっっ!」


 激昂、武者姿の男が刀を振りかぶった。

 ゴザルには遠く及ばずとも、熟練者とわかる動きである。文句を言いに来るだけあってか――その一振りは鋭く速い。

 だが、後藤さんの身に――届くことはなかった。


「遅えよ。そんなもんじゃあ、雑魚って言葉は撤回できねえな」

「……な、馬鹿なっ」


 カード一枚。

 後藤さんの手から出現したカード一枚だった。今の一振りを――たったそれだけで防いでいたのだ。見た目には明らかな質量差にも関わらず、カードの方が刀に割って入る形となっている。

 その異様な光景に、他の連中も動揺していることがわかった。


「この刀はネームドがドロップするレア装備なのだぞっ?! そんなカードごとき斬れないわけがないのだっ!!」

「実際、斬れてねえだろうが――よぉっ!」


 後藤さんがカードを振り払い刀を分断した。

 武者姿の男は尻餅をつき、後藤さんに圧倒されるまま後退していく。こいつがリーダー格だったのだろう、取り巻きの連中も一様に怯んでいるのがわかった。

 今の攻防で力の差は歴然とする。


「お前、俺に得物を向けたからには――覚悟できてんだろうなぁ」

「か、覚悟、だと?」

「そもそも、弱っちいくせにギルド対抗戦なんか出場するんじゃねえ。俺が今ここにいたことに感謝しろ、無駄なことしなくて済んだんだからよぉ」

「ぎゅ、ひぃはぁっ」


 後藤さんが武者姿の男の首根っこを掴んだ。

 一体、なにをするのかと思ったら――ポイっと、そのまま柵の外に放り投げた。

 静まり返る場、数秒の沈黙を間に挟み、


「ひ、ひひひ、人殺しだぁああっ!」

「あ、悪魔がいる! 悪魔がいるぞぉううおおおっ!」

「ぎぃ、ゃぁあああああっ!」


 皆弾け飛ぶように、容赦のない行動に絶叫しながら退散していく。


「ひゃはひゃははははっ! 生ゴミ掃除完了だなぁっ!!」


 愉快に笑う後藤さん。

 僕とナコはその姿を見て、震えながら抱き合うのであった。

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