第365庫 奇跡のツーショット

 黒い巨大なドラゴン、大陸龍の背に乗る。

 大人しそうな顔付きにつぶらな瞳、各国を巡るマスコット的な存在でもあり、その背中には百人ほど収容可能な籠が設置されていた。


 現在はギルド対抗戦の専用枠が設けられており、この時間帯に乗龍する人は間違いなく参加者であるとユーリさんが話していた。

 後藤さんは周囲を見渡しながら、


「雑魚そうなやつらばっかだな」


 ギロリ、ギロリ。

 皆の視線が――後藤さんに集中したのがわかった。明らかに、血の気の多そうな連中が大量に乗っている。

 今の一言でヘイトマックスか、僕は一瞬仲間であることを後悔する。

 いやいや、後藤さんには作戦があるのだろう。


「後藤さん、プレイヤーを炙り出そうとしているんだね」

「あぁ? なにわけのわからねえこと言ってやがる。普通に雑魚に見えるからそう言っただけだ」


 後藤さんは懐から煙草を取り出し、


「情報収集の意味なかったかもしれねえな」

「後藤は声が大きいの。特に悪気なく本心からそう言っているの」


 勘弁してぇっ!

 イリスが補足するが、まるで補足になっていない。

 後藤さんは景色を見ながら、ゆっくりと口から煙を吐く。なんというか、マイペースなお方としか言いようがなかった。

 というか、この世界に――煙草ってあったんだ。


「クーラ、お前も吸うか?」

「実は、人生で一度も吸ったことがないんだ」

「それなら、今さら味を覚える必要はねえな」

「意外だね。無理やり吸えって言われるのかと思ったよ」

「ひゃはは、俺にどんなイメージ持ってやがんだ。こんなもんは個人の嗜み、誰かに強制されるもんじゃねえよ」


 後藤さんは付け加えて、


「まっ、ただ一つ言えるのは――雲を見ながら吸うのは気持ちがいい。俺のくだらねえ持論だがな」

「後藤、一日3本までなの」

「はいはい。残り2本な」


 なんだか、イリスの方が保護者に見える。


「ふふ。イリスさん、後藤さんには遠慮がないですね」


 同感、僕はナコに頷き返す。

 その時、今の会話を耳にしてか――イリスがてちてちと、僕とナコの真ん中に歩み寄って来る。


「ナコ、イリスのことはイリスと呼んでいいの」

「え? い、イリス、ですか」

「わふわふ。犬耳と猫耳は仲良しさんなの」


 イリスがナコに飛び付く。

 どえぇー、なにこの愛らしい光景っ? 黒白の可憐なコラボレーション、ナコとイリスのツーショット、あまりの破壊力に目ん玉飛び出るかと思った。

 不意に、後藤さんがガンっと柵を殴り付け、


「ちっ! なんでカメラ機能がねえんだっ!?」

「……後藤さん?」

「後藤さん、じゃねえっ! クーラ、お前はなにも思わねえのかっ?! こんな奇跡のショット、ゲーム時だったら絶対に撮ってただろうがっ!」


 後藤さんとは、仲良くなれそうな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る