間章

『SS』 Naco視点 その1

 これはクーラとナコが出会う前、魔法少女遭遇編の時系列です。

 クーラと同日、なにも知らない状態のままオンリー・テイルの世界に降り立ったナコのお話です。




  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 いつの間にか、知らない世界にいた。

 それがすぐに理解できたのは、たくさんの木々、見下ろした辺りに広がる雲、ひと目でそう判断できるほどに――自分がもといた場所とは一転していたからだ。

 ガヤガヤと人通りが多く、見たことのない見た目、服装をした人がいっぱいいる。


 行き交う人々が私に視線を向けているのがわかった。

 コソコソと話しながら、物珍しそうな顔付きで見てくる。

 ミミモケ族? 猫耳? どういう意味なのだろうか? やけに周囲の声が耳に届き、お尻の辺りがムズムズとした。


「ここは、どこ?」


 答えは――返ってこない。

 今日は陽夏お姉ちゃんのお誘いで、オンリー・テイルというオンラインゲームをプレイしていた。

 約束の日、誘ってきた本人は用事があるとマイペースに出かけてしまい、私は一人頬を膨らませながら街中を散策していた。

 そう、コントローラーを握って――キャラクターを動かしていたのだ。


「街中の風景が全部似てる。もしかして、ゲームの世界? ううん、私なにを言っているんだろう。そんなわけないよね」


 確か、この先には噴水広場があった。

 そこも全く同じ光景――こんなに偶然が続くだろうか? 

 一人で考えていても仕方ないと、私は勇気を出して声をかけてみることにする。


 ……丁度、噴水の側に腰を掛けているお姉さんがいた。


 外国の方だろうか? 何故か、噴水に映る自分の姿を――熱心に見つめている。綺羅びやかな金色の髪、宝石のように赤く美しい瞳をしていた。

 思わず、同性ながら――目を奪われる。


「……あ、あのぅ」


 揉みもみ、もみ揉み。

 私の声が届いていないのか――不意に、金髪のお姉さんが自分の胸を揉み始めた。

 唐突な出来事に、思考が追い付かずフリーズしてしまう。


「うーん。僕、可愛いな」


 謎の独り言。

 なにかの確認? じゃ、邪魔をしちゃ悪いから――他の人に声をかけようかな。

 噴水広場で辺りを見回していると、一人の男性と目が合った。


「嬢ちゃん、泣きそうな面して――どうかしたか?」

「ひっ」


 坊主頭、怖い見た目に怯んでしまう。

 お兄さんは私の反応を見て察したのか、両手を振りながら――笑みを浮かべた。

 身を屈めて、私と視線を合わせる。


「迷子か? よかったら、探し人が見つかるまで――俺が付いてやるぜ。ここは街中といえど、小さい女の子が気軽に出歩いちゃ危ねえからな」

「……あ、ありがとう、ございます」


 優しい言葉に、涙が零れてしまう。


「わ、私、東京という場所から来て――日本っていう国なんですけど、聞いたことはありますか?」

「あーあー、ニホン? トウキョウ? 耳にした記憶はあるぜ」


 お兄さんが頭を掻きながら言う。


「本当ですかっ?!」

「……その様子だと、嬢ちゃんは一人でここに来たってことかぁ」


 私は一人、なのだろうか。

 説明が難しい、説明することができない。パパとママ、陽夏お姉ちゃんだっているかもしれないけれど――でも、一体どこに?

 少なくとも、近くにいる様子はない。


「……多分、一人、だと思います」

「そうかそうか。それだったら、俺が丁度いい場所を知っているぜ。嬢ちゃんのような子がいっぱい――いる場所をな。そこでニホン、トウキョウについて尋ねてみるといい。詳しく知ってるやつがいるだろうぜ」


 私は頭を下げ、精一杯のお礼を伝える。

 見知らぬ土地、子供の私にできることはなにもない。お兄さんのいう場所は、迷子センターかな?


 ……知らない人には、絶対に付いて行っちゃいけないよ。


 パパとママに厳しく言われていた言葉、不安に押し潰されそうだった私は――そんな簡単なことすらも頭から消え去っていた。


「全部俺に任せておくといいぜ。俺は優しいお兄ちゃんで有名だからなぁ」


 お兄さんは私の手を握り、ゆっくりと歩き出すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る