『SS』 Naco視点 その2

 騙されていたのだと、気付いた時には全てが遅かった。


「これはまた、レアなものを手に入れましたねぇ」

「奴隷輪の付いてねえ新品だ。高く買い取ってくれるんだろうな」

「お値段は――これくらいで」

「少し安くねえか? 猫耳持ちだぞ?」

「全くの身元不明とあらば、売買する私の方にもリスクがあります。盗賊から買う方が安心なくらいですよぉ」

「ちっ、まあいい――どうせ、拾ったものだ。それじゃ、俺は行くぜ。あとはもう好きにしてくれや」


 お兄さんが、私を置いて行こうとする。

 この二人は、私をまるで物扱いしているような会話だった。

 無理やり付けられた首輪、この後――私がどんな扱いを受けるのか、想像するのは容易かった。

 店を出る間際、お兄さんが笑顔で振り向き、


「嬢ちゃん、最後に言っておいてやるぜ」

「……っ?」

「この世界の涙なんて、腹の足しにもなりゃしねえのよ。特にミミモケ族、奴隷風情が涙流す暇あるなら――少しでも身体に水分残しておくんだな」


 酷い――言葉だった。

 胸を針で貫かれたような痛み、私には言い返す気力もない。

 悔しさ、悲しみ、怒りなどの感情が入り混じり――零れる涙の数が増えるだけだった。

 その時、私の背中に温かい手が触れる。


「……」


 ウサギ耳のお姉さんだった。

 私に寄り添い、なにかを伝えるよう口を動かしているが――言葉は聞こえない。

 会話することのできない理由でもあるのだろうか。

 だけど、今はその温もりが――嬉しかった。


「さてと、タイミングがよかったですねぇ。以前から――猫耳持ちを欲しがっていたお客様がいたんですよぉ」


 店主であろう人物が――言う。


「どのような主か、簡単に知っておいてくださいねぇ? コールディンさんという商人でして、ミミモケ族の収集が大好きな方なんですよぉ」


 今までの話から、私はミミモケ族なのだと理解する。

 やけに声が響くこと、お尻の違和感、自分の身体は――いつの間にか、馴染みのある身体からかけ離れていた。

 私の知っていた全てが異なる、私はどうなってしまったのか。


「特に女の子のミミモケ族が大大大好きでして、自分好みの服を着せては色々と楽しんでいると聞きます」


 楽しんで、いる?

 なにをどう、楽しんでいるのだろう? 私にはわからない、わからないけれど、店主の口調からは――嫌悪感を覚える。


「まあ、心配するようなことはなに一つありませんよ。大人の男をどう悦ばせたらいいかなんて――いやでも身に染み付いていきますからねぇ」


 そして、コールディンという男がやって来た。

 私を見るなり――興奮している様子がひと目でわかる。

 初対面の相手ながらも気持ち悪いと、素直にそう感じてしまった。


 乱暴に檻に詰められる。

 物みたいに扱われて、角車という巨大なトカゲの乗り物に揺られながら、これから先の未来に震えがとまらなかった。


 パパ、ママ、陽夏お姉ちゃん、皆どこにいるの?

 檻は氷のように冷たく、指先から現実感が伝わってくる。

 あの時、私は――選択を誤ったのだろう。


「……金髪のお姉さんだったら、こうはならなかったのかな」


 今さら――遅い。

 もう、私はあの人に会える術など――持っていないのだから。

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